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エッセイ

私には予知能力があります

 これを言うとうざがられるのはわかっていますが、私には予知能力があります。


 いつの頃からかはわかりませんが、薄々気づいていました、自分が近い将来に起こることを言い当てられることに。


 はっきりしたのは大学生の頃、先輩に連れられて競艇場に行った時でした。





 私は競艇なんてまったく興味もなく、やったこともありませんでした。先輩2人が新聞を見ながら予想を立て、券を買って、あぁ……と残念がるのを横から見ているだけでした。


 ボートが走るのを眺めていてもつまらないので、第2レースからは私も新聞を見て予想を立てはじめました。


『1位と2位を当てればいいんだな』


 そう思いながら新聞を見つめ、次のレースの表をぼんやりと眺めていると、ぼやーっと光るところが2箇所、浮かび上がって来ました。


 レースが始まりました。先輩2人が買ったボートはまたもや後ろのほうでゴールインしました。


 1位と2位を飾ったのは、私が新聞を見つめていて光とともにぼやーっと浮き上がったその2台でした。その時はたまたまだと思っていたのですが……


 次のレースも、その次のレースも、私は新聞を見つめました。やはり2箇所がぼやーっと浮かび上がる。そしてその2台がゴールインしました。でも私はついて来ただけだったし、券の買い方も知らないし、お金もないしで買うことはしませんでした。口数のごっつい少ない性格ですし、胡散臭いやつと思われるだろうので、先輩達にも何も言いませんでした。


 最終レースの前まで先輩2人は予想を外し続けていました。一つも的中しません。


 しかし私は……8レースぐらいだったか、そのすべてのレースの結果を的中させていたのです。


「次で最後かぁ」

「全然ダメだったね」


 肩を落として話し合う先輩の間に割って入り、私は勇気を出して言いました。


「先輩! 実は私、今までのレース全部予想して、全部当ててました!」


「ハァ?」

「あんたボートのことなんにも知らない素人でしょうが」


「知らないけど、それがかえっていいのかもしれません。最終レース、私を信じてみてくれませんか?」


 2人は顔を見合わせました。どうせ自分らは負け犬だからと思ったのか、最終レースは私を信じて、私の予想した2台に全額を賭けると言ってくれました。


 私は選ばれた戦士のような気持ちになり、責任感をひしひしと肩に感じながら、新聞を眺めました。勝てばお金になる。帰りに美味しいものを奢ってもらえる。何より2人からヒーローとして持ち上げられることだろう。ドキドキワクワクしながら、光とともに2箇所が浮かび上がって来るのを待ちました。


 しかし、この時に限って、浮かび上がって来ないのです。


 私は焦りました。立体画像を見るように焦点を遠くに離し、文字がぼやけるまでアホの目つきになって、必死に予知能力を働かせようとしました。


「4番……9番」


「おおっ!」

 先輩2人がノリノリでした。

「来たら結構デカいぞ、これ! よっしゃ買って来る!」


 そしてその最終レースだけかすりもせず外れ、私は先輩2人から胡散臭い嘘つきのレッテルを貼られ、終わりました。実は私は最終レースだけ予知能力が働かなかったのに、ただのカンでテキトーに番号を言っていたのです。


 なんだろう。欲が入ると予知能力が働かないんだろうか。


 その時はそう思いましたが、そのすぐ後、私は自分の力が本物であることを確信することになります。





 競馬でした。


 その頃私は母が持っていた宮本輝さんの小説『優駿』を読んで競馬に興味をもち、近くに馬券売り場はありませんでしたが、母の知り合いにパソコンで馬券を買ってくれる人がいたので、馬券を買うようになっていたのです。


 日曜日はいつもアルバイトで、遊園地の中のはずれでポテトやフライドチキンを売る小さなお店を任されていました。


 アルバイトをしながら、暇を見つけて競馬新聞を開くと、それを眺めました。


 やっぱり、ぼやーっと浮き上がって見えるところがあるのです。


 私はそれを買いました。


 的中しました。


 やはり自分には予知能力があった。これで私、毎回馬券でウッハウハだ!


