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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第92章 熱き思い

サガミの死をまだ知らないペップは神経ガスに苦しみながらも必死にルルを運んでいた。



ルルは朦朧としていたがやがて自分で歩き始めた。





「ルル逃げろ!!」

「逃げないよ・・・」

「ダメだ!」





ペップはルルを後方へと押し込んでいた。



すると夜叉子が近くで倒れた。



そうはさせまいとタイロンが刺した者に飛びかかったが信じられない事にタイロンまでもがその場に倒れた。



刺した赤軍の将校は平然と拳銃を倒れる夜叉子に向けていた。





「ルル。 お前だけは生きて戻れ!!」





拳銃の銃声が響き、少しの沈黙の後。



腹部から血を流すペップが立っていた。



夜叉子を守るために自ら盾となり、仁王立ちして赤軍の将校を睨みつけていた。





「ゲハッ!! お、お頭に触るんじゃねえ・・・」



吐血までしているというのに不思議なほど力がみなぎってきた。



大好きな夜叉子を殺すなんて許さない。



何故なら半グレ同然だった俺を拾って育ててくれた。



いつだって心配して時には涙まで流してくれた。



俺はその愛情を忘れていない。



言葉に出す事はなかったがペップは心の中で夜叉子にそう叫んで、別れを告げた。



唖然とするペップ小隊の仲間に向かって隊長からの最期の言葉が言い渡された。





「お前らここで踏ん張れ!! 俺達とお頭1人の命。 どっちが大切か獣王隊ならわかってんだろ!!! もし死なせでもしたら獣王隊は終わりだ!! 最期にこいつらと刺し違えてやるよっ!!! グアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」





