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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第65章 異次元の相手

夜叉子の器に惚れ始めたペップはもう一度訓練を頑張ると決めたが、上官からの想像を絶する訓練はペップ達を苦しめ続けていた。



そんなある日の事だ。



ペップ達には非番が与えられた。



久しぶりの休日にルル達はぐっすり眠っている。



ペップは兵舎をウロウロ歩いている。



すると装備を付けた獣王隊が戦闘準備を行っている。





「少尉殿。 何をなさっているのですか?」

「ん? ああペップ訓練兵か。 獣王は今から白神隊と模擬演習を行う。 君は休んでいろ。」

「お、俺も行っていいですか?」

「見ているだけなら構わない。」





ペップは行きたくてたまらなかった。



白神隊の存在は訓練で聞いた事がある。



「無敵」と呼ばれる都督竹子の私兵。



都督と言えば、あの夜叉子の上の位だ。



そんな異次元の存在が率いる私兵との模擬演習。



見てみたかった。



ペップは獣王隊と共に竹子との領土の境界線に着いた。



そこには既に布陣している。



白い旗に狐が桜を咥える旗印。



綺麗に整列して獣王隊を待ち構えている。





「ペップ訓練兵は少し離れていろ。」

「いや。 構わないよ。 あんたも入りな。」

「お頭?」

「実力を試してみたいんでしょ?」

「はい!!」





夜叉子は少し口角を上げてペップを隊列に加えた。



じっと睨み合う沈黙。



ペップはその時初めて感じた。



全身の血が冷たくなる感覚。



今から本気でぶつかり合う双方の雰囲気は心臓を握り潰す様な感覚だった。



ペップはこの時初めて怖いと感じた。





「撃てー!!!!」





白神隊から響く透き通る声。



そして次の瞬間には隊列が一斉に光った。



獣王隊は盾を構えて防いだ。



物凄い数の銃弾が飛んでくる。



ペップは呆気に取られて棒立ちしたままだった。





「かがめ訓練兵! 白神隊の射撃の精度は白陸で一番だ!!」





上官に腕を掴まれて慌てて姿勢を低くする。



ペップの耳にかする銃弾。



目を見開き唖然としている。





「あ、危ねえ・・・」

「もうとっくに撃たれていたぞ。 白神の兵士はお前を狙っていた!」

「白神隊・・・」

「あんたら! 前進! 乱戦にして白神隊を蹴散らしてやんな!」





獣王隊は盾を構えたまま少しずつ進んでいる。



ペップも盾を持って前列に並んでみた。



白神隊からの銃撃は連続して飛んでくる。



盾の裏にある腕に直接当たっているかの様に正確に何度も当たり続ける。



ペップは腕が壊れそうになっていた。





「な、なんだこれ・・・」

「正確な射撃と言っただろ。 連中は常に盾を持つ手を目掛けて撃っている。」

「お、折れる・・・」

「耐えろ訓練兵!」





距離は徐々に近づくとやがて射撃は止まった。



すると白神隊の射撃隊の後ろから飛び出す槍隊を中心とした乱戦部隊。



獣王隊も盾を背中に戻して乱戦になる。



半獣族で構成されている獣王隊の乱戦時の強さは計り知れない。



はずだった。





ガッシャーーーンッ!!






