女王陛下の青い薔薇
マイゴ海岸沖は、海の幸に恵まれた豊な漁場です。また、港には多くの異国の船が停泊して、盛んに商売を営む活気にあふれた土地でもありました。しかしながら、古来よりこの地では数多くの戦も行われてきました。そんな、場所での物語です。原稿用紙わずか10枚の短いお話です。どうぞよろしくお願いいたします。
「女王陛下の青い薔薇」
人物
黒群遥(32)王室警護隊隊長
ハイドフェルト・琴乃葉(32)クレトス国女王
オズ・雄二朗(30)クレトス国王子、琴乃葉の弟
女店主(42)中華料理店女店主
C A
大臣
○クレトス王宮・執務の間
豪華な机で執務を行う、
ハイドフェルト・琴乃葉
女王(32)
琴乃葉「密告だわ、オズ王子に
謀反の疑い・・私の地位を脅かす
弟、オズ王子を消す格好の機会だわ」
琴乃葉、ベルを鳴らす。
王室警護隊、黒群遥(32)が
執務に間に現れる。
遥「陛下、王室警護・ローズブルー隊
隊長、黒群遥、入ります!」
琴乃葉「黒群少佐、ご苦労。神の信託
により、来月10日に要人を
招いて、マイゴ地方沖で、春の晩餐会
を執り行う。すぐ現地に行き晩餐の
準備を」
遥「かしこまりました」
琴乃葉「マイゴ地方は貴方の故郷ね」
遥「私の故郷はこの王宮であります。
陛下への忠誠が私の誇りです」
琴乃葉「結構です。では一つ指令を
マイゴ地方にいる、オズ王子を
王宮叛逆罪で始末してください」
遥「オズ王子を?事故で半身付随の?」
琴乃葉「はい、命ある限り彼は私の
脅威です、では世界平和のために
よろしくお願いします」
遥「はっ!この命にかえても」
遥、敬礼して部屋を出る。
○旅客機、機内
旅客機機内、ビジネスクラスで
アイマスクをして寝ている
黒群遥、C Aやってくる。
「おやすみのところ申し訳あり
ませんが、王室警護隊、ローズブルーの黒群遥少佐では?」
遥、アイマスクをずらす。
遥「ええ、その通りです」
C A「本当はいけないのですが、
黒群少佐サインお願いできません
か、私、ファンなんです」
CA手帳を出す
遥「いいですよ、君、お名前は?」
C A「沙織です」
遥、手帳に、“沙織へ、”で始まる
サインを書いてC Aに渡す。
C A「わあ、ありがとうございます。
少佐、何か王室のお仕事ですか?」
遥「まさか、ただの休暇ですよ」
C A「応援しています。少佐」
遥「ありがとう」
遥、C Aと握手する。
○マイゴ地方・食堂「一貫路」
中華街の中華料理店、一貫路
の看板。ドアを開けて、席に
座るサングラスをかけた遥。
女店主「誰かと思ったら、遥ちゃん、
久しぶり。」
遥「おばちゃん、久しぶり、豚饅ちょうだい、それとジャスミンティー」
女店主「遥ちゃん、すごいね、今や
王室を守る精鋭部隊のエースだ
もんね」
遥「そんな、恥ずかしいよ」
女店主「でも、貴方のお父さんは
15年前、王立軍に連行されて・・」
遥「あいつは父でもなんでもない、
ただの売国奴よ、死んで当然」
遥のテーブルの豚饅と
ジャスミンテーが置かれる。
遥、饅を頬張る。笑顔になる。
遥「美味しい」
女店主「ここは、貴方のホームなん
だからまたいつでも帰っておいでよ」
遥「ありがと」
ゆっくりジャスミンティーを
飲みながら、写真を見る遥。
遥と、琴乃葉、オズ・雄二朗と
女店主が写っている。
○マイゴ、海沿い公園
晴天、海沿いの公園を歩く遥。
鳩を追う子供、
15年前の戦争で壊れた堤防
を保存した場所の前に立つ遥。
膝をつき、目を閉じる。
遥「たとえこの命尽きるとも、世界中
全ての人に幸運があらんことを」
公園でオズ・雄二朗(30)
絵を描いている。右手が
不自由で左手で書いている。
遥、ポケットから拳銃を
取り出し背中に隠してオズに
近ずく。
遥「15年前からずっと描いておら
れますね」
オズ「はい、15年経っても完成し
ません。この絵には何かが足りない
のです、でもそれが何か僕には
わからないのです」
遥、赤い絵の具を手につけて
キャンバスに赤色を擦りつける。
オズ「何をするんですか!?」
遥、サングラスをとる。
遥「足りないのは、赤い血よ、オズ王子
うわべだけの優しさでは誰も
救えない。世界を救うためには誰か
が犠牲になることが必要なんですよ」
オズ「貴方は誰ですか?
