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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第72章 歩む覚悟

ペップはルルの元へ行くと申し訳無さそうにしている。




「あ、あのルル・・・」

「ん?」

「俺さ・・・自分の事ばかり考えていたよな。 自分が動かずにはいられなかった・・・」

「聞きたくないよ・・・行くの止めなかった私も悪いの・・・」





指揮官たるもの感情だけで動いてはいけない。



今回は偶然にもルーナと出会えた事でペップは命を落とさずに済んだ。



しかしペップの仲間は命を落とした。



選択が何か違えば変わっていたのか?



ペップが来た事でルーナは張遼に討ち取られずに済んだのか。



答えは誰にもわからない。



だからこそ。



命令に従わなくてはならない。



ルルは何処か悲しそうにもしている。



そんな姿を見てペップはただ下を向いている。




「そんな情けない顔しないで。 自分が正しいと思ったんでしょ? でもダメだよ・・・私達は仲間なんだから・・・」

「ああ・・・俺は反省したんだ・・・死んだ仲間に申し訳ない・・・でもあいつらの分まで俺は強く優秀になってみせる。」

「うん・・・一緒に頑張ろうね! もう・・・無茶しないでね・・・」




2頭は互いに抱き合うと顔をすり合わせている。



半獣族の愛情表現である。



その光景を気づかれない様に兵舎の影から見ている。



そして鼻でふっと笑って煙管を咥えた。





「何も言わんでええんか?」

「何か気がついたんじゃない? 才能ってのは開花もすれば枯れてしまう事だってあるよ。」

「なんかええなあー。 さすが夜叉子やな! お頭っ!」

「うるさいな。 帰って竹子の夕飯食べに行くよ。」

「はーい! 今日はなんやろうなあー! へへへ!!」





楽しげに夜叉子と琴は帝都へ帰っていった。



若き猛獣達は初の実戦を経験して大きく傷ついた。



しかし成長もした。



犠牲の上に得た成長だ。



忘れてはならない。



そして歩み続けなくてはならない。



辛くも呂布軍の侵攻を耐え抜いた白陸軍は束の間の休息を取った。



ペップにとっては自分を見直す時間。






「なあルル。 俺達がもっと強くなるためには何が必要だろうな。」

「そうねー。 やっぱり団結力とか?」

「だよなあ。 部隊で強くならないとな。」

「うん! じゃあどうする?」

「ルーナに会いに行ってくる! 模擬演習してもらえないかって。」





白神隊との模擬演習は良い経験が積める。



しかし勝手にできるはずもない。



ペップはまたしも勝手に動こうとしていた。



走り去ろうとするペップを追いかけて捕まえるとルルは首を振った。





「はいダメー。 また勝手に動いたー。 自分が良いと思ってもまずは周りの意見を聞かないとダメよー。」

「あ、ああ・・・悪い・・・そうだよな。」

「まずは中尉に聞いてみて中尉が上に聞いてくれるよ。」





すると中尉が部下を連れて歩いている。



慌てて駆け寄ると敬礼して模擬演習の話しを始めた。



驚いた表情の中尉はペップを落ち着かせている。





「模擬演習だと? お前・・・全軍の損害を考えた事あるのか?」

「す、すみません・・・ルーナの白神と・・・」

「ルーナ少佐だろ。 それに白神の隊長は椎名又三郎中佐で白神は都督竹子様の物だ。 お前は何を考えているんだ? 自分の部下だって戦死したばかりだぞ。」

「はい・・・」





中尉は強張った表情で立ち去っていった。



近頃のペップは獣王から孤立していた。



度重なる命令違反に上官への態度も悪い。



別の私兵であるルーナに対しても敬礼もせず友人の様に話している。



獣王の将校で会議をしても自分の意見ばかり主張している。



完全に厄介者になっていた。





「怒られちまった・・・」

「仕方ないよ。 中尉の言う通りだよ。 基地に戻って訓練しよ。」

「はあ・・・そうだな・・・」

「ねえペップ。 私の事を仲間にしてくれた事は忘れてないよ。 すっごい感謝しているんだからね!? だから。 何があっても離れないからね。」





ニコリと微笑むルルの可愛らしい笑顔に癒やされたペップは基地に戻って訓練を始めた。



まだまだ成長しなくてはならない。



夜叉子の親心は実るのか?



