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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第40章 継ぐ者

「ん・・・んん・・・」

「大尉いつまで寝てるんですか?」

「リト?」

「起きてください。 まだやるべき事があるんですよ。」

「私もあなたの元へ行くわ。」

「ダメですよ大尉。 ほら竹子様や又三郎様が待っていますから。」





すっと目を開けると真っ白の天井が見える。



ムクっと起き上がると周囲で眠る包帯だらけの兵士達。



ハンナは白陸軍病院で目を覚ます。



脳内で蘇るリトとの思い出。





「リトに起こされた。 私はまだ到達点に行くべきじゃないのね。」





そしてハンナは退院して白神隊の基地へと戻る。



多くの部下達に迎えられ自分の大隊長室へと入る。



机の上に置いてある書類を手に取り目を通す。



ハンナは書類を読んで目を見開く。





「しょ、少佐・・・私が少佐・・・」





昇進の書類だ。



ハンナは大尉から少佐になった。



指揮兵力は3000。



現在の白神隊全戦力を指揮する事になっている。



混乱しているハンナの元へ竹子がやってくる。




「おかえりなさい! 元気そうで良かった。」

「竹子様! 長らく留守にして申し訳ありません。 何が起きているのかわからないのですけど・・・」





竹子は険しい表情をしてハンナの部屋の窓から外を見る。



病院から基地へと歩いたハンナも何か異変が起きている様な気はしていた。



ため息混じりの声で竹子は口を開く。





「どうやら内乱が起きている様で・・・白陸軍に出動命令は出ていませんが虎白は白王隊と共に何処かへ出掛けてしまいました。 そして私の白神隊は兵力増強になります。 2個大隊となりそのうちの1個大隊をあなたに任せたいのです。」





意識を失ってから数日。



天上界では内乱が起きている。



ハンナはそれぐらいしか理解できていない。



そして少佐への昇進。



とにかくハンナは竹子の言う通り少佐となり兵力3000を指揮下に入れた。



竹子は一礼すると部屋を出て行く。



ハンナは椅子に座って考え込む。





「総兵力6000に増強。 責任も倍増ね。 私が少佐かあ・・・平蔵さんの位にまで追いついたのね・・・いつかまた会えたら褒めてもらえるかな。」






コンコンッ!




