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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第84章 親友とのタイマン

男は出世を夢見て安定を求める生き物だ。



それは強欲で得られるものならどこまでも手に入れてしまいたいと思う。



地位や権力、名声を求めるのも不動の安定を手に入れたいがため。



絶対的存在になって欲しい物を全て我が物にする。



絶品の料理も大きな家も絶世の美女だって全て力さえあれば手に入る。



大小異なるが一般人だろうが皇太子だろうが結局は同じ所へと行き着くのだ。



それと違う存在こそが鞍馬虎白だ。



彼は地位や権力を求める理由は戦争のない天上界を作ること。



どこまで力をつけても決して安心することはなかった。



彼の様な存在が多ければ戦争は起きていないのかもしれない。



鞍馬虎白という傑物の血を確かに引いているこの白斗はまだその次元にまでは達していない。



武力こそ力であり自分という存在が周囲から認められる方法だと信じてやまない。



間もなく出撃する北側領土への大遠征でも平和的解決よりも武力での手柄を求めていたことが父、鞍馬虎白と大きく意見を割る結果になった。



それでも良妻メリッサの頼みに折れた虎白は白斗の北側遠征の参加を許可した。



当人はメリッサの功績とは知らずに北側遠征を心待ちにしていた。



皇国武士のように2本の刀を庭で振り回して汗を流している。



上半身を曝け出している白斗の肉体は鍛えられている。




「一個小隊は1人で壊滅させてやる。 指揮官はもっと大勢倒す!」




汗を拭きながらメリッサに声を高らかに話しているが呆れた様子で夫の話をあまり聞いていない。



メリッサは部屋に飾られている大剣を横目に白斗の戯言を聞き流していた。



「聞いてんのか?」と白斗に迫られるとこくりとうなずいて黙り込んでいる。




「なあ俺と手合わせしてくれよー。」

「いやだよお。 旦那さんと戦いたくないよお。」




白斗はメリッサがとんでもない剣聖だという事を知っていた。



何度も模擬戦を挑んでいたがメリッサは一向に首を縦に振らなかった。



「実は弱いのか?」なんて失礼な事を聞くもんだからメリッサは更に不機嫌になって部屋の奥へ行ってしまった。



首をかしげて刀を振り始めると携帯にペップから連絡が来た。




「ちょっと会えないか?」




メールを確認すると白斗は汗を綺麗に拭くと着替えてペップに会いに足早に出て行ってしまった。



メリッサには何も言わずに。



白斗がいなくなった事に気がつくとメリッサは大剣を持ち出して庭に出ると豪快に振り回し始めた。



太刀筋の鋭さから振るだけで斬ってもないのに風圧だけで家の壁にヒビが入るほどだった。



不機嫌なメリッサの太刀筋は鋭さこそ凄まじかったが、正確さは皆無で大剣が暴れている。




「おう邪魔すんぞ。」

「パパー。 竹子おばさん。」




白斗の様子を見にきた虎白と竹子夫婦はメリッサを見て何か状況を察した様に顔を見合わせていた。



「またあいつか?」と尋ねると静かにうなずく様子を見て虎白は崩れ落ちるように縁側に座った。



竹子も険しい表情で虎白の隣に座るとため息混じりの声でメリッサに「大丈夫?」と尋ねた。




「メリッサ頑張ってるよ。 でもどうしてもパパと竹子おばさんみたいにラブラブになれない・・・」

「スレッジが知ったら俺は間違いなく殺されるな・・・本当にごめんなメリッサ。」




スレッジが愛してやまない世界でたった一人の最愛の娘を預かっている虎白としては白斗への怒りが込み上げてくるが、白斗の純粋に手柄をあげて認められたいという男としての気持ちも理解していた。




武力にこだわり続ける白斗は人を見る目を鍛えていない。



目の前にいる妻の表情や気持ちすらも理解できないほどに武力だけを求めていた。




「あいつは強いよ。 だがそれだけで他は何もない。」

「白斗は最初は優しかったけどねえ。 メリッサの事はどうでもいいのかなあ・・・」




悲しそうにしているメリッサを見ていられなかった。



虎白は親子喧嘩になる覚悟でもう一度息子に正しき皇太子の姿を説くつもりで縁側から立ち上がると白斗の気配を第六感で探しながら歩き始めた。



竹子は縁側に座ったまま、メリッサの頭を優しくなでていた。




「おばさんはパパに愛されて幸せ?」

「もちろんだよ。 メリッサだって必ず幸せになれる。 私だって悲しい想いをたくさんしたの。 でも一人じゃなかったの。 いつだって。 私がついているからね。 泣きたかったらいくらでも泣きなさい。」