「え?」




ペップは目を疑った。



厳しくて強い獣王隊の上官がまとめて吹き飛んだ。



そこにいるのは細身でオレンジ色の髪の毛をなびかせている白神隊の将校。



槍を自在に扱って獣王隊を寄せ付けない。





「な、なんだあいつ・・・」

「あれが白神隊の少佐のルーナだ。 気をつけろ。 お前が勝てる相手じゃない。」

「ルーナ・・・」





槍を自在に使って、強引に近づく相手には拳銃と剣を使って撃退している。



精鋭獣王隊が近づけない。



ペップは驚きのあまり頭が真っ白になった。



夜叉子はやこのルーナ。



半獣族に勝てる人間がこんなにもいるのか。



しかしペップの中で湧き上がる感情。



挑んでみたい。



例え勝てなくても。





「おいルーナッ!!」

「???」

「行くぞおらあああ!!!!!」

「見ない顔。 新入りかな。 元気でいいねえ。」



ルーナは微笑んで槍をペップに向けた。



ペップは挑まずにはいられなかった。



ルーナの槍はまるで生きているかの様に自在に動いている。



柔らかくなっているかの様にしなっている。



ペップは全力で挑んだ。



しかしルーナはいとも簡単に避けて他の獣王隊を倒している。






「俺の相手をしろ!!!」

「うるさいな・・・少年。 世界には格ってものがあるんだよ。 君は私と同等の格じゃない。 私はクロフォードを倒すためにここにいる。」

「クロフォードの姉さんの前に俺を倒してみろ!!」






ペップは叫んだ。



しかし叫び終わる前にペップの喉元には槍が届いていた。



反応すらできなかった。



喉に槍が当たって倒れ込んだペップを見もせずにルーナは進んだ。



地面の砂をギュッと掴んで立ち上がった。





「ま、待てええ!! 勝てるとか負けるとじゃなく・・・俺はお前と戦わないとダメなんだよ!!」

「突きが弱かったかな? 理由だけ聞いてあげる。」

「お前みたいに強い相手・・・そんな相手と戦わないと俺は強くなれねえ・・・弱えままじゃ・・・兄妹を守れねえ・・・」

「そう。 立派ね。 じゃあ行くよ。」





またしても気がつくと槍が目の前に届いた。



心臓に当たり、全身が痺れて動けなくなった。



地面に倒れて目をつぶっている。



意識が今にも飛んでしまいそうだ。



地面が冷たくて気持ちいい。



周りでは剣戟や怒号が聞こえる。



ペップは世界の広さを思い知った。



心の何処かで思っていた。



夜叉子だけが自分に勝てる人間だと。



しかしそれは違った。



ルーナという手も届かない存在。






「な、なんだよこの世界・・・なんでこんな強いやつばっかりいるんだよ・・・」





体が次第に言う事を聞かなくなっている。



なんとか体を起き上がらせるとそれは見えた。



ルーナより小さく、か弱い顔の女。



周りには多くの兵士が立っている。



刀を腰に差してじっと戦況を見ている女。





「あいつが大将か・・・都督竹子だな・・・絶対そうだ・・・」





ペップは立ち上がり、竹子の元へ進んだ。



竹子は気がつくと刀に手を当てる。



必死に走るペップは猪突猛進。






「うわあああああガルルルルッ!!!!!」






次の瞬間だった。



視界の上から顔を覗かせるルーナ。



一体なんだと言うのだ。



ペップは愕然として動けなくなった。



半獣族のペップに追いついて飛び越えた。



ペップの後ろで宙返りして目の前に現れた。



剣を腰から抜いてペップの腹に当てた。





「やるねえ。 でも竹子様には指一本触れさせない。 狙った女の子に振り向いてもらえなかったからって他の女の子狙うなんてモテないよ。」

「ゲホゲホッ・・・クソ・・・」





ペップは遂に倒れて動かなくなった。



その後の戦闘でルーナはなんとクロフォードと相討ちになった。



歴戦のクロフォードと最近少佐になったルーナが相討ち。



これは獣王隊を驚かせた。



タイロンと又三郎も死闘の果てに又三郎が先に倒れたが少しするとタイロンも倒れた。



前回の模擬演習と同様に立っているのは夜叉子と竹子だけだった。





「ふふ。 また引き分けかあ。 私の兵士達も強くなったんだけれどなあ。」

「ふうー。 いや。 今回は私の勝ちみたいだよ。」

「え?」





竹子が振り返ると。



ペップは剣を持って竹子に近づいて来た。



指で突けば倒れそうな状態だったが目だけは獲物を狙う獣だった。



竹子はニコリと微笑んだ。





「お見事。」

「ペップもう止めな。 いいよ。 あんたのおかげで勝ったよ。」

「お、お頭ああ・・・」





力が抜けて倒れるペップをギュッと抱きしめてそっと寝かせた。



隣で正座して優しくペップの頭をなでる夜叉子は煙管を吸い始める。



竹子も隣で微笑んでいる。





「随分と立派な子ね。」

「そうだよ。 この子はまだ訓練兵だけどね。 いつかもっと大きくなるよ。 あんたの所のルーナみたいにね。」

「ふふ。」





恒例の獣王、白神の模擬演習。



いつも決着がつかなかった。



しかし今回は獣王の勝ち。



ペップは最後まで気絶しなかったのだ。



夜叉子は嬉しそうに煙管を咥えて空を見ていた。