 その時は、そう思っていました……。



 アルバイト中にラジオで競馬中継を聞いていたのですが、最終レースしか買わなかったので、5時前とかになるとそろそろ閉店の時間で、売り物もほぼ完売で、お客さんも少なくなっていました。片付けをしながら、レースが始まるとラジオの前にひっつくように、ゆっくり興奮しながら1人で実況を聞いていました。


 ここであることに気がついたのです。


 ラジオを聞いていて、レース中、誰にも話しかけられずに最後まで聞けた時は100%的中する。


 でも、ラジオを聞かなかったり、馬が走っている途中に誰かに話しかけれたりしたら、100%外れるのです。


 でもアルバイト中に誰かから話しかけれないようなことをするわけにも行かないし……。


 とはいえ不思議なぐらいに、暇な閉店前の時間だというのに、ラジオを聞いている時に限ってお客さんが来て、「ポテトくださーい」「フライドチキンまだありますかー?」と話しかけて来るのです。


 負けてもどうせ1000円、勝ってもせい私がぜいそれが数倍になるだけなので、仕方なく身を任せていました。



 大きなレースがありました。


 確か有馬記念だったと思います。レースがそんな重賞だったこともありますが……


 その時、私の予知能力が浮かび上がらせた2頭が予知の通りにフィニッシュすれば……


 万馬券だったのです。


 確か的中すれば1000円が26万円ぐらいになるはずでした。私はレース前に片付けをしながら園内を見渡しました。お客さんはもうほぼ帰っていて、誰も歩いていません。


 それでも念には念を入れました。


 5時までは開けておかないといけない店を、レースが始まる直前にシャッターをガララと閉めてしまい、誰にも話しかけられないようにしながらラジオの実況に集中したのです。


 社員さんもみんな中で片付けをしていて、無理やり店を閉めてしまったことに気づいている人は誰もいないはず。


 レースが始まりました。私はドキドキワクワクしながら耳を傾けました。


 私の買った馬の一頭が、逃げます。最後の直線まで、逃げ続けました。


 アナウンサーが叫びました。

『おーっと! ここで後方から●●が飛んで来た! 凄い差し脚だ! グングングングン先頭に迫るーーっ!』


 来た……。


 飛んで来た!


 私の買った馬が2頭、続けてゴールインだ!


 そう思って手を振り上げて喜びかけた時でした……


「あの〜、もう閉店ですか〜?」


 横のドアがガチャッと開いて、お子さんを連れたお母さんから声をかけられたのです。


「ポテト欲しいんですけど〜」


 まさか閉店した店に誰か入って来るとは思わず、横のドアに鍵をかけていなかったのです。私は手を振り上げたまま、しばらく何も答えずにラジオに耳を傾けながら、固まっていました。


 アナウンサーが叫びました。

『ああっ! 伸びない! 伸びなーい! 追い上げて来ていた●●、ズルズルと下がって行く! 逃げていた▲▲も力尽きて後ろに下がって行くーっ!』


 嘘だと思われるかもしれませんが、実話ですよ。


『勝ったのは本命の○○、2着は対抗の△△! 人気通りの結果となりました!』


 私はようやく振り向いて、返事を待っているお客さんに、言いました。


「ポテト……ですね?」




 あれから馬券は買っていません。



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― 新着の感想 ―
[良い点] え、かっこいいー!すごーい! 完全に操れないところが逆にリアルですねー! これで半分実話の小説書いて欲しい…。 [一言] 私には重要イベントがない年は新年のおみくじ大吉当てられるっていうの…
[良い点] おおっ!!例の能力ですね(´艸`*) まさかそんなことがあったとは。 制限付きなところがたまりません。何とか一攫千金をと思ってしまいますが、難しいんでしょうね~(;´Д`)
[良い点] 面白い!! 凄く良い日常系ファンタジーだなと思ってから小説情報を見たら、 ジャンルがエッセイ……ですと!?!? えっ、これ、実話なんですか!? 実話じゃなくても面白いからいいんですけどね…
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