「どうぞ。」

「失礼します! ルーナ大尉と申します! よろしくお願いします! 今日から少佐の補佐としてお仕えさせていただきます!」

「よろしくね。 新任の大尉ね。 何処の隊に所属していたの?」

「リト少尉の隊の軍曹でした。 大出世させていただいて緊張してます・・・」

「そう。 リトの・・・」





かつてのリトの副官がハンナに仕えた。



ルーナはオレンジ色の髪の毛が綺麗な女性だった。



ビシッとしてハキハキとした態度は軍人らしく立派だったが何処かあどけなさもあり可愛らしかった。



リトの副官と聞いたハンナは少し切ない表情で遠くを見る。




「お二人が非常に親密な関係だった事は少尉から聞いています。」

「あなたはリトの忘れ形見の様ね。 絶対に死なせるわけにはいかないわ。」

「それは私のセリフです。 少佐をお守りするのが私の役目。 リト少尉のためにも。」





敬礼してハンナの目をしっかりと見ている。



ハンナはルーナに一礼すると立ち上がり軍服のコートを着る。



ルーナは不思議そうにハンナの顔を見る。





「少佐。 どちらへ?」

「ちょっと付き合ってもらえる?」

「わかりました! お車は用意しますか?」

「そうね。」

「了解!」




部屋を出ていき車を取りに行くルーナ。



ハンナは黙って基地の正門へと向かう。



階段を降りて建物を出ると外で整列して敬礼する大勢の兵士。



ここにいる全てがハンナの指揮下。



ハンナは歩きながら敬礼すると車の後部座席に乗る。



ドライバーが敬礼してルーナはハンナの隣に座る。



そして基地を出るとドライバーが尋ねる。




「少佐殿。 どちらへ?」

「ためらいの丘まで。」

「・・・かしこまりました。」

「少佐。 このドライバーも私の部下なんですけどリト少尉の兵でしたよ。」

「そう。」

「少佐殿の事は少尉からたくさん・・・」

「黙って運転しなさい。」

「申し訳ありません少佐殿・・・」





ハンナは何も言わずに車の窓から外を見ている。



ルーナはチラリとハンナを見るとその表情は今にも泣き出しそうだった。



リトが残した大切な兵士達。



ハンナは兵士達を守らなくてはならないと自覚しながらもその重圧とリトを失った悲しみに押し潰されそうになっていた。




ためらいの丘に着くとドライバーがドアを開けてハンナは降りる。



白神隊墓地と書いてある墓石の前を歩く。



どれも知った名前が書いてある。



そしてハンナは目を疑った。




「グリート・・・あなたも。」




墓石に書いてある名前に愕然とする。



ハンナがまだ中尉だった頃に同じ中隊長としてライバル視をしてきた犬の半獣族。



ハンナとは決して仲は良くなかったがお互いを高め合うライバルだった。



グリートはハンナの大隊に所属していなかったので安否すら知らなかった。



数少ない同期。



今回のアーム戦役でハンナの同期はほぼ全滅。



先輩か後輩だけになってしまった。



グリートの墓石の前で立ち尽くす。



ルーナと部下はじっと見ている。



かけてあげられる言葉もなかった。



グリートの墓に優しく手を当てるとまた歩きだす。



同期達の名前が書かれる墓石を見て悲痛の表情のまま歩いている。



そしてリトの墓石の前に立つ。



目を瞑り思い出すリトとの日々。





「楽しかったよね。 色んな方々と触れ合えた。 虎白様と戦った事は本当に良い経験だったよ。 あなたが共にいてくれたから勇気が出たよ。 宮衛党は残念な結果だったけどこれからまたしっかり鍛えるからね。 そっちに平蔵さんや太吉さんはいる? あなたの同期は? 私の・・・私の同期は・・・?」





ハンナはその場で崩れ落ちてリトの墓石に手を当てている。



大粒の涙が溢れ出て、もはや動く事すらできない。



後ろに部下がいるにも関わらず子供の様に泣く。



それも当然だ。



ハンナの出世は常にリトと共にあった。



苦しい事や楽しい事もいつだって隣にいた。




「どうして・・・私も連れて行って・・・置いていかないでよ・・・平蔵さんも太吉さんも同期のみんなも・・・あなたも・・・寂しいよ・・・私なんかで竹子様を支えられるのかな・・・」




ハンナは泣き止む気配がなかった。



ルーナと部下は何もできなかった。



チラリと横目で見るとルーナの隣には虎白が立っていた。



慌てて敬礼するとルーナの肩に手をポンっと置いて優しく微笑む。



虎白の片手には白い花束があった。





「ようハンナ。」

「こ、虎白様・・・」

「・・・・・・」

「みんな・・・みんな逝ってしまいました・・・」





ハンナの背中を優しくなでると虎白はハンナの隣にしゃがみ込んで白い花束をリトの墓の前に供える。



大きく息を吸って吐く。



虎白の声も少し震えている。



そしてハンナを見るとニコリと微笑んで頭をなでる。





「悪かったな。 大勢失った。 でもお前が生きていてくれてよかった。」

「同期も・・・リトも・・・」

「ああ。 でもお前は生きている。 俺もな。 俺達にできることは何だろうな? 先に逝ったリト達のためにできることってよ。」




ハンナは泣きながら考えた。



大好きなリト達を失って自分は少佐になった。



大好きなリトが大好きだった部下が後ろに立っている。



虎白はじっとハンナを見ている。





「彼女らを失わない様に努める事ですか。」

「かもな。 それも間違ってない。 でもな。 お前は悪くない。 リト達の事はお前のせいじゃない。」

「でも・・・その場にいました・・・」

「ああ。 それでもだ。 だからな。 とにかく精一杯生きようぜ。 リト達の分までよ。 俺には夢がある。 戦争のない天上界だ。」





その言葉はハンナの身体の中を突き抜けた。



なんて大それた夢なんだとハンナは思った。



しかしこの鞍馬虎白ならできるかもしれないとも思った。



犠牲者を大勢出しても彼は背負い諦めずに戦う。



戦うしかない。



冥府軍は容赦なく攻めてくる。



それなのに虎白は戦争のない天上界を作ると言った。



ハンナには想像もつかない世界だ。



しかし何故か実現する気がした。




「いいかハンナ。 この先もきっと戦いは起きる。 でも俺は諦めないぞ。 リトだって俺の大事な兵士だ。 お前もな。 そこに立ってる2人だってよ。 今回やらかしたメルキータと宮衛党だって。 俺はお前らを1人も失いたくない。 そのためには戦わない事なんだ。 実現は難しいかもな。 でも諦めない。」

