第33章 消えた主達
朝目が覚める。
フカフカのベットで仰向けになっているハンナ。
昨晩に酒を飲みすぎたせいか。
頭痛と共に目が覚めて天井をぼーっと眺めている。
下着すらつけずに全裸でベットの中にいる。
すると自分の隣でゴソゴソと動く気配を感じ顔を横に向ける。
「えっ!? リト?」
隣には裸でうつ伏せになって眠っているリトがいる。
ハンナは目を見開いて唖然としている。
「嘘でしょ。 覚えていない。 酔った勢いで私もしかして・・・」
「んー。 健太ごめんね・・・大尉大好きです・・・」
寝言を言いながらむにゃむにゃと寝返りをうつ。
ハンナはリトを起こさない様にそっと立ち上がり眠っているリトに布団をかける。
「間違いない。 私はやってしまった。 健太? そういえば彼氏ができたって喜んでいたかな。 彼のためにもこれはなかった事にしないと・・・」
急いで制服を着て机に座る。
昨日の戦闘で負傷した第1軍の人数が記されている報告書を見ている。
さほど多くはなかったが心配そうに目を通す。
戦死者はいない。
まずそれに安堵した。
コンコンッ!
「大尉入ります!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って! 私が行くから!」
「え? いや報告に来たんで入らせていただきます!」
「ダメッ!!」
ガチャ
「だからダメだって!」
ドアを必死に押さえているハンナ。
報告に来た兵士は不思議そうにしている。
「ちょっと。 大尉どうなさったんですか?」
「えっと。 あの。 まだズボン履いてないの!」
「し、失礼しました! あ、そうだ。 リト少尉が小隊に戻ってないと報告がありましたが何か知っていますか?」
「えっ? えっとそれはその・・・た、竹子様から何か特別な任務を任されて・・・」
「はい? いや実はその竹子様もいらっしゃらなくて。 とにかく早くズボン履いてください! 色々話したいんです。」
冷や汗をかいて必死にドアを押さえている。
ドアの向こうにいる兵士の方を見たり裸で眠っているリトを見たりと終始焦っている。
兵士が言っている竹子がいない事も気になっているが今はそれどころではなかった。
「大尉履かれましたか?」
「あ、あれー? ズボンどこかなー。 ちょ、あのっ! 探すから後でまた来てもらえる?」
「りょ、了解しました。」
兵士は去っていく。
開きかけたドアが閉まり歩いていく足音を聞いている。
第六感まで発動して兵士の気配が離れていく事まで確認すると大きく息をついてドアの鍵を閉める。
「んー。 ん? あれ? ハンナ大尉の匂いがする・・・ここは私のベット・・・ってか頭いったー」
頭を押さえながらムクッとリトが起き上がる。
キョロキョロしてハンナが机に座っている事に気がつく。
「あ、あれ!? 大尉おはようございます! 私どうしてこんな所に?」
「昨日酔っ払って眠ってしまったの。 だから私の部屋まで連れて帰ったの。」
「え、でも。 私服着てないんですけど・・・」
「ええっ!? それはあのー。 寝相が悪くて脱いでしまったんじゃない?」
リトは目を細めてハンナを見る。
そしてはっと目を見開いて自分の身体を見ている。
「も、もしかして。」
「シーッ。 何もなかった。 きっとそうよ。」
「大尉も覚えていないんですか?」
「う、うん。 だから何もなかった。」
2人は顔を見合わせてうなずく。
近頃非常に仲のいい2人だがどう言った展開で間違いが起きたのか。
全く覚えていない。
これはハンナとリトの秘密。
「そ、それより竹子様がいないって兵士が言ってたの。」
「あー! もうこんな時間! 小隊に戻らないと!」
「じゃあ私は又三郎様の元へ行って竹子様の行方を聞いてくる。」
リトは慌てて制服を着て自分の小隊の元へ向かう。
ハンナも部屋を出て又三郎の元へ向かう。
兵士の言っていた事は本当なのか。
それを確かめるために又三郎の元へ足を進める。
秘密の夜を越えて。
又三郎が渋い顔をして部屋に立っている。
その場にはハンナと他の大隊長。
状況がわからずにハンナは周りをキョロキョロしている。
「良いか。 他言無用だ。 私兵の中では噂になっている。 一般兵や民に知られると混乱となる。」
一体何を言っているのか。
ハンナはキョトンとしている。
隣の大隊長を見ても同じ表情だった。
「虎白様が竹子様含め大将軍を連れて冥府に行かれた。」
『!!!!』
ハンナは口に手を当てている。
驚きのあまりに言葉が出ないのと同時に理由がわからなかった。
まさか冥府に寝返る。
そんな馬鹿な。
大隊長達は色んな事を頭で連想させては混乱していった。
「理由はわからぬ。 しかしミカエル兵団の天使が来ておった。 その後。 虎白様は大将軍を連れて出て行かれた。」
何故理由を話さなかったのか。
残された者達は混乱していた。
コンコンッ!
