第39章 ウランヌの決断
これはアーム戦役とは別の場所で起きた戦い。
白陸国内での戦闘。
前線がどうなっているかわからない。
ウランヌは兵500と共に白陸に残って守りを固めていた。
「メルキータ大丈夫かなあ・・・しっかりやってるかな・・・」
心配そうに耳をシクシクと動かしている。
尻尾も垂れ下がったままソワソワと辺りを彷徨っている。
城の城壁から遠くを見ているとウランヌは異変に気がついた。
「て、敵!? いや味方!?」
地平線に見える大勢の兵士。
天上軍の旗を掲げている。
西側領土の旗だ。
一呼吸ついてウランヌは落ち着く。
「なんだ西軍かあ。 虎白様があらかじめ要請しておいたのかな。 さっすが虎白様。 本当に賢いお方。」
城に残る白陸軍数万が安堵している。
それとは別に砂煙を上げて別方向から迫る何か。
ウランヌはそれも不思議そうに見つめている。
物凄い速さで迫ってくる何かは白い狐の群れだ。
四足歩行で爆走している。
やがて城門まで来ると空中に舞う。
すると二足歩行の半獣族の見た目に変わった。
「おい門兵開けろ! 紅葉だ! 一大事だぞ!」
虎白の側近の紅葉。
赤い毛先の髪をなびかせている。
同じく赤い瞳は物凄い眼力だった。
慌てて門兵が開門すると紅葉達は急いで城の中に入って行った。
城の中庭で他の狐達は待機しているが左右の腰に差している刀を抜いて鋭い表情のままだ。
ウランヌは恐る恐る近くにいた狐の兵士に尋ねた。
「あ、あの。 アーム地点へ出陣したんじゃ?」
「うん。 それがこっちにも敵が迫っていてね。 我々紅葉隊だけ戻って来たんだ。」
「敵ですか!? 冥府軍の別働隊ですね。」
「いや。 そこに見えている西軍が模擬演習を仕掛けて来た。」
驚いたウランヌはその場に立ち尽くした。
南側領土の一大事。
そんな時に主力として戦う虎白の領土を攻撃するなんて。
しかめ面でウランヌはじっと考える。
「誰かの差し金ですかね。 とにかく今は戦わないと。 アーム地点で主力軍が勝利すれば挟み討ちにできます。」
「意外に賢いな。 雪豹。 名前は?」
「宮衛党のウランヌです!」
紅葉の兵士はウランヌに一礼する。
すると紅葉が鬼の形相で戻ってくる。
紅葉の兵士達は一礼している。
「西の逆賊を叩くぞ。 白陸兵を囮に使う。 城の守りは我ら紅葉隊で十分だ。 そこの雪豹。 今言った通りだ。」
「恐れながら紅葉様。 こやつなかなかの知恵者かもしれません。 城壁の一部をこやつと宮衛党の兵士に任せてみてはいかがでしょうか?」
紅葉は目を細めてウランヌを見る。
しかしいつも信頼している有能な部下がウランヌを推薦している。
静かにうなずく。
「私はお前を良く知らない。 しかし私の有能な部下の事は良く知っている。 その大切な部下がお前を信頼するなら私も信頼しよう。 兵はどれほどいる?」
「あ、ありがとうございますっ!! 兵士は500です! 乱戦に特化した部隊です!」
赤い毛先を触って紅葉は考える。
何やら問題でもあるのか。
毛先を触ったまま遠くを見ている。
迫りくる西軍。
時間はない。
「乱戦か。 確か西には乱戦を極めた軍がいると聞くがそれでも乱戦に出たいか?」
ウランヌの目は真剣だった。
今日まで白神隊や獣王隊。
進覇隊といった強力な部隊に鍛えられた。
紅葉が止めておけと言っても戦いたかった。
理由は単純。
白陸の危機。
それはつまり大好きな優奈の危機と同じだからだ。
一緒にまたお風呂に入りたい。
髪の毛をとかしてほしい。
ご飯を作ってほしい。
ずっとずっと。
そばにいてほしかった。
「戦います! 相手が殺傷性のない模擬演習用の武器だからではありません! 例え真剣を持っていても戦います! 国を。 優奈姫様を守りたい! 虎白様のお役に立ちたいです!」
ウランヌは毛を逆立てて叫んだ。
何を言ってもウランヌの気持ちは変わらない。
紅葉は部下と顔を見合わせる。
「ヒヒッ。 悪くない。 気に入ったぞ雪豹。」
「宮衛党のウランヌです! 階級は大尉です!」
「そうかウランヌ。 死ぬ気で戦え。」
「はいっ!!」