「どうして・・・どうして虎白様はそんなにお強いのですか・・・」




ハンナは虎白の顔を見た。



虎白の目からは涙が出そうだった。



力強い言葉とは異なり表情は辛そうだった。





「強いか・・・どうだろうな。 ただ俺はお前の気持ちが痛いほどわかる。 大切な存在を失う辛さは耐え難いよな。 俺も大勢失った。」

「虎白様・・・」

「ハンナ。 いくら泣いてもいい。 ただな。 生きような。 そして忘れるな。 お前には竹子も俺もいる。 そこに可愛い部下もいる。 1人じゃねえよ。」

「うう・・・うう・・・虎白様・・・」





ハンナの頭を優しくポンポンっとなでると立ち上がりその場を後にする。



ルーナ達はまた敬礼すると優しく微笑んでルーナの頭もポンポンっとなでる。



思わず赤面してしまったルーナだったが虎白が帰っていくと慌ててハンナに駆け寄る。





「少佐! 行きましょう! 竹子様がお待ちですよ!」

「うん。 ルーナ。 これからよろしくね。」

「こちらこそです! 頑張りますのでご指導よろしくお願いします!」





そしてハンナは車に乗って白神隊の基地へと戻った。





「なんかすげえ美人な少佐らしいぜ!」




ニヤついた表情で整列しながら話す白陸軍兵士。



今回のアーム戦役で失った白神隊員と新たに第1軍から私兵に昇格する3700名の兵士。



この世の終わりの様な死闘の中で多くの敵を討ち取った猛者達が選出された。



既存の白神隊は又三郎が指揮する事になりハンナの指揮下に入る兵士はほとんどが今回の補充兵だ。





「いやあ。 あのおっかねえ顔の中佐じゃなくて良かったよなあ! 美人な少佐が早く見てえ!」





又三郎は総勢6000人となった白神隊全体の指揮官であり半数の3000を直轄として率いる事になった。



ハンナを見たくてざわめく兵士達。



そんな話をされているとは知らずハンナは整列する兵士の前に立つ。



兵士はさらにざわめいた。





「か、可愛い・・・おい想像以上じゃねえか!」





整列しながらもザワザワと騒ぐ兵士を見てハンナは目を細める。



小さくため息をつくと鋭い目で兵士を見る。



そして大きく息を吸う。





「全員!! 気をつけ!!」




ザッ!




ざわめいていた兵士達は驚いて一斉に姿勢を正す。



ハンナが兵士になってから8年あまりが経つ。



立派になったものだ。



自分達に自信があり美人な少佐を見て鼻の下を伸ばす兵士達を一喝できるほどに彼女は成長した。





「私が諸君らの指揮官のハンナ少佐だ。 今日から諸君らは大将軍竹子様の私兵となる。 今までも第1軍として竹子様の元で戦っていた諸君らなら心配はないが念のために言っておく。 我ら白神は無敵! いついかなる時も竹子様をお守りする事を忘れるな! わかったか!?」

『おおおおおおー!!!!!』





歓声に湧く兵士達を見るとハンナはうなずいて去っていく。



ルーナはハンナを見て興奮している。



頬を少し赤くしてハンナに飛びつく勢いで近寄っていく。





「か、カッコいいです! なんかあの補充兵達は荒くれ者っていうか。 柄悪かったのに・・・一声で黙らせるなんてっ!!」





嬉しそうに話すルーナを見てもハンナはすました顔をして歩いている。



そのクールな態度にさらに興奮するルーナはハンナの近くから離れない。



眉間にシワを寄せてルーナを遠ざける。





「ち、近いよ。 あのアーム戦役を生き延びるどころか手柄をあげている兵士達よ。 竹子様の私兵を務めるならあれぐらいの気合いがないとね。」

「でもその気合い満タンな彼らを一喝させられる少佐はカッコいいです!」

「はあ・・・まあ兵士も来た事だし訓練しよ。 またいつ大きな戦いが起きるかわからないもの。 それに虎白様と白王隊は大軍で何処かへ行ったわ。 何か起きてもおかしくない。」





気がつけば歴戦の兵士。



ただ生きる事で必死だったのに。



第七感まで使う数少ない精鋭の1人になっていた。



ルーナを先に兵士達の元に行かせるとハンナは一度基地内にある自室に戻る。



ソファに座り込み天井を見つめる。



大きなため息をついて目に涙を浮かべている。





「ねえみんな。 そっちはどう? 楽しくやっている? リトが可愛いからってナンパとかしちゃダメだよみんな。」





誰もいない部屋でニヤけながらぶつぶつと話す。



竹子の様に後ろで束ねていた髪を降ろす。



ソファに深く腰かけるとまたニヤける。





「そういえば同期のみんなは平蔵さんの訓練が厳しいからって良くサボっていたなあ。 バレない様にしていたけどバレてめちゃくちゃに怒られてたっけ。 ふふっ!」





ただ1人生き残り続けるハンナ。



新体制となって成長していく白神隊だがハンナは孤独に押し潰されそうになっていた。



上か下しかいない。



心許せる仲間がいない。



平蔵も太吉もグリートもリトも。



もう誰もいなかった。





「ねえみんな。 どうして私だけ生き残ったの? どうして先に行ってしまったの? いつだったかお酒飲みながら竹子様を絶対に守ろうって約束しなかった?」





誰もいない部屋で1人話し続けるハンナ。



泣きながらも話し続ける。



昔からそれに応えてくれる誰かがいた。



部屋の外で立っている存在に気がつかないほどハンナは先に逝った英雄達の事を考えていた。



目を瞑りドアの先で泣いているハンナに意識を集中させる。



同様に目に涙を浮かべてうつむく竹子が立っている。



ハンナの第六感なら竹子の強い気配に気がつくはずだ。



しかし今のハンナには不可能だった。





「ハンナ・・・私じゃダメかな・・・大将軍だとかそんな事どうでもいいのに・・・」





悲しそうにハンナの部屋から離れていく。



ハンナの苦しみは竹子も同様だ。



自分が全力で戦い何人の冥府軍を倒しても。



兵士が死んでしまう。



新体制となった白神隊だがその指揮官達はアーム戦役の傷が全く癒えていなかった。



その中でも凛として天上界南側領土の平定に乗り出した虎白とは。



白陸軍を連れずに出陣したのは兵士達の心の傷を案じてか。



一体どれほど強いのか。



神族だからか。



しかし竹子やハンナは人間だ。



彼女らには時間が必要だった。

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