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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第98章 戻ったよ

赤軍と白陸軍が苛烈な戦闘を行っている頃、南側領土の前衛である咲羅花桜火の領土には奇妙な出来事が起きていた。



城の衛兵が慌ただしく動き回っている。



完全武装で天上門へと出陣していった。



桜火自ら騎馬隊を率いている。



そして天上門へと着くとそこには大勢の冥府軍が立っていた。





「冥府の侵攻ですね!! 天上界全域に通達!! 白陸と赤軍の戦闘は即座に停止!!」

「ま、待ってくれ!!」





1人の冥府兵が桜火の前に走ってきた。



護衛の騎兵は槍を構えて冥府兵を取り押さえる。



馬上から見下ろす桜火はじっと冥府兵を見ていた。





「お、俺らは冥府兵じゃない!!」

「無理ありますよ。 冥府から来ておいて。」

「そ、そうなんだが・・・大昔に冥府に捕まった捕虜なんだ・・・」






必死に話す冥府兵を桜火は殺すべきなのか考えていた。



だが強力な第六感を宿す桜火は目の前にいる冥府兵に敵意がない事を感じていた。



馬から降りて近づいていくと冥府兵の前でしゃがみ込んだ。





「私はエリュシオンから来た者です。」

「なんだって!?」

「あなたが元天上軍だと証明できますか?」





冥府兵は怯えながらも必死に桜火に話していた。



彼は声を震わせながら「俺を助けてくれた方がいる」と話した。



桜火は眉にシワを寄せて「誰ですか?」と返した。





「希望も何もない日々だった。 そこに光を差してくれた存在。 男の名を鞍馬虎白と言います。」

「虎白様!?」

「ご存知ですか?」





桜火は驚きながら「知らない者なんていません」と目を見開きながら話した。



冥府兵は「やっぱり有名になったのか」と下を向いて笑っていた。



安堵したのか天を仰ぎながら涙を流していた。



桜火は彼らを一度領土にまで連れていくか考えていた。



しばらく目を閉じて考えていたが目を開くと「ここに一度野営を作ります」と答えた。





「冥府からの追手が来てしまいます!!」

「生憎虎白様はお忙しいのです。」

「そ、そんな・・・」





桜火は困った表情で「あなたの名前は?」と尋ねた。



長い年月冥府で暮らした男は「カインと申します」と答えた。



桜火は名前を記録すると白陸へ使いを出した。



それまでは桜火と護衛が野営地を守った。



この男を覚えているだろうか?



