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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第96章 護符の行く宛は

レーダー基地を破壊して戻ったナイツのホーマーは瀕死の赤軍兵士が懐から出しかけたジャガーのお守りを手に持っていた。



タバコを吸いながら不思議そうに見ていた。



隣でジェイクが同じく不思議そうに首を傾げながら歩いていた。





「てっきり手榴弾でも出すのかと思って撃っちまった。」

「でもこれ赤軍の連中が持っているにはおかしくねえか?」






ジェイクはこのジャガーが誰のために作られた物か知らなかったが赤軍の兵士が持っている事に疑問を感じていた。



ジャガーは剣を持って吠えている様にも見える。



そして何よりジャガーが着ている制服は白かった。





「うちの兵士を殺して奪ったんじゃねえか?」

「確かになあ。 ボスに聞いてみるか?」





彼らが「ボス」と親しみと敬意を込めて呼ぶ者は白陸の宰相にして特殊部隊の長官を務めるエヴァ・スミスの事だ。



基地を破壊して虎白へ報告へ向かう途中のジェイク達はエヴァの身に何が起きているのか知らずにいた。



エヴァが率いるナイツは白陸軍の中でも頭一つ飛び抜けた精鋭だ。



厳しい試験を合格した少数精鋭の彼らは他の私兵とは異なり、正規兵の前に現れる事はなかった。



白陸軍の中でも彼らの存在を知っている者は少なかった。



宰相エヴァの顔は更に知られていなかった。



生まれつき左右の瞳の色が違うエヴァは自分の美貌を認めず、人に見られる事を極端に嫌った。



そんなエヴァのコンプレックスを守るかの様に虎白がエヴァに任せた部隊は極秘部隊だった。



純白の制服を着る白陸軍とは異なり漆黒に包まれるナイツの制服は誰が見ても白陸軍には思えなかった。



すると遠くから怒号が聞こえ、ジェイク達は警戒しながら近づいた。





「ワオ。」

「味方だな。」

「ありゃヤベえぞ。」






ジェイク達が見る先には30名ほどの白陸軍が100名近い赤軍に襲われていた。



任務はレーダー基地の破壊と速やかに虎白への報告。



目の前で襲われる白陸兵は任務外だ。



何よりも白陸軍にも存在を知られてはならないナイツ。



ホーマーが「仕方ない」と諦めた途端ジェイクはライフルの残弾数を確認すると迷う事なく白陸兵の元へ歩き始めた。





「へ、ヘイ! 不味いぜ。」

「バカ言ってんじゃねえよ。 味方を放って置けるか。」

「白陸軍はそこら中で苦戦しているんだ。 こいつら助けても他にも大勢いるんだぞ。」

「じゃあそいつら全員助けてやるよ。」






ジェイク・ブリッチャーとはそういう男なのだ。



第1の人生からエヴァとは幼馴染。



左右の瞳の色が違うエヴァは酷いいじめを受けていた。



そんなエヴァを救ったのもこのジェイクという男だ。



彼は守護神だ。



目の前で誰かが危ない目に合っているのに命令に従えるほど真面目な男ではない。



昔から学校にも行かずにバイカーチームを率いたり、強姦をするマフィアを1人で壊滅させたりと彼の英雄伝説は地元では有名だった。



正義感の化身の様なジェイクが死にゆく白陸軍を見捨てるわけがなかった。



対して第1の人生から特殊部隊に所属していたホーマーは命令に忠実だった。



海兵隊出身のジェイクは命令より「正義」を重視した。





「キングフォックスが何だってんだよ。」

「命令違反だぞ・・・」

「上等だよ。 死にゆく味方を救って怒る様なフォックスならエブは惚れねえよ。」





ホーマーは唖然としたが次の瞬間には吹き出して笑っていた。



「違いねえ」と笑っている。



ジェイクが率いる25名のナイツは静かに配置につくと、そっとコッキングレーバーを引いて照準に赤軍の兵士を合わせた。





「ほんと。 お前は守護神だよ。」

「行くぜみんな!」





俺は兵士であり、戦士だ。



この戦いは俺達の戦いだ。



いつの日か手にするものは自由と栄光。



ああ天使よ。



無様に生きるより栄誉に満ちた死を与え給え。





「ロックンロールだ!!」





ジェイクの一声でナイツは一斉に射撃を始めた。



その精度ときたら恐ろしいものだ。



次々に赤軍兵士は頭部を撃ち抜かれていった。



驚く白陸軍も落ち着きを取り戻すと反撃を始めた。





「キープシューティング。」





撃ち続けろ。



救いを求める者が救われるまで。



これは奇跡だ。



俺の視界に味方が映った事が奇跡なんだ。



白陸兵よ。



お前らは神に愛されている。



だから神は俺を遣わした。



それだけの事だ。





「全滅したか。」

「最高だぜジェイク!」

「白陸兵に見られるなよ。 撤退だ。」