ウランヌは宮衛党に戻り後宮付近の城壁の守りについた。
幸い優奈は下界にいる。
今のうちに敵を追い払いたい。
ウランヌは剣を握りしめて迫りくる西軍の大軍勢を見る。
「絶対に後宮には入れない! 優奈姫様! メルキータ! 前線に行ってるみんな! 私に任せて!」
「アウッ! アウッ!」
真紅のマント。
屈強な体格。
金色の鎧兜。
兜には赤い鶏冠。
ギリシア最強の軍隊。
スパルタ軍。
スパルタ教育とはこのスパルタという国からきている。
産まれた瞬間から彼らは戦士だ。
それから過酷な訓練を重ねて成人する。
兵力としての規模はさほど大きくはない。
しかし1人1人が武の達人。
ウランヌが見ている真紅の軍団とはそんな相手だ。
「な、なんか凄い強そうね・・・」
一体感があり士気の高さも尋常じゃない。
まるで戦場こそが自分達の居場所だと言わんばかりに高揚している。
2万人からなるスパルタ軍が先鋒となって白陸へと攻撃を仕掛けてくる。
ウランヌ達が布陣する後宮への城壁にも数百人のスパルタ軍が攻め込んできた。
宮衛党の兵士達はその威圧感に怯える。
毛を逆立てて今にも逃げ出しそうだ。
「射撃隊構えてー!!」
ウランヌの声でライフルを構えると城壁の下にいるスパルタ軍は一斉に盾を構える。
動きの一つ一つがピッタリ合っている。
その練度の高さに宮衛党兵士は更に怯える。
ウランヌはその姿を見て目を瞑る。
脳内で蘇る大将軍の私兵との訓練の日々。
何度も挫折しかけたし、何度も死にかけた。
でも乗り越えた。
ウランヌは心の中で自分に言い聞かせる。
(白神隊に始まり、獣王隊に進覇隊。 本当に強かった。 私達はどうしてあんなに強い方々と戦わないといけないのかと考えた。 でも今は良くわかる。 優奈姫様をお守りする。 白陸の役に立つためよ。)
目を開けるとウランヌは大きく息を吸った。
身体を少しのけぞらせて空を見る。
天空を見つめると浮かび上がる友の顔。
「宮衛党ー!!! 怯むなー! 前線では兄弟、姉妹達が冥府軍の魔の手からこの白陸を守ろうと血を流しているんだー! それなのに私達が怯えてどうするのー! 私達が負けたらこの白陸が奪われるの! 前線の兄弟、姉妹達の家がなくなってしまうのー! だからみんな! 戦うよっ! 大将軍様の私兵との日々を思い出して! 今日のためなの! こんな連中に負けていたら私達は絶対に! 優奈姫様もメルキータの事も守れないぞー!! 宮衛党! 勝つぞー!!」
城壁から響く声。
ウランヌの隣にいる兄弟、姉妹達の表情は闘志に満ちていく。
長らく餌にありつけていない猛獣の様に。
目の前にいる真紅の戦士達を食い殺さんとしている。
しかし無能な獣ではない。
ウランヌの声で奮起した獣達は同じく命懸けで戦う兄弟、姉妹達のため。
優しい主優奈のため。
我らが祖国のため。
『ガオオオッ!!!』
スパルタ軍は警戒したまま城壁の下にある大きな門に辿り着くと破城槌で門を攻撃し始める。
城壁の上からライフルを構える宮衛党は落ち着いていた。
我らにはウランヌがいる。
「この時を待っていた。 城壁に近づけば銃撃も防ぎきれないでしょ。 それに昔美桜がやった戦術よ! 夜叉子様が教えてくれた! 今だあああああ!!」
ウランヌの一声で放たれる銃撃の雨。
スパルタ軍は何食わぬ顔で防いでいる。
しかしこれはどうか。
ドッシャーンッ!!!
『ああああああああああああ!!!!!!』
城壁から降り注ぐ熱湯の雨。
さすがのスパルタ軍も倒れ込み悶え苦しんでいる。
すかさず城門が開く。
ウランヌは直ぐに下に降りていた。
剣を抜いている。
「突撃ー!!!!!」
『ガオオオッ!!!』
軽歩兵を中心に編成された乱戦部隊。
雪豹のウランヌを先頭にチーターや黒豹といった足が速く強靭な肉体を持つ半獣族が火傷に悶えるスパルタ軍に襲いかかる。
まさに狩りになっていた。
倒れるスパルタ兵の首に噛み付いて投げ飛ばす。
盾を構えるスパルタ兵ごと吹き飛ばす。
しかし相手は人間最強のスパルタ軍。
「人間を舐めるな獣め」と言わんばかりに。
ガッシャーンッ!!