目を覚ますとそこはベットの上。



隣で煙管のいい香りがする。





「起きた?」

「あ、ああ・・・お頭・・・」

「良く頑張ったね。 あんたのおかげで獣王は勝ったよ。」

「勝った・・・」






ペップ目が覚めると同時に泣き始めた。



夜叉子は黙って煙管を吸っている。



子供の様に泣き続けるペップを見ている。






「お、俺は何もできなかった・・・」

「そっか。 立っていただけでも私は凄いと思うよ。 うちの子達も白神も何度も死戦をくぐってきたんだよ。」

「でも悔しい・・・」

「偉いね。 じゃあもっともっと強くならないといけないね。」





夜叉子は窓を開けて天上界の心地よい風をペップに感じさせる。



黒髪が美しくなびいている。



夜叉子のいい香りがペップを落ち着かせる。



黙って立ち去ろうとする夜叉子の手をギュッと握った。




「お頭・・・俺・・・もっともっと強くなりたい・・・いつかあのルーナや白神の兵士を倒せる様になりたい・・・」

「それは簡単な事じゃないよ。 あんたと同じぐらい他の兵士達も強くなりたいって思っているからね。 悔しいなら泣いてないで頑張らないと。」

「うん・・・お頭・・・」

「はあ。 甘えん坊ねあんたは。 さっさと復帰して訓練しな。」





夜叉子はペップの手をなでると去っていった。



負傷兵達は次々に復帰していた。



ペップの周りのベットには誰もいなかった。



そして立ち上がりペップも部隊に戻った。



復帰した翌日。



ペップも訓練に戻った。





「気をつけ!!!」





ザッ





「全隊駆け足で夜叉山まで進め!!!」





ペップはその日から上官に反抗しなくなった。



自分が強くなるためには訓練を進めるしかなかった。



やっと射撃訓練や近接戦闘の訓練が始められた。



武器すら持てず走るだけの毎日からやっと戦闘訓練になれた。





「おいペップ!!! お前だけ前に出すぎだ!! なんだお前は? いい気になるなよ!! 兵士より前に出て虎白様にでもなったつもりか!? 虎白様ほど強くなってからにしろ!! でないと最初に死ぬからな!!!」

「はい教官!」





戦闘訓練でも厳しく怒られたペップだが気持ちを切り替えて訓練を続けた。



反抗しても何の得もない。



自分の弱さは良くわかった。



とても悔しかった。



だから強くなりたい。



ただ必死に訓練をした。





「戦術訓練だ! 峡谷に敵を誘い込んでどう撃退する? ペップ答えろ!」

「正面から襲いかかります!」

「馬鹿かお前は!! 虎白様と白王隊にできても基本的な部隊には不可能だ! 峡谷の左右に伏兵を配置しろ馬鹿が!!!」




訓練を進めれば進めるほど耳にする虎白の名。



一度会った事があったがそこまで凄いのか。



確かに尋常ではない気配はした。



ペップの中で虎白より夜叉子への忠誠心が厚かった。



訓練を終えたある日。



兵舎に帰る途中ペップは虎白に出会った。





「おいお前。 夜叉子知らねえ? 探してもいねえんだよなあ。」

「あ、ああ。 夜叉山にでも行ってんじゃないかな。」

「ふーん。 笛の練習でもしてんのかな。 可愛いなああいつ。」

「ああん? 可愛い?」





虎白を睨んで顔を近づけている。



しかし虎白は嬉しそうに耳をしくしくとさせている。



夜叉子の事を考えている様だ。



ペップの事は気にもとめていない。






「あいつさあ。 いいやつだよなあ。 俺大好きなんだよ。」

「お頭の事可愛いとか言ってんじゃねえ。」

「なんだお前。 可愛いだろ夜叉子。 俺の宝物なんだよ。」

「てめえうちの基地に何の様だよああ?」

「ああ?ってそりゃお前。 夜叉子と琴とたこ焼き食べるから呼びに来たんだよ。 琴のたこ焼きが美味いのなんのって。 ヒヒッ!」





ニコニコとして舌を出す虎白。



しかしペップは今にも殴りかかりそうだった。



牙を出して睨んでいる。





「琴の姉さんが何だって? てめえこの野郎やっちまうぞおらあ!?」

「ああ?」




ニコニコしていた虎白は一変してギロッと睨んだ。



するとペップの全身は金縛りでもあったかの様に動かなくなった。



以前にも同じ様な事があった。



学習もせずに威勢で虎白に突っかかった。






「あら虎白何してるの?」

「おー夜叉子そこにいたのか! 琴のたこ焼き食いに行こうぜー!」

「いいね。 行こうか。 ペップどうしたの?」

「い、いえ・・・」





虎白の顔を見るとすました顔をしている。



夜叉子は目を細めてじっと虎白を見る。



するとニヤけて夜叉子の肩をツンツンと触る。





「いじめてないでしょうね?」

「何もしてねえよ。 それより早くたこ焼き! 夜叉子笛の練習してたのか? 俺にも聴かせてくれ! お前の笛が大好きなんだよー!」

「はいはい。 どうせ直ぐ寝ちゃうでしょ。」

「それはあまりにいい音色でさー。」

「わかったから行くよ。」





2人は楽しげに去っていった。



前にもあった様な光景だ。



ペップは立ち尽くして2人の背中を見ている。

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