訓練を続けるペップを黙って見守る夜叉子。



そんな夜叉子は虎白や琴と帝都にある城で過ごす事が多かった。



いつもの様に領内の政務を終えて帝都に帰ってくる。



夕食は竹子の仕事だ。



竹子が厨房を素早く動いてみんなの食事を用意しているのが日課だ。



夜叉子は戻ってくると竹子の手伝いを始める。





「何も都督のあんたが料理しなくても料理人にさせればいいでしょ。」

「ダメだよお。 大好きな虎白が食べるご飯だもの。 私の手料理食べてもらいたいよ。」

「ふっ。 虎白も幸せ者だね。」

「ふふ。 喜んでくれるだけで嬉しいよ。」






竹子が丁寧に作る料理は家族のみんなで食べる。



それは物凄い量になる。



アメリカ人のエヴァはたくさん食べる。



夜叉子は薄味が好き。



春花には辛いものを入れない。



甲斐には魚料理。



竹子は家族のみんなが好む料理を毎日作っていた。



それを苦痛とは全く思っていない。





「帰ったぞ。 ったく。 呂玲は強情なやつだなあ。 はあ。 桜火がどうしてもって言うから助けたが父親に似てるぜ・・・」






虎白が戻ってくると竹子が料理を机に並べ始める。



白陸軍の制服を脱いで着物に着替えると虎白は席に座った。



春花が虎白の膝の上に座ってニコニコしている。



サラとエヴァはワインを飲んで楽しげにしている。



レミテリシアと魔呂は夜景を見ながら何か話している。



虎白の大切な家族はいつもこの様に夜を向かえている。





「今日は天ぷらだよお。」

「おおいいねえ。 天ぷらか!」

「虎白はご飯いる? それとも後で天丼にする?」

「そうだなとりあえず夜叉子と酒飲みながら天ぷらつまむよ。 後で天丼にしてくれ。」

「ふふ。 わかった。」





いつだって食卓はにぎやかだった。



ここにいる家族達が思う事はいつも同じだ。



素晴らしい毎日が永遠に続けばいいのにと。



楽しくお酒を飲んで美味しいご飯をお腹いっぱいに食べる。



そして飲み直すのも眠るのも自由。



ごく普通な生活かもしれないがそれこそが何よりも幸せだった。



にぎやかに食べている家族の中で虎白は夜叉子と酒を飲みながら話している。





「この間の戦いでもペップは勝手に動いてさ。」

「はあ。 部下を事故で死なせても懲りねえか。 いつか自分が死んじまうな。」

「そうだよね。 私はあの子はもっと伸びると思っているよ。 それこそタイロンやクロフォードに負けない英傑になれる。」

「潜在能力はあるかもな。 だがあいつは我慢を知らねえ。 俺にもいきなり喧嘩売ってきたしな。 竹子の所のルーナにも敬語も使わねえらしいな。」





酒で少し頬を赤くしている夜叉子は困った表情で煙管を吸い始める。



優秀になってほしい。



それに足りないものは「忍耐」だ。



本能で動いて結果的に何とかなっている。



それは指揮官としては危険な事だ。



甲斐の様に全て本能で動いて何とかなっている者が目の前にいるのにこんな話しをするのはどうかと思うが夜叉子は夕食を食べて横たわっている甲斐を見ている。





「まあ。 あいつは天性だな。」

「ペップは違う?」

「あのガキもその類だが甲斐でさえ俺の指示には従う。」

「あの子はまだ私を信じれないって事?」

「というより信じるって事を知らねえが正しいな。」




どんな事でもそうだが自分で「できている」と他人からの「できる」は全く別物だ。



皇国の教えにもある様に「努力」とは他人から認められてこそ意味をなす。



自分で努力しているはしていない。



まだまだ努力の余地がある。



本当に努力しているものは自分が努力しているかさえ考えない。



ペップにとって「信じる」とは夜叉子をお頭として認める程度。



夜叉子の采配には何手も先読みがされていて必ずと言えるほど敵を翻弄できる。



しかしそれを実現するには獣王隊と第4軍の全兵士が夜叉子の作戦通りに動く必要がある。



ペップの様に勝手に動く者がいると計画は破綻する。



虎白は甲斐を信じている。



そして甲斐も虎白を心から愛して信じている。



だからこそ「待て」と言われたら動かない。



「行け」と言われたら力の限り戦う。


それが信頼であり強さだ。



若きペップにはまだそこまで誰かを信じて戦う事ができない。



夜風に当たりながら虎白と夜叉子は夜話を続けるのだった。