盾で宮衛党の兵士を殴る。
その威力に吹き飛ぶ宮衛党の兵士。
ウランヌは目を疑った。
白神隊や獣王隊でも純粋な乱戦になれば圧倒できた。
乱戦の威力だけは負けないと思っていた。
なのにまさか。
スパルタ軍は火傷と最初の接敵で気絶した兵士以外は直ぐに立て直した。
そして綺麗に並び盾を構えて近寄ってくる。
「人間も限界まで鍛えるとこんなに強いのね。 でも負けないよ。 種族も関係ない。 私達は負けない! メルキータ!!! 優奈姫様!! これが我ら宮衛党だあああああ!! 城壁の予備戦力も投入! 全兵士500で乱戦にするよ! みんな突撃いいいいい!!!」
アーム戦役を利用して憎き虎白の白陸を攻め込む西側領土の連合軍。
300万からなる連合軍の主力はスパルタ軍。
しかしここに来て誤算が2つ生じた。
1つは1500狐もの白王隊が存在していた事。
そしてもう1つ。
突破は容易と想定された後宮からの白陸城内へ突入が大幅に遅れてしまった事だ。
ウランヌは戦い続けた。
「はあ・・・はあ・・・」
周囲で気絶する大勢の宮衛党。
やはりスパルタ軍は強かった。
しかしウランヌも宮衛党も一歩も退かなかった。
優奈と白陸を守るために。
ボロボロのウランヌは戦い続けた。
そんな時。
スパルタ軍が撤退を始める。
正門を攻撃していたスパルタ軍が白王隊によって壊滅させられた。
西側連合軍の総大将が降伏した。
戦いは白陸の勝利に終わった。
「か、勝った・・・ニャーオオオオオオオオッ!!!」
ウランヌの勝利の咆哮は後宮への門で響いた。
600名のスパルタ軍の猛攻を防いだ。
立っている宮衛党は数匹。
全員がボロボロだった。
「驚いた。 ウランヌ無事か。」
紅葉が護衛と共に現れる。
目を見開いて耳をピクピクと動かしている。
今にも倒れそうなウランヌを座らせるとその前でしゃがみ込んで優しく微笑む。
「お手柄だ。 ここが突破されていたら我々も敵から挟撃されていた。 この事は虎白様に私から話してやる。 前線のお前の仲間も誇らしいだろうな。」
降伏する西側連合軍の後方で上がる白陸軍の旗。
虎白と主力軍がアーム戦役から戻ってきた。
西側連合軍を蹴飛ばしながら城へ入ってくる。
紅葉はウランヌを立ち上がらせて正門へ向かった。
しかしそこでウランヌが見た光景は目を疑った。
というより理解ができなかった。
手錠をされてうつむく宮衛党の仲間達。
「邪魔だよこいつら! おお。 紅葉良くやった。」
「虎白様! な、何事ですか?」
「こいつら裏切りやがってよ。 危うく全滅する所だった。」
紅葉はウランヌを見る。
唖然とするウランヌを見て紅葉は冷静に口を開いた。
「知らなかったんだろ。 お前が前線にいると裏切れないから残されたんだろ。」
「そ、そんな・・・どうしてよ・・・」
虎白はウランヌを見てため息をつく。
ウランヌはその場に崩れ落ちる。
紅葉は虎白を見て首を振る。
「裏切り者は処分致しますか。 しかしこのウランヌ。 たった500で敵の猛攻を防ぎきりました。」
「処分なんかしねえよ。 褒美もあげられねえけどな。 ただウランヌと兵500にはなんか褒美あげねえとな。」
虎白はウランヌの頭をガシガシとなでると城の中に入っていく。
その場に崩れ落ちて硬直するウランヌ。
僅かに意識を保っている兵士はその衝撃で気絶してしまった。
命懸けで戦ったのに。
前線で仲間も苦しんでいると思ったのに。
「メルキータ・・・それでもあなたが総帥・・・わかった。」
ウランヌは剣をその場に置いて両手をあげて白王隊の元へ向かう。
紅葉は驚いて近寄ってくる。
気絶している宮衛党の兵士をシーナと衛生大隊が手当てしている。
紅葉の前で両膝をつく。
「な、何している?」
「降伏します。」
「お前はおとがめなしだぞ。」
「いいえ。 私も宮衛党。 1人の失態は全員の失態だと竹子様から教わりました。 総帥のメルキータが選んだ道なら私も従います。」
紅葉は耳をかいてウランヌに手錠をする。
しかし紅葉は直ぐに虎白の元へと向かった。
ウランヌだけは何とかしてほしいと頼みに。
だが虎白は宮衛党を処分しなかった。
しばらく訓練も武装も許されないが処刑も追放もせずに妻の優奈を守る様にと総帥のメルキータに頭を下げた。
その後ウランヌと兵500は虎白から呼び出された。
「お前達は未曾有の危機でも果敢に戦い危機から国を。 後宮を守った。 よってお前達の階級を二階級昇進させる。 指揮官のウランヌには俺からの褒美だ受け取ってくれ。」
ウランヌは中佐になり総帥のメルキータと同率の階級となった。
これは虎白からのメッセージなのか。
宮衛党を指揮するのはお前だという。
しかしウランヌはそれでもメルキータが総帥だと誓った。
そして虎白から与えられた褒美はダイヤモンドで作られた拳銃だ。
ずっしり重たいが狙いやすくその威力は凄まじかった。
近距離で敵の頭にでも当たれば顔ごと吹き飛んでしまうほどにだ。
ウランヌと兵500は宮衛党の予備戦力から主力になった。
唯一実戦を経験した精鋭として。
メルキータはその後も精神的に病んでいたがウランヌはそれでも彼女を支えて宮衛党の訓練をした。
宮衛党のウランヌの名は白陸軍で知れ渡った。
これが天上史に残るアーム戦役の裏側で起きた物語だ。
そして物語は続く。




