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天冥聖戦 外伝 帰らぬ英雄たち  作者: くらまゆうき
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第10章 覚悟

 平蔵が使っていた師団長室。



そこには平蔵の遺品があったが全て到達点へ送った。



しかし平蔵の匂いが消えない。



キリス戦線から数日。



太吉は平蔵の後継として師団長になり、平蔵の師団を率いた。



窓から街を見る。





「平蔵よ・・・お前の他にも1000人以上死んだ・・・まだ戦いは続く・・・」





キリス戦線で勝利したが白陸の南側領土にはまだ敵軍が残っていた。



再出撃の時は近い。




「師団長。 軍議が行われるのでお越しください。」

「相わかった。」




太吉は部屋を出る。





















作戦会議室。




「新たな師団長。 歓迎するぞ。」




虎白が太吉を見る。



会釈して黙り込む。




「おーい無視かー?」




甲斐が太吉に問いかける。




「よしなに。」

「なんだーこいつ。」

「いいよ甲斐。 仲間を失って傷ついているんだ。 太吉だったな? 軍議を始めるが大丈夫か?」

「はい。」




うつむく太吉を見つめる他の師団長達。




「キリス戦線で敵を撃退したが更に大軍が来る。 また出陣だ。 斥候部隊が戻らない。 伝令で周辺国へ出陣を促す。 竹子。 ミカエル兵団からは何か指示が来たか?」



首を横に振る竹子。



渋い顔をして虎白は一度窓から外を見る。




「あ、あの・・・」

「太吉。」

「わしの隊から伝令を送ります。」

「ありがとう。 全師団から周辺国に向かわせる。 太吉は武田、上杉、北条、長宗我部領に伝令を向かわせてくれ。」

「かしこまった。」





各師団から次の出陣に備えて他国に協力を促す伝令を送る。




「状況がわからない。 ミカエル兵団からの指示がない。 俺は兵団本部に向かう。 各師団は伝令よろしくな。」





そして一度軍議を終えて各師団へ戻る。





















「そういうわけで誰か伝令を頼めるか? ラルク大隊長。」

「お任せを。 私の部下に行かせましょう。」

「頼む。」




大隊長に昇進したラルクは部屋を出ていく。




「中隊長集まれ!!」




ラルクは中隊長を集めて話す。




「周辺国へ伝令を出すらしい。 兵から選んでくれ。」

「了解。 小隊長に話してきます。」




小隊長は自分の分隊を選んで伝令に向かわせる。




「伝令任務ですか?」

「いいか。 これは大事な任務だ新兵。」




トーン二等兵。



犬の半獣族。




「俺は走るのは得意です。」

「ああ。 だから頼んでいるんだ。 お前の他にも多くの伝令が周辺国へ走る。 必ず伝えてくれ。」

「わかりました。」




トーンは出発の準備にかかる。



「俺の初任務だ。 キリス戦線では怖くて何もできなかった・・・」




うつむいて仲間の死を思い出す。




「みんなごめんね。 必ず仇は討つから。 安らかに眠ってくれ・・・」

「そんな泣きそうな顔して。 これから任務なんでしょ?」




トーンの背中に手をポンっと置いて微笑む兵士。



リト二等兵。



人間の女性兵士。




「なんだリトか。」

「なんだって何よー。 友達が大事な任務に出るって聞いたから応援しに来たのに。」

「歩哨の任務はいいのかよ?」

「もう少しだけど出発前に顔を見に来たんだよー。」




トーンは少し微笑んでリトの顔を見る。




「やーっと笑った。」

「ありがとうな。」




リトはトーンの背中をさすってライフルを渡す。




「じゃあ。 行ってくる。」

「うん。 気をつけてね!」




出発する兵士達を太吉は師団長室の窓から見る。




「彼らに何かあればわしの責任じゃ・・・」




下を向いてため息交じりな声でつぶやく。




「彼らも任務のために命がけで向かっています。」

「わしはラルクの様には考えられんな。」




ラルクは遠くを見て太吉に問いかける。




「死ぬのが怖いですか?」

「無論だ。 わしはもう死にとうない。」

「何故軍人に?」

「それしか知らんのだ。」





自信のない太吉にラルクが渋い顔をする。




「失礼します。」




ラルクは部屋を出ていった。




「大隊長。」

「おう。」

「師団長はどうでした?」

「相変わらずだ。 死ぬのが怖いと怯えている。」

「ふっ。」




太吉の師団は元は勇猛果敢な平蔵の師団。



血気盛んな兵士が多く、皆平蔵に似て勇猛果敢だった。



新たに師団長となった太吉の弱気な態度に嫌気が差していた。




「それでどうします?」

「軍の内部で反乱を起こしたら鞍馬様に殺されるかもしれない。」

「じゃあ。」

「師団長が討ち死にする様に動く。」





弱い者は消され力のある者が上に立つ。



残酷なまでに単純な世界。