若き中尉だが彼は最期に赤軍に忘れる事のできない恐怖を与えた。



追い込まれた半獣族の攻撃は凄まじかった。



なんとペップはこの状況で40名もの赤軍を殺してみせた。



それでも止まるどころか暴れ続けていた。



やがて視力が完全になくなり、白目を向いても嗅覚を頼りに暴れ、嗅覚がなくなると自分を刺してくる敵兵の喉を噛み切った。



ペップ小隊50頭で1000名近くの赤軍を葬り去った。


やがて全てのペップ小隊が戦場に倒れた。



ペップは胸ポケットに大切にしまっていたお守りを取り出すと微笑んで握ったまま動かなくなった。



生き残った獣王隊がいないか赤軍の兵士が見回り、倒れるペップを踏みつけて背中から心臓にかけて銃剣を貫いた。



そして握りしめていたお守りを奪うと胸ポケットにしまって何食わぬ顔をして立ち去った。



獣王隊は夜叉子と副官のタイロンの戦闘不能という異例の事態に戦意喪失していた。



だが兄妹が逃げ切るために時間を稼いだペップと50頭もの兄妹は赤軍に「これが獣王隊だ!」と脳裏に焼き付けさせた。



赤軍は忘れないだろう。



死を覚悟した半獣族の恐ろしさを。



純粋だが獰猛で家族思い。



そんな半獣族に愛された夜叉子の命を狙うという事はそれだけ覚悟が必要になる。



夜叉子とタイロンを倒した女性将校は周囲にいた部下全員を失うという大きな代償を払った。



本人も戦線を離脱して別の部隊に合流した。



ペップのお守りを奪った赤軍兵士も後方の部隊に合流した。



勇敢で若き猛獣の壮絶な最期を我々は決して忘れる事はない。



彼の熱き思いは100年後まで残るだろう。



いつの日か彼らの奮戦と壮絶な最期に敬礼する日が必ず。



赤軍は態勢を整えに一度補給すると再攻撃に備えていた。



タバコを咥えて糸が複雑に縫われているジャガーを見ている。




「これは彼にとってなんだったのかな。」

「おいセルゲイ! もう行くぞ!」




セルゲイと呼ばれた赤軍兵士はペップのお守りを不思議そうに見ていたがやがて胸ポケットにしまって再攻撃に備えた。



胸ポケットとは別に首にネックレスの様にかけていたペンダントを見るとそこにはまだ幼く可愛らしい少女と美しい女性が微笑んでいる。



セルゲイにとって帰る場所だ。





「同志諸君!! ユーリ同志が間もなく来られる。 気を抜くな! 我々に退却はない!!」





将校が叫ぶとセルゲイは「ふう」と息をついた。



帰る場所が白陸に焼き尽くされる。



そう考えると逃げる事の方が怖かった。





「ユーリ同志が来られるのだ。 白陸を粉砕できるかもしれないぞ!」





セルゲイの隣で嬉しそうに高揚している若者。



まだ20歳にもなっていないだろうか。



こんなに若い青年が青春を捨ててでも守りたい国。



それが我らが祖国だ。



セルゲイはもう一度ペップのお守りを取り出した。





「守りたいものがあるのはお互い様だよな。 半獣族。」





名前すらわからないが自分の手で命を奪った半獣族の兵士の事を考えると気の毒にも感じたが同時に敬意すらあった。



逃げなかったのは自分の命以上に守りたい存在があったから。



セルゲイにだってある。





「お前は偉いな。 それでこそ男だよな。 俺だってお前を殺してまで守りたいものがあるんだ。」





やがて反撃の準備が整うとユーリが現れて、総攻撃を開始した。



セルゲイも武器を持って突き進んだ。



周囲には大勢の同志が自分と同じ様に守りたい誰かを思って命がけで戦っている。



前方には白陸軍が見える。





「ウラアアアアアアッ!!!!」





腹の底から叫んだがやがてセルゲイの叫びは絶句へと変わった。



「な、なんだあれは・・・」と絞り出す様に声を発し、愕然とする視線の先には同志達をまるでゴミでも飛ばすかの様にかき分けて進んでくる美女と鬼の面をした騎馬武者達。



誰もが桁外れに強く、赤軍の同志達は何もできずに吹き飛んでいる。





「半獣族・・・お前なら逃げないものな・・・」





セルゲイは神経ガスを受けても果敢に自分達に襲いかかってきた獣王隊を思い浮かべた。



目の前に迫るのはまた別の私兵か。



その時セルゲイは無意識に笑った。





「あんな部隊がまだいたのか。」





どうして笑ってしまったのか自分でもわからない。



羨ましかったのか。



恐怖でおかしくなったか。



それはわからないが一つだけ言える事。




「彼の分まで男らしく生きないとな!」




セルゲイは迫る美女に向かって銃剣を突き立てた。



すると白くて細い腕からは想像もできないほど凄まじい力で銃剣を弾き飛ばされた。



美女はセルゲイの銃剣を跳ね飛ばすと見向きもせずに走り去っていった。



そして次の瞬間には自分の体が宙に浮いた感覚を覚えると目の前には槍を握って鬼の面をした騎兵が自分を突き刺して走っていた。



セルゲイが最期に見たのは鬼馬武者だ。



投げ捨てる様に地面に叩きつけられると自分の死を悟り、ペンダントに写る愛しき家族に別れを告げてキスをすると胸ポケットにあるペップのお守りを取り出そうと探していた。





「ど、どこだ・・・」




「落としてしまったのか・・・」と諦めた様な表情をするとセルゲイは動かなくなった。



甲斐に続いて爆走を続ける進覇隊。




「ヒヒーンッ!! 耳に何かついてます!!」




騎兵の愛馬が叫ぶと騎兵は耳に引っかかるジャガーの縫い物を取った。



「これは」とつぶやくと鎧と着物の間にそっとしまった。



高速で前進する進覇隊を率いる甲斐は間もなく赤軍の指揮官であるユーリの元に辿り着きそうだった。





「平助様!!」

「案ずるな風香よ!!」