夜風に当たりながら美しい白陸の帝都を見下ろして夜話をする夜叉子と虎白。



すっかり夜遅くなり、家族達も眠り始めた。




「ふぁあ・・・2人ともまだお話? 私は先に寝るね。」

「おう。 おやすみ竹子。」

「おやすみなさい。」





竹子が後片付けをし終えて甲斐と共に部屋に戻っていく。



大きな部屋には2人きり。



天上酒を飲みながら漬物をつまみにしてまったりとくつろいでいる。






「まあペップの成長は焦る事もねえけどな。」

「才能があるからこそ心配もあるよ。」

「そうだなあ。 実戦で成長って言っても何があるかわからねえしな。」

「うん。 私はうちの子達を失いたくないからね。」





我が子の様に大切に思う部下。



夜叉子の神がかった戦術は大切な部下のためにある。



部下の命を守るためならどれだけ敵に残虐な事をしても心が傷まない。



ソファで眠っている琴を横目に少し口角を上げた夜叉子は酒をすする。





「夜叉子はまだ寝ないのか?」

「まあね。 あんたは先に寝ても構わないよ?」

「いや。 俺も起きてるよ。」

「そう。 あんたと話していると気が楽になるよ。」

「ヒヒッ。 初めて会った時は俺の事殺す様な目で見ていたのにな。」





懐かしい2人の出会い。



かつてミカエル兵団に所属していた夜叉子は虎白に出会い、人生が大きく変わった。



いまでは虎白や琴など心から信頼できる家族に出会えた。





「懐かしいね。 あんたは甲斐と仲良くてね。」

「そうそう。 俺の最初の城の改修工事とか手伝ってくれてよ。」

「ふっ。 魔呂が攻めてきて大変だったね。」

「そうだなあ。 あれから随分時間が経ったな。」





ふと虎白は夜叉子の顔を見た。



夜叉子は机に酒を置いて虎白が見つめている事に気がつくとじっと見ていた。



何か言うわけでもなく互いに目を見ている。



心なしかお互いの顔が近づいている。



夜叉子はすっと目をつぶった。





「ふぁあー。 琴ちゃんやでー。 夜叉子も虎白も琴ちゃんのやでー。 たこ焼き美味い・・・」




琴の寝言に驚いた2人は顔を見合わせて笑った。



虎白は夜叉子の美しい髪の毛をなでた。



琴に褒めてもらってから自分の自慢の髪の毛になった。



大切な髪の毛は心許した相手にしか触らせる事はなかった。





「あんたに出会えて良かったよ。」

「ヒヒッ。 それは俺の台詞だ。 夜叉子。」

「ん?」

「幸せになろうな。」

「ふっ。 もう十分だよ。」

「もっともっと幸せになるんだよ。」





神がかった戦術を持つのは虎白も同じ。



奇想天外で破天荒。



敵視した相手には容赦ない。



そんな虎白は世間の顔だ。



愛する存在の前ではなんて無邪気に笑っているのか。



その笑顔に家族達は心打たれていく。



夜叉子も例外ではない。



虎白の無邪気な笑顔に何度救われたか。


「いつの日かもっと幸せになれたら何しようか?」

「そうだなあ。 1日中お前と酒飲んで琴にたこ焼き焼いてもらうか。」

「ふっ。 いいね。 天上界中の山を見に行くのもいい。」

「竹子におにぎり握ってもらって山頂で食うか!」

「それはいいね。 琴を連れて海にも行かないとね。」






2人の思い描く日々はなんとも平凡な生活。



それだけ白陸軍は戦いの日々で多くの仲間を失ってきた。



ただ普通に暮らしたい。



愛する存在と平凡な時間をすごしたい。





「いつか必ずそんな日が来る。 俺は諦めない。」

「あんたが辿り着く場所に私はついていくよ。」

「ありがとな。 夜叉子。 大好きだぞ。」

「・・・・・・私も・・・」






酒のせいか頬が赤い。



しかし小声で夜叉子が放った言葉の直後、更に顔が赤くなった。



虎白は夜叉子の頭を何度も何度もなでた。





「大切な髪が乱れるでしょ。」

「ヒヒッ。 お前は最高だよ夜叉子。」

「ふっ。」

「気がついたら朝になりそうだな。」

「そうだね。 領地に戻って眠るよ。 琴は寝かせておいて。」




白王隊に警護されて夜叉子は領地に戻っていった。



虎白は微笑んでいる。



まだ時間は少ないが貴重な時間だ。



家族とゆっくりできる大切な大切な時間。


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