弱気な太吉より判断力もあり冷静で頼りになるラルクを支持する兵士がほとんどだ。





「気をつけ!!」




太吉が出てくる。



兵士は全員太吉に敬礼をしている。




「ちょっといいかな?」

「もちろんです師団長。」




太吉は大勢の兵士の前に立つ。



「わしは死にたくない。 何故かわかるかな? 死んだ兵士は役に立たない。 諸君らが何の美学で死ぬ事を誉れと考えているか知らぬがわしは死ぬ気はない。」




失笑しながら兵士達は聞いている。




「平蔵もそうだった。 あやつはわしの友だった。 多くの死地を共に生き抜いた。 しかし死んだ。 もういない・・・」




うつむく太吉にラルクが近寄る。




「あの。 それで何が言いたいので?」

「ラルクはわしが気に入らんな。」

「さて。 何を言っているのです?」

「とぼけるのはよせ。」




太吉は腰に差す赤い鞘に入った刀に手を当てる。




「お互い殺しはせん。 模擬演習用だ。 一騎討ちでわしを倒せばお前が師団長をやれ。 鞍馬様にはわしから言ってやる。」





ラルクはとぼけるのを止めた。




「我々はあなたが気に入らない。 上官に命を預ける身としてあなたに預けるのは不安だ。 自分が生き残る事しか考えていないだろ。」

「そうしたいものだ。 しかしわしは師団長だ。 何よりこの師団は亡き友の師団だ。」





すっと太吉は刀を抜いた。



ラルクも双剣を抜いて構える。



どっしり構えて動かない太吉。



細かくステップを踏んで斬り込む機会を伺うラルク。



フェイントをかけて太吉の様子を見るが反応しない。




そして次の瞬間。




ラルクが斬り込む。



バレリーナが踊るかの様にクルクルと回転しながら攻撃する。



太吉はそれを冷静に受け止めている。



やがて回転を止めてパンチの連打の様に剣を突く。



しかし太吉は動じる事なく刀で弾く。



太吉は冷静な表情で攻撃を防ぎラルクの腹部を蹴った。




「ぐふっ。 て、てめえ・・・」




想像より強かった太吉に驚きを隠せない。



蹴られてお尻から地面に倒れるラルクの顔の前に刀を向ける。




「観念せい。」

「くっ・・・」




ラルクは地面の砂をギュッと握った。



そしてそれを太吉の顔に投げた。




「うわっ!」

「勝負にルールはねえぜ!!」

「恥を知れ・・・」




太吉は顔についた砂を慌てて手で拭いて片目だけ開けてラルクを見る。



鬼の形相で太吉に斬りかかる。



すっと体を横にスライドしてラルクの剣を避けると刀でラルクの横腹を斬る。




「ぐはっ。」




そしてその流れのまま思い切りラルクの顔を殴った。



吹き飛んで背中から倒れ込むラルク。



太吉は何食わぬ顔で刀を鞘に戻して部屋に戻っていく。




「俺の負けだ・・・なんだよあいつ。 めちゃくちゃ強いじゃねえかよ・・・どうしてあんなに臆病なんだ。」

「お前らうるせえよ。」

「く、鞍馬様!!!」



ラルクは慌てて立ち上がる。




「太吉に遊んでもらっていたのか。」




虎白は少しニヤけてラルクを見る。



その隣で竹子が微笑む。




「えっとその・・・」

「あいつは臆病じゃねえ。 生きる事が大事だと思っているんだ。 お前らも勇敢なのは立派だが命を無駄にするんじゃねえ。 死ぬと思ったら逃げろな。」




虎白はラルクが何をしたか聞かずにニヤけたまま話す。




「安心しろ敵前逃亡なんて言わない。 それにお前らが逃げずに勝てる作戦を立てるのが俺達の仕事だよなー竹子。」

「ふふ。 うん! そうだね!」




そして笑いながら2人はその場を去った。




「ラルク大丈夫か? 太吉のやつ・・・あんなに強かったのか。」

「ああ・・・俺謝ってくる・・・」

「待て。 大隊長。」

「お前は確か。 木元大隊長だな?」

「ああ。 わしは昔から平蔵と共に戦ってきた元幕府軍だ。」




木元は顔が赤く腫れているラルクを見て微笑む。




「謝る前に太吉の話をしてやる。」




微笑む木元はラルクに語りかける。




「やつは我々と同じ幕府軍ではない。 しかし健作師団長の様な新政府軍でもない。」

「じゃあなんだって言うんだ。」

「やつはたった1人の赤備えだ。」




ラルクと仲間は首を傾げてお互いの顔を見る。




「赤備えとは我々武士の中でも限られた者しか入る事のできない精鋭部隊だ。」

「!!!!!」

「驚くのも無理はない。 太吉は自分が強い事を隠したがるからな。」




下を向いたラルクは悔しそうにする。




「確かに。 想像以上に強かった・・・」

「精鋭の彼がどうしてあんなに死にたくないのか。 いや死にたくないから精鋭になったのかも知れぬな。」




太吉が一瞬窓から顔を覗かせてまた部屋の奥に歩いていった。



それを見た木元はまた微笑み語りだす。




「たった1人の赤備え。 そう。 やつは仲間を全員下界に残して我らと天上界に来た。」

「死にたくないから仲間を捨ててでも天上界に?」

「まあな。 しかし凄いとは思わないか? 仲間の全員が