かつて虎白が蛾王国の王妃である鈴を救出に出た時に解放した天上軍捕虜達だ。



カインと言えば最愛の相手に再び会うために必死に生きたが、最後の最後でルシファーに追いつかれ、蛾苦と共に残った男だ。



彼がどうしても会いたかった女性の名はハンナ。



後に白陸軍第1軍で宰相竹子の白神隊の少佐にまで出世するハンナの彼氏だ。



カインは天上界に戻れた安堵感から気を失う様に野営で眠った。





「もうすぐ会えるぞ・・・」





眠りながらも口にしてしまう愛する人との再会。



隣で相棒のテールが嬉しそうに微笑んでいた。



やっと天上界に戻れる。



夜空を見上げるテールはその事実が信じられなかった。



やがて朝になると桜火の兵士がカインを起こしに来た。





「起きろ。 桜火様がお話があるそうだ。」

「は、はい!!」





カインは武器を持っていないか入念に調べられて桜火の待つテントへと向かった。



テントに入ると鮮やかな着物を着て髪を下ろす桜火が朝食を食べていた。



机にはカインの朝食も用意されていた。





「よかったらどうぞ。」

「ど、どうも・・・」






不思議な空気の中で朝食を食べている。



桜火は泣きながら食べるカインを見て優しく微笑んだ。



何十年ぶりかに食べた天上界の食事は信じられないほどに美味しかった。



野戦用の簡単な食事でさえご馳走だった。





「随分と長い年月冥府にいたんですね。」

「もう覚えていませんよ。」

「そうでしたか。 では色々と質問しますから正直に答えてくださいね。」






食事を終えると桜火は机の上に紙と筆を用意してカインの話を聞き始めた。



「どうして逃げられた?」と尋ねられるとカインは「脱走してきました」と返した。



少し眉にシワを寄せた桜火は「それはわかっていますよ」と小さく話した。





「冥府軍の兵力がここ数年で大幅に減り始めたんです。 兵力不足に悩んだ冥王は我々捕虜も動員し始めました。」

「なるほど。 それも虎白様の影響ですね。」






カインと別れた後に虎白はメテオ海戦、アーム戦役、エリュシオンやイーライとの戦いと様々な死闘を繰り広げたが冥府軍は毎度大勢の戦死者を出していた。



その事でカイン達捕虜にも影響があった。



強制的に兵士とされて動員された。



だがそれはカイン達にとって千載一遇の好機となった。



魔族の指揮官達を全て暗殺して天上界にまで逃げてきたのだ。





「もう必死でしたよ。 ここに来るまでにも大勢死にました・・・」

「そう・・・」




桜火はカインの話を聞いて筆を走らせていた。



会話の内容を記録している。



そして次に「どうやって助かったのですか?」と尋ねた。



魔王ルシファーに迫られて蛾苦まで殺されたあの戦いでどうやって今日まで生き残ったのか。





「驚きましたね・・・虫の王を殺して我々も殺すのかと思ったのですけどね・・・再び労働力に変えられました・・・」

「殺すより使われましたか。」

「そうなりますね。」





桜火は筆を止めると「いいですよ」と笑顔を見せた。



天上界への帰還を許すという連絡が赤軍と戦う虎白から降りたのだった。



白陸への移住のみが条件だったがカイン達は快諾して生き残れた事に歓喜して涙した。






「やったなあカイン!!」

「お前のおかげだよテール。」

「これからどうする?」

「まずはハンナに会いに行く。 あいつ何してるんだろうなあ・・・」




そして桜火の護衛の元で白陸へ戻ったカイン達は白陸軍に引き渡された。



初めて見る白陸の光景に言葉を失っていた。



和風の建造物が立ち並んでいるがその雄大さはまるで王都オリュンポスの様だった。





「虎白様はやっぱり天才だったな・・・」





カインはウロウロと歩いていた。



そして店に入ると食事を始めた。



ハンナに会うためにテールと話していると店主が近づいてきた。





「あんたらハンナ少佐を知っているのかい?」





店主の言葉に飲み物を吹き出したカインは咳き込んでから聞き直した。



「しょ、少佐!?」と大声で尋ねると店主は暗い表情になっていた。



ため息交じりの声で店主は「俺は元白陸兵だよ」と話していた。






「そ、それでハンナは!?」

「数年前に戦死したよ・・・」

「え・・・」



カインはその場に崩れ落ちると放心状態になった。



テールも驚きのあまり言葉が出なかった。



どうしてハンナは少佐になったのか。



カインは黙り込んでいると店主が「ためらいの丘」と呼ばれる場所へ行けば会えると話していた。



まるで操られる様に店を飛び出してためらいの丘へと走った。






「なんでだよハンナ・・・ハンナー!!!!」





ためらいの丘へと着いたカインは「白陸軍戦没者」と書かれる場所へと入った。



そこには数え切れないほどの墓標が並んでいた。



中でも立派な墓標の前に立つと「白神隊戦没者」と書かれ綺麗な花が供えてあった。



「ハンナ少佐天上門防衛戦似て戦死」と書かれている墓石の前で崩れ落ちた。






「嘘だろ・・・ああああああああああー!!!!!!!!!!!!」






カインは泣き叫んでいた。



すると2人の男性が会話をしながら現れた。



初めて見るカインを不思議そうに見ていた。



1人が口を開いて「誰だお前?」とカインに顔を近づけていた。






「お、俺・・・ハンナの恋人なんです・・・」






2人は顔を見合わせていた。



すると色黒の男性が近づいてきて「俺の嫁はあんたの恋人の部下だったんだぜ」と墓石に書かれる「リト少尉」という名前を指差していた。



「俺は健太ってんだよ」と名乗るとカインも名乗った。



すると健太の隣で立つ白い肌の男が近づいてくると「白斗と申します」と口を開いた。






「こいつはなあ。 虎白さんの息子なんだよ。」

「そうなんですか・・・」

「よろしければハンナと話をしますか?」





白斗は墓標に手を当てて目をつぶった。



するとカインにも手を伸ばして「俺の手を握ってください」と話していた。



不思議そうに白斗の手を掴んだ。





「第六感・・・ハンナ。」

「んー? 白斗殿下? どうしましたか?」

「どうぞ。 話してみてください。」





白斗の強力な第六感。



到達点にいるハンナとカインの意識を自分を通して繋ぐ。



確かにカインの脳内には愛するハンナの声が聞こえていた。



当然我慢できなかった。



カインの目からは滝のように涙が出ていた。





「ハンナー!!!!!!!!!」

「え、そんなはずない・・・だって大昔に死んだって・・・」

「生きてたよ!! 何年も何年もずっとお前に会うために必死に生き抜いたんだ!!! それなのに・・・どうしてだよ・・・どうしてお前が死んでしまったんだ・・・」






白斗の純白の手に顔をつけて泣いていた。



健太は腕を組んで見ていた。



カインの号哭がためらいの丘に響く。



ずっと会いたかったハンナが戦死して死んだと思われていたカインが生き残った。





「どうしてだよ・・・」

「ごめんね。 まさか生きていたなんて。 信じて待つべきだったよね。 あなたの復讐をするために白陸軍へ入ったの。」

「泣き虫のお前に兵士なんて・・・」

「頑張ったんだよお私だって。」






ハンナは未熟な兵士だった。



泣き虫で弱くて。



しかしそんなハンナを支えた存在が大勢いた。



責任感を背負い成長していった。



気がつけば私兵の少佐になるまでに。





「お前が少佐か・・・」

「会いたかったよ私だって。 でも兵士になった事は後悔していないの。 本当に幸せだったの。 今は仲間がいるの。」






ハンナを支えた仲間も皆ここにいる。



カインに再会できなかった事は残念だったが決して寂しいわけではなかった。



何故なら必ずまた会えるからだ。



ハンナの声は清々しかった。





「また必ず会えるから。」

「そうだな・・・」

「それまで元気でね。 大丈夫だから。 私はここにいるからね。」

「は、ハンナ・・・」





白斗は目を開いた。



「大丈夫ですよ」とカインの肩を優しく触った。



立ち上がったカインは泣きながらも笑っていた。



すると健太が近づいてきた。





「お前の気持ちは痛いほどわかるぜ。 俺の嫁もあっちにいるからよ。」

「寂しいですね・・・また会いたい・・・」

「会えるさ。 それまでしっかり生きようぜ。 お互い笑われちまうからよ。 あんたうちの会社来な。」

「仕事をくれるんですか?」





力強くうなずいた健太はカインを連れてためらいの丘を後にした。



「リト建設」に入社したカインは残りの時間を精一杯生きた。



後にカインは取締役にまで出世するがまだ今の彼には不可能だ。



まずは心の傷を癒やしていく事だ。



健太のリト建設は退役した白陸兵などを積極的に雇用していた。



またゆっくり歩き始めればいい。



心の傷は完全には消えない。



だが癒やしていくしかない。



大丈夫。



必ず英雄達が見守っている。

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