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サクヤ

 ヒトにはその存在を知られていない猫の国を出て、唯一のヒトとなる主人を見つける為と、ヒトになる為に彷徨っていると、茶色い土を眺めて泣きそうになっている白い子犬を見かけた。


 俺よりは図体がデカイくせに、耳と尻尾をぺたりとさげて、途方に暮れている様子がなんとも情けなくて、黙って塀の上からソイツを眺めている事ができなかった。


「そこで、飢え死にする気か?」


 その子犬に、そんな風に話しかけていた。


 我ながらオヒトヨシだとは思う。


 主人を失って、墓であるソコから動けないでいるんだ。


 そこでそのまま死なせてあげるのも、一つの選択だったかもしれない。


 その子犬、ナオは、主人を大好きなヒトだと呼んだ。


 そんなに好きならと、墓守の事を教えてやった。


 ナオはキラキラした目で俺を見た。


「またミオに会える?」


 と。


 ナオは何も知らなかった。


 狭い塔の中で過ごしていたから、何も知らなかった。


 だから、俺がイチから色々と教えた。


 墓守や寿命の事もだが、エサの取り方に水の確保の仕方も教える必要があった。


 その中で、“死”について知ったナオは、主人の墓の前で涙を隠しもせずに、わんわん泣いていた。


 死とは、その人との永遠の別れ。


 もう二度と会えない。


 どんなに好きでも、死んだらそこでお終いだ。


 全ての関係が断ち切れてしまう。


 生まれ変わって会える保証もない。


 でも、俺やナオは違う。


 猫の国や犬の国から来た俺たちなら、もう一度大好きな主人に会えるかもしれない。


 その手段があるんだ。


 だから、ナオに言ったんだ。


「頑張って生きろ」


 と。


 ナオの主人の為に、一度だけ白い花を摘んできてやった。


 殺風景な茶色い土の上に、白い花を置いてやる。


 花を置いてやる意味も知らなかったナオに、主人が眠る場所が寂しいのは可哀想だと教えてやった。


 出来れば、静かで陽当たりの良い、暖かい場所がいいのだと、教えてやった。


 ナオは、明日からは毎日自分が花を運ぶと俺に話した。


 こいつはもう大丈夫だ。


 ちゃんと、自分がやる事を理解した。


 ちゃんと、明日からは1匹でも生きていける。


 だから、俺はナオに別れを告げた。


 俺は旅の途中だ。


 俺は、俺の主人を探している。


 ナコ。


 俺のオヒトヨシは、きっとこいつ譲りだ。


 ナコは、何処に行ったのかも、何処に居るのかも、生きているのかも分からない。


 主人の墓守ができるナオが羨ましい。


 少なくとも、また巡り逢える可能性を自分でつかむ事ができるのだから。


 主人に再会すら出来ていない俺は、それすらも望むことはできない。


 何処に行ったのか。


 何処に連れて行かれたのか。


 主人を探し、旅は続く。


 再会できるその日を切望して。












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