平助と愛馬の風香は甲斐の直ぐ後ろについていた。



やがて赤軍の戦線を掻き乱すとウシャンカを被るこれもまた美しい将校を見つけた。



「あれが敵の指揮官にござる」と平助は甲斐に向かって叫んだ。



「あいよー!!」と叫びながらも赤軍を吹き飛ばす甲斐。



討ち損じた敵を平助達が確実に仕留めて進んでいた。



そして甲斐は槍を大きく振って赤軍の指揮官に襲いかかったが平助も驚きを隠せなかった。





「な、なんと!?」

「ヒヒーンッ!?」

「甲斐様の槍を兵卒が受け止めた!?」




破竹の勢いで突き進んだ進覇隊は赤軍に包囲される形で進撃が止まった。



少し青ざめた平助と進覇隊は急いで円陣を作り、甲斐を守った。



進覇隊の弱点は立ち止まった状態での騎馬戦闘だった。



元々機動力を強みとする騎兵に立ち止まった状態での乱戦は向いていなかった。



そして今がまさにその弱点と言われる状態となった。



平助が周囲を見渡すと銃剣を持った赤軍が殺到してきた。





「反撃せよ!!」





進覇隊は大将軍の指示で反撃を開始すると辺りは大乱戦となった。



近頃の進覇隊は槍術と刀術だけではなくサブマシンガンすら扱う様になっていた。



平助は直ぐに取り出すと迫る赤軍に向かって乱射した。





「敵を近づけるでない!!」





万が一に愛馬が刺されでもすればもうこの場から生還できる見込みはないと誰もが知っていた。



赤軍の包囲を抜けるには愛馬の速度が必要不可欠だった。



しかし赤軍が必死に騎兵を引きずり下ろしていた。



1人また1人と進覇隊の騎兵と軍馬は戦場に倒れていった。





「これは・・・風香。 覚悟を決めねばならぬな。」




愛馬の顔を優しくなでると地獄絵図となった戦場を見渡した。



近づく敵をサブマシンガンで倒しているがあまりに敵の数が多かった。



弾がなくなると平助は僅かに動ける距離を風香と共に動きながら槍を振るった。



少しでも動けば騎馬の優位性を残せる。



全ての進覇隊が僅かに動きながら応戦していた。



平助が後ろを振り向くと白陸の本軍が追いついてきた。



「今少し耐えよ!」と将軍の声が響く。





「風香今少しぞ!!」

「ブルッ!! ヒヒーンッ!!」






懸命に応戦を続ける進覇隊。



だが赤軍はユーリが奮戦している事で奮起していた。



平助はその状況においてもなんとか踏ん張っていた。



平助は仲間と共に鬼と化していた。



そこに近づく赤軍の女性兵士。



至近距離で機関銃を乱射すると愛馬の風香が倒れ込んだ。



吹き飛んだ平助は立ち上がり刀を抜いたが既に遅かった。



銃剣が鎧を貫いていた。





「グハッ。」

「押しきれそうだったのに鼓舞しやがって。 同志の犠牲が無駄になるだろ。」

「退けぬのは双方変わらぬな・・・」

「そうだな。」





平助を刺してその場に押し倒すととどめを刺すために銃口を平助の顔に向けていた。



「待たれよ」と平助は鎧からジャガーのお守りを出した。



女性兵士は受け取ると平助の頭部に向けて引き金を引いた。





「第1大隊は第2大隊と交代しろ!! 再突撃の準備だ。」





女性兵士の所属する第1大隊は後方に下がり弾薬を補給して再突撃の準備を始めた。



「ルニャ?」と不思議そうに呼びながら近づいてくる同志にジャガーのお守りを見せた。



平助が死ぬ前にルニャに渡したジャガーのお守りを同志と不思議そうに見ていた。



「敵が死ぬ前に渡してきた。 何だこれ?」

「お守りか?」

「だが何故私に?」

「さあな。」





ルニャは不思議そうに胸ポケットに入れると再攻撃の準備を続けた。



直ぐ前方では同志が戦っている。



早く加わらなくては。



ルニャはまだ若い兵士だったが、長く赤軍の兵士として従軍していた。



大英帝国やフランス帝国とも戦闘の経験がある練度の高い兵士だった。



白い肌に茶色い髪の毛を束ね直すとウシャンカをかぶって前線へと歩き始めた。





「さあ行こう。 同志が待っている。」





ルニャは前線へと向かった。



ジャガーのお守りには血がたくさんついていた。



これは何処から来たのかと考えたが死にゆく騎兵が渡してきたという事は敵にとって大切なお守りなんだと考えた。



銃剣を前に向けて走り始める赤軍の中でルニャが一つだけ疑問だったのは自分に渡してきた事だった。




(敵に渡したのは何故だ。)




考えながら走っていくと目の前には白い制服に身を包んだ白陸軍が同志を撃滅しようとしていた。



ルニャは1人の心臓目掛けて銃剣を刺すと盾の様にして前に押し出してから蹴って倒すと機関銃を乱射した。



数人の白陸兵が倒れると更に迫る兵士に向かって銃剣を振り抜いた。



すかさず腰に装備していた手榴弾を投げると白陸兵が大勢吹き飛んだ。





「怯むな同志!! ユーリ同志が戦っているぞ!!」





ルニャは強かった。



白陸軍の正規兵では相手にならなかった。



次々に倒して進むとユーリの姿を捉えた。



「援護しなくては」と小声で発すると近くにいた同志を数人呼びつけて「ユーリ同志の援護に行くぞ」と促した。



ルニャはユーリの近くに行くと迫る進覇隊や白神隊といった私兵すらも倒していた。



するとユーリがルニャの存在に気がついた。





「素晴らしいぞ同志。 名前は?」

「ルニャ・イワンビッチ軍曹です。」

「そうかルニャ。 頼りにしているぞ同志。」

「背後はお任せを。」





長年の憧れだったユーリに褒められたルニャは奮起した。



そして白陸軍を次々に倒していった。



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