白神隊の将校が集まる部屋のドアをノックする音。
全員がドアを見ている。
又三郎の「入れ。」という声でドアノブが回り入ってきた者。
「し、失礼します。」
グレーアッシュの髪色に頭から生える犬の耳。
宮衛党のニキータにそっくりだが髪型が違う。
ボーイッシュなショートカット。
ニキータより気の引き締まった顔をしている。
彼女はメルキータ。
ニキータの姉であり宮衛党の総帥。
「あ、あのー。 虎白と大将軍なんですけどー。 冥府に行った理由知りたいかなあと思って。」
「勿体ぶってないで早く言わぬか!!」
「ひっ!! あ、あの! 先日の戦いで活躍したサラって方が冥府軍に捕らわれてしまったみたいで。 救出に行くとかで・・・」
又三郎は大隊長達と顔を見合わせる。
眉間にシワを寄せて険しい表情をする。
そしてドンッ!っと机を叩く。
「何故。 わしらを置いて行かれたのか。」
「な、なんか無駄な犠牲を出したくないとかで。」
「我らの主が命の危険にあるのに黙っておいて何が私兵だ!!!」
「ひっ!!」
メルキータはおどおどしながら又三郎を見ている。
騒然となっているその場。
又三郎は刀を腰に差す。
「兵に準備させよ。 我らも冥府へ行くぞ。」
『はいっ!!』
白神隊は緊急召集された。
つい先日の戦闘からまだ日が浅い。
しかし一大事。
又三郎が兵3000を連れて白神隊の基地を出ようとしている。
しかし城門には女性が立っている。
鋭い目つき。
人間ではない。
虎が二足歩行で立っている。
白い制服に襟に黒い印。
彼女も何処かの私兵だ。
黒い印には「獣王」の文字がある。
「ガルルルッ。 待ちな。」
「これはタイロン殿。 貴殿の兵も準備なされよ。」
「又三郎さ。 自分達の主を信じられないの?」
「信じるも何も。 突然行かれたのだ。 お守りするのが我ら私兵だ。」
「だからその主が何も言わなかったって事は私兵は必要なく事を運べるって事じゃないの?」
大将軍夜叉子の私兵。
獣王隊の隊長。
虎の半獣族のタイロン。
メルキータ達とは異なる見た目の半獣族。
人間に似た見た目のメルキータとは異なりタイロンは虎のまま二足歩行で話している。
しかし高い知能を有して夜叉子からの信頼も厚い。
「だからさ。 お頭が1人で行ったって事はさ。 私達私兵には別のやるべき事があるんじゃないの?」
「それは何じゃ! 申してみよ!」
「信じて待つ。 混乱が広がらない様に兵の訓練でもして何事もない様に演じる。」
タイロンの言葉は夜叉子を代弁している様に完結だった。
夜叉子の見た目が虎になった様だ。
天才的軍略家の夜叉子の側近とは楽なものではない。
何度叱られたのか。
しかしその度に夜叉子は愛をくれてタイロンはその度に応え続けてきた。
だから良くわかる。
夜叉子が言いそうな言葉も。
我らのお頭が私兵を連れなかった。
「あんたら残って一般兵の訓練でもしてな。 私達だけで十分だよ。」と言うはずだ。
タイロンの鋭い目を見て又三郎も大きく息を吐く。
「何と見事な。 感服致した。 貴殿の申す通りだ。」
「物分かりが良くて助かるよ。 又三郎も竹子様から愛されてるね。」
「無論だ。 我ら白神いつも竹子様と共にある。 離れていても心は一つ!!」
『おおおおおおおー!!!!』
とある日の白陸。
当たり前の様に朝が来て国民は目を覚まして今日を過ごす。
仕事をして兵士は訓練をする。
国の運営の最高責任者達がいない事は知らずに。
私兵隊の隊長と将校達は何食わぬ顔で国を運営した。
内心はいつ主が戻るのかと不安で狂いそうだった。
それでも信じる。
これが私兵。
これが白陸。
これが神の国。
主達がいなくなって半日が経つ。
ハンナとリトは遠くを見て主の帰りを待つ。
「大丈夫なんでしょうかね。」
「うーん。 それにしてもあまりに急だったね。」
「虎白様がきっと直ぐに行こうと仰ったのでしょうね。」
白陸の国主にして狐の神。
愛する竹子の主。