メリッサの細い体を包み込む様な竹子の言葉に堪らず泣き始めると竹子の胸の中で泣いた。



虎白は白斗を探して家を出ると外で待機する白神隊のルーナの顔を見た。



「殿下ですか?」



相変わらず強い第六感を有するルーナは虎白に第六感の申し子と言われるだけあった。



虎白の気配や家の中から感じる主、竹子やメリッサの悲しい気配から感じ取れていた。



ルーナは真剣な眼差しで見ていると黙ってうなずいた虎白を見て目をつぶると白斗の気配を探し始めていた。




「第4都市へ向かっています。 何やら楽しげです。」

「あの野郎。 嫁を泣かせて何が楽しいんだ。」

「泣いている事にすら気づいていないかと。」

「まあそうだろうな。 ルーナ。 あいつをどう思う?」




虎白からの問いにルーナは一瞬口を開くと何やら考え込んでいた。



正直に話すのは無礼な事か、鞍馬虎白の器の大きさを良く知っているルーナは本音を話す方が良いと理解すると「本当に虎白様の息子なのか疑問です。」とまで言った。



やはりルーナの様な経験豊富な将校から見ると白斗は目も当てられないほど酷く、皇太子なんて名ばかりだと思われていた。




「やっぱルーナぐらいになると白斗は論外だよな。」

「まだ若いので仕方ないかと。」

「怒るべきか?」

「いいえ。 理解させるべきです。 武力の限界を。」




先日の論功行賞で大将軍補佐の将軍にまで昇進したルーナは立派な制服に身を包んでいたが、その制服が着飾っている訳ではないと言動で証明している。



白神隊は今では1万人もの大部隊に成長して、個の力も私兵隊で最強と言えるほどの練度となっていた。



その1万の精鋭を束ねる大将軍椎名又三郎と補佐のルーナは百戦錬磨の指揮官と言える。



様々な死線を経験した彼女から見る白斗はあまりに滑稽で頼りなかった。




「ルーナは竹子の自慢だな。」

「とんでもないです。」

「じゃあ息子を追いかけるか。」

「お気をつけて。 そしてどうか冷静に。」




虎白を見送るとルーナは白斗の気配を感じ取るとため息をついた。



誰もがため息をついてしまう白斗の様子は白陸国内でも問題となっていた。



中でも酷いのが私兵の基地を歩き回っては将校などと模擬戦をしては蹴散らして喜んでいることだ。



ルーナもわざと負けて白斗を喜ばせていたのだ。




「虎白様の背中まで後1万キロほどですね。 殿下。」




かつて虎白とも模擬戦をした事があったルーナは異次元の強さを目の当たりにした。



しかし虎白は勝っても喜ぶどころか兵士に的確なアドバイスをして集団戦の大切さを説いていた。



兵士に思いやりがある皇帝は軍部からも絶大な支持があった。



その上男としても魅力的でルーナは主の夫と理解していながらも恋心を抱いてしまうほどだった。



ルーナが口にする1万キロという数字は妥当な数字かも知れなかった。



その虎白が肩を落としてトボトボと息子を追いかけて歩いていく姿を見ていると怒りが込み上げてきた。



そして当の白斗はペップと待ち合わせの場所へと着くといつものベンチに座って待っていた。



数分待つとペップが手を振りながら歩いてきた。




「戦闘訓練でもあったの?」

「今から戦うからだよ。」

「今から訓練?」




ペップは制服ではなく、戦闘服を着ていた。



真剣な眼差しで白斗を見ている目はいつもの懐っこいペップではなかった。



白斗は戦う相手が自分だと理解するとニヤリと笑ってベンチから立ち上がると「来いよ。」と刀を抜いてみせた。



そこに虎白が走ってくると2人の顔に平手打ちをした。




「てめえら不良の喧嘩じゃねえんだよ! 場所変えろ。 国民の前で何やってんだよ!」




襟を掴まれる2人は獣王隊の基地まで引っ張られていった。



虎白に獣王隊基地へと引きずられると放り投げられた2人は立ち上がり直ぐに武器を抜いた。



怒った表情で虎白は腕を組んで見ていると隣に夜叉子とタイロンが歩いてきた。



「ふっ。」と鼻で笑う夜叉子は煙管を吸いながら2人の様子を面白そうに見ていた。




「白斗。 俺はお前の親友だからタイマンだ! 暴れたいんだろ?」

「本当に言ってんだな? お前なんかで俺に勝てるわけねえぞ?」

「ルーナ少佐やタイロンの姉貴とやり合ってるから自分は強いと思ってんのか?」




ルーナやタイロン、クロフォードという私兵隊の指揮官達と模擬戦をしてはわざと負けてくれている事に気がついていなかった。



しかし実際の所、最終的にわざと負けていたのは事実だが白斗の強さは私兵の指揮官達でもヒヤリと来るほどだった。