そして姿を見せる事なく離脱していく。



救われた白陸兵は歓喜しているが、礼を言う相手はゴーストの様にその場から消えている。



一体どこの誰が助けてくれたのか。



白陸兵はただ感謝した。






「もうすぐで白陸軍の本軍に合流するな。」

「ボイド。 仲間を連れて隠れておけ。」

「ラジャー。」






ジェイクとホーマーとフレデリックの3人だけが白陸軍の制服に着替えると虎白の待つ本陣へ戻った。



他のナイツは姿を隠した。



誰一人として白陸兵を助けた事を自慢気にしていなかった。



当然の事だ。



感謝されたいわけでもない。



見捨てる事だってできた。



だがジェイクが助けると言うならそれが命令。



キングフォックスの命令なんて俺達には関係ないね。



そんな表情をしながら地面に倒れ込んで草に紛れて姿を隠した。





「キングフォックス!!」

「おう。」





ジェイクは自慢げにしていた。



レーダー基地を派手にぶっ壊してやったと。



激怒する虎白から何を言われても気にもとめずにホーマーとハイタッチをしていた。



するとエヴァがまだ戻らない事を聞かされた。



捜索に出る様に命令されたジェイク達は直ぐに向かった。



するとホーマーは立ち止まって虎白の前に立った。





「何だよ?」

「これ誰のか知らないですか?」

「ああ?」

「赤軍の兵士が持っていたんですけど白陸兵に見えませんか?」





ホーマーはジャガーのお守りを虎白に手渡した。



虎白はジャガーのお守りを見てため息をついた。




「これはあいつだろ・・・」




丁寧に縫われているお守りには血の匂いがした。



嗅覚に長ける虎白はその血が1人や2人の血ではない事まで嗅ぎ分けた。



悲しそうに眉間にシワを寄せて黙り込む。



隣の馬上で下を向く竹子にもこれが誰の物なのかわかっていた。





「どうするの?」

「第六感・・・」






触れた物の記憶を辿る事ができる虎白の強い第六感。



ジャガーのお守りを手にした者達が次々に倒れていく姿が見えていた。



更に眉間にシワを寄せている。



不思議なまでにこのお守りを手にした者達は大切に持っていた。



物には念が宿るとはこの事か。



ペップの熱き思いが敵味方問わず、伝わっていたのか。





「病院で眠る夜叉子に今渡すのはあまりに酷だな・・・誰が死んだかもまだわかっていないはずだ・・・」





重傷を負った夜叉子は後方の野戦病院で眠っている。



高熱を出してうなされているとも聞く。



部下を失った事に気づいているのだろう。



そして夜叉子の強力な第六感が死にゆく我が子達の最後の声を聞いている。



「お頭お世話になりました」と。






「早く終わらせねえと・・・」





虎白の脳内で蘇る大勢の部下達との別れ。



下界で戦ったあの日から失い続けた。



赤備えの与平や冥府に残った捕虜達。



中でもカインという男は後に竹子の白神隊の少佐にまで出世するハンナの恋人であり、ハンナが白陸軍に入隊したのもカインが戻らなかった事にあった。



ハンナを育てた平蔵や赤備えを離脱して天上界に来た太吉も今は亡き英雄だ。



今ではそのハンナも部下のリトと共に到達点にいる。



そして夜叉子が格別に可愛がっていたペップも兄貴分のサガミと共に到達点へ。






「一体どれだけ・・・」





ジャガーのお守りを力強く握りしめて声を震わせる虎白はこの終わりが来ない戦いを見ていた。



自分のために一体どれだけの兵士が到達点へ逝ってしまったのか。



空は冷酷なまでに美しかった。



青空を見つめる虎白の頬から流れる雫がお守りに落ちた。





「虎白様!!」

「泣いているのですか!?」

「兵どもに笑われますぞ!」

「竹子様をよろしくです。」

「お頭・・・大好きです・・・」






目をつぶると声が脳内で永遠に響いてくる。



「ヒヒッ」と笑った虎白は前を見た。



ここで終わってたまるか。



せめて俺が戦争のない天上界を作らねえとあいつらに怒られちまう。



任せとけよお前ら。



いつかまた会おうな。





「このお守りはいつか夜叉子に渡そう。」

「うん・・・ハンナ・・・もう少し頑張るね。」

「竹子にも聞こえたか。」





虎白の涙がお守りに落ちた途端に聞こえ始めた英雄達の声は2人に聞こえていた。



鉄の決意だ。



必ずや英雄に恥じない結果を見せる。



必ず。





「戦争のない天上界を作るんだよ。 太吉の最後の頼みだからな。」

「英雄達みんなのだよ。」

「ああ! 行くぞ!! 全軍進めっ!!!」





遠く離れても。



思いは一つ。



英雄達は見ている。


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