僕は愚かですから、貴方の言葉の
意味がわからない・・
ですが、ぼくは世界で一番大切な
人が幸せでいてほしい、そう思って
絵を描いています」
遥「それは、琴乃葉お姉さまの事
ですか」
オズ「事故にあってから僕の頭には
霧がかかっていて、何もわからない
です。しかし左手で絵筆を動かし
ていると、少しだけ過去の事を
思い出せる気がするのです」
遥「オズ王子。かつて左手で烈火の如
く自在に剣を操ったまごうことなき
天才。それが今や廃人同然・・」
オズ「誰かさん、僕のことを撃ちに
来たんでしょう。どうぞ、
僕の血で誰かが幸せになるなら、僕
は喜んで撃たれましょう。僕はもう
充分に生きた気がします」
両手を上げて笑顔のオズ。
遥、オズの笑顔を見て、右目
から自然と涙が流れる。
また、絵を描くオズ。
○海岸沿いの道路(夕)
全力疾走する遥。
遥(M)「私が守るべきは、世界
全体か、それとも、かつて世界で一番
愛した、たった一人の男か」
遥、ゆっくり歩く。
遥「アホらし、私何無理してんねん」
○王室船ロイヤルプリンセス・甲板
クレトス国女王、美しく
着飾った
ハイドフェルト琴乃葉(32)、
甲板に上がる。甲板には各国
の要人が談笑している。琴乃葉
が姿を見せると感嘆の声が上
がる。
大臣「女王様、まるで宝石のよう」
琴乃葉「みなさま、息災で何よりです」
警備服に身を包んだ遥、女王の
隣に立ち、女王を警備する。
遥、右の服の袖下に仕込んだ
ライター型小型拳銃を掌に
握る。遥の手が震えている。
琴乃葉「遥、弟のオズは始末したか?」
遥「は、仰せの通りに」
遥の手が滑り、ライターが
床に落ちる。
遥「あ!」
琴乃葉、ライターを拾い、遥に
手渡す。遥の体が震えている。
琴乃葉「のう、黒群、ここにおるもの
全て人間の皮を被った妖怪じゃ、
お主、そう思うわんか?」
遥「申し訳ありません、それには
お答えできません、私はただの
警備兵ですので」
琴乃葉「わしの体にもきっと緑の血液
流れておることよのう、遥、そう
思わんか」
遥「王女様、容易にお話をなさらぬ
ように、私はただの警備兵です」
琴乃葉「若き日友と食った豚饅さえ
食えぬ不自由な毎日、遥よお」
遥「陛下、誰かに聞かれます」
琴乃葉「豚饅、買ってきてくんない?」
遥「陛下、私、陛下のお気持ちを・・」
大臣「陛下、どうなさいましたか!?」
甲板がざわつき始める。
琴乃葉「謀反だ、どこかに狙撃者が
紛れ込んでいる!」
遥、混乱に乗じて甲板を降りる。
琴乃葉「だが、案ずることはない、
王室警護隊、ローズブルー隊隊長に
今、特殊任務を命令した、
黒群少尉は解決するまで戻らぬ」
○マイゴ、海沿い公園
夕方のマイゴ公園、ずっと
キャンバスに絵を描くオズ。
絵には、遥の姿がたされている。
オズ「やっと、絵が完成しました、
しかし、この女性は誰かしら」
オズ、微笑んでいる。
F I N
舞台は「ベルサイユの薔薇」をイメージして、「ガラスの仮面」の劇中舞台、「二人の女王」の感じで、進めました。あと、大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」の頼朝と義経の関係はかなり意識しました。ベースは、僕が予備校時代過ごした神戸の街です、それを異世界風に、アレンジしていきました。神戸には阪神淡路大震災の時の崩れた堤防が保存してあり、それを戦争と重ねました。神戸には実際に一貫楼という豚饅屋さんがあり、予備校生の時よく食べました。オズ王子がかつて剣術使いだった件は、明日のジョーで、カーロスリベラが、廃人になり「あの稲妻みたいなパンチが・・」とジョーがつぶやくシーンが浮かんできて描きました。あとセリフは、漫画「銀魂」にかなり影響を受けています。何度も書くうちに今の形になりましたが、映画「フォルトゥナの瞳」や、飛行機のシーンは、映画「オネアミスの翼」のシーン、その他たくさんんの作品に影響を受けて描いました。つぎはぎだらけの、パッチワークのような作品ですが、自分が大好きだったたくさんの偉大な作品に敬意を表して書きました。一生懸命書きました。