戦闘経験のない白斗が百戦錬磨の指揮官達にヒヤリとさせられる時点で白斗の強さは証明されたも同然だった。



問題は強さではなくわざと負けてくれている事に気がつけない事だった。



ペップは親友としてそれを気づかせるために男らしくタイマンを挑んだが白斗は馬鹿にしている。




「俺は父上の血が流れてんだ。 強いのは当然だろ。」

「虎白様はそんな事言わない。 白斗は強くなりたいから大事な事を見落としているんだ!」

「あーあ。 うぜえなあ。 肉食動物のくせに偉そうに語ってんじゃねえよ! ほらかかってこいよっ!!」

「死んでも文句言うなよ白斗おおおっ!!! ガルルルルルッ!!」





ペップは素早い動きで白斗の首元目掛けて飛びついたが強力な第六感であっさりと避けるとペップの髪の毛を掴んで地面に叩きつけた。



起き上がらせる事すらさせずに顔を何度も踏みつけては肋骨目掛けて蹴りを振り抜いた。



しかし生まれつき丈夫な肉体を有する半獣族はこの程度では倒せなかった。



ペップは何事もなく立ち上がると白斗の腕を掴んで押し倒すと顔を何度も殴り返した。



まさに猛獣と言えるペップの歯茎が剥き出しになる形相は白斗を驚かせた。



拳を振り抜く時に風を切る凄まじい音が聞こえている。



顔を左右に振って拳を避けているが地面がひび割れて砕けている。



もしこれが当たったら第六感で硬化して防げる神通力も長くは保てない。



白斗は膝を立ててペップの脇腹に何度も蹴りを入れているが屈強な半獣族の肉体には響かなかった。





「おらどうしたよ白斗おおおおっ!!!」

「舐めんなよてめえっ!!」




ペップの拳を避けると白斗は自分の拳を振り抜いたが、ジャガー特有の鋭い牙に刺さり、白斗は悲鳴をあげている。



胸ぐらを掴んで立ち上がらせると自慢の剛腕で白斗を前に押して壁に背中をぶつけ、何度も顔を殴った。



いよいよ白斗も避けきれずにペップの拳が顔に当たる。



やがて神通力は減り始めて、硬化で防ぐ事も厳しくなってきていた。



呼吸も荒くなり、白斗の白い顔からは赤いが人よりはずっと色の薄い血が流れ始めた。



半分は神族で半分は人間だと証明する様な色素の薄い血液がペップの拳にベッタリとついている。




「気絶するまでやめねえからなあ!!」

「いい気になんなよペップッ!!」




ペップの拳を肘で受け止めると体をすっと右に避けてペップの後ろに回ると髪の毛を掴んで壁に何度も打ち付けていた。



そして腰に戻していた刀を抜くとペップの背中に突き刺す様にして衝撃信管オイルが塗られた刀を浴びせた。



白目をむいて片膝をつくペップの動きは止まった。



白斗は口に溜まる血を吐き捨てると刀を戻してペップに背中を向けて歩いていく。




「ガオオオッ!!」




もはや意識はないのかもしれない。



しかしペップは白目をむいたまま白斗に飛びつくと首に噛み付いた。



首から血が吹き出る白斗はその場に倒れたが手で首を押さえながら巧みな足技を披露した。



ハイキックでペップの首を捉えると回し蹴りで顔へ振り抜いた。



遂にペップは倒れて動かなくなったが白斗もフラフラとその場に倒れた。



タイマンを見届けた虎白と夜叉子に運ばれた2人は獣王隊の医務室で目を覚ます。




『う、うう・・・』

『負けた・・・』




お互いに顔を見合わせるとどちらともなく吹き出して笑い出した。



「強いなペップ。」と白斗が微笑むと「さすが皇太子だよ。」と返した。



白斗が手を伸ばすとペップと固く握手した。




「ねえ白斗。」

「ああ?」

「もう十分強いんだし俺のためにも戦略とか学んでくれよ。」

「仕方ないな。 お前みたいな優秀な未来の側近を死なせるわけにいかねえしな。」





いつの日か虎白から帝位を継承した時にペップを側近にすると決めていた。



ペップは白斗の手を握って「俺が剣にも盾にもなる。」と鋭い眼差しで言い放つと、白斗はしっかりとうなずいた。



若き皇太子は親友によって器というものを教えられた。



親の言うことを聞かず、妻すらも悲しませる未熟な皇太子には命懸けで体を張ってくれる親友が必要だった。




「戦略とかめんどくせえ。 でもお前を死なせたくねえ。」

「じゃあ勉強してくれる?」

「ああ。 どうせ皇帝になったら頻繁には前線に出られねえしな。」




医務室の外で夜叉子と顔を合わせて呆れ笑いをしながら虎白は帝都へと戻って行った。


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