鞍馬虎白。
メテオ海戦でも天才的な戦略で勝利した。
頭の中がどうなっているのか。
彼に会えば誰もが考える。
ただ賢いだけではない。
愛があり敬意がある。
だから竹子は心底虎白に惚れている。
「虎白様がいらっしゃるから大丈夫だよ。 竹子様を守ってくださる。」
「あの御2人は本当に仲が良いですものね。」
竹子はいつでも優しい笑顔で振る舞っている。
民や一般兵にも分け隔たりなく。
そして私兵を愛していつも笑顔で話しかけてくれる。
しかし虎白が現れるとその笑顔は更に美しくなる。
駆け寄って行っては何か楽しげに話している。
誰が見ても仲が良く見える。
虎白も笑顔で話すと竹子の頭を優しくなでている。
その時の竹子の表情ときたらまるで子供だ。
満面の笑みで幸せそうに笑う。
それを見ている私兵達も心が癒される。
「今日戻らなかったら又三郎様に出陣の許可を求めに行こう。」
ハンナが心配そうな表情でうつむく。
すると遠くから真っ黒に塗装されたトラックが走ってくる。
冥府軍の車両だ。
ハンナは慌てて基地をリトの小隊だけ連れて出る。
帝都へ向かって走っていく。
あまりに急だったので運転手の顔は見えなかった。
「い、今のは!?」
「わかりません・・・追いますか?」
「勿論! 兵には実弾を装備させて!」
ハンナ達は急いで後を追った。
トラックの存在に気づいた又三郎も僅かな兵を連れて追いかけている。
すると美楽隊や獣王隊の兵士に合流した。
進覇隊までも。
皆同じく不審に思い追いかけてきた。
トラックは帝都の入り口の門で停まる。
私兵達はトラックを囲み警戒する。
ハンナは運転席をすっと覗く。
キョトンとした顔でハンナを見る金髪の白人女性。
隣には大将軍のお初。
窓を開けて女性がハンナに話しかける。
「あーごめんねー驚いたよね?」
「えっとエヴァ様ですよね?」
「マジー? 覚えてくれてんの? まだ白陸来て日が浅いのに!」
エヴァ・スミス。
天上界に来た日にミカエル兵団にスカウトされた。
そして虎白がミカエル兵団から連れて来たサラが冥府軍に捕まると兵団は代用品の様にエヴァを白陸に渡した。
それ以来エヴァは白陸で過ごしている。
金髪に透き通るほど白い肌。
人形の様に可愛らしい童顔な顔。
深い海の様に青くて綺麗な瞳。
「あ、あのエヴァ様! 私は竹子様の私兵の大尉のハンナと申します! 主はいますか?」
「大尉!? オーマイガッ! 私は中尉だから上官でした! 申し訳ありません大尉殿!」
運転席から降りて来てエヴァはハンナに敬礼する。
不安げなハンナを見てエヴァは手招きして荷台へ連れて行く。
布がかかっている荷台をハンナは恐る恐る開ける。
「おお。 竹子の所の。」
「虎白様!!」
「ふふ。 心配かけてごめんね。」
「竹子様ー!!」
ハンナは安堵のあまりその場に崩れ落ちて女の子座りをする。
竹子が降りて来てハンナの背中を優しくさする。
虎白も降りて来て何食わぬ顔をしてエヴァと話している。
「じゃあこのまま帝都入るっすー。 乗ってくださいな。」
エヴァは運転席に戻り竹子と虎白も荷台に乗る。
そしてトラックは走り去って行った。
女の子座りしているハンナにリトが近寄ってくる。
「相変わらず何が起きるかわかったもんじゃありませんね。」
「本当に。 生きた心地がしないよもう。」
「じゃあ帰りましょうか。」
「う、うん。」
ある日の白陸の午後。
人々は仕事が終わり家に帰る者や休憩している者もいる。
一般兵は私兵達の指導の元訓練を続けている。
我ら白陸の国主と大将軍が何故か冥府のトラックで颯爽と戻ってきた。
知る者はあまりに少なかった。
黒いトラックが冥府の車両だなんて知る者は少ない。
ただ黒く塗装されたトラックが帝都に向かった。
その背後に何故か兵士がついてきていた。
きっと何かの訓練であろう。
目撃した国民はそれだけだった。
そして仕事に戻った。
白陸の午後は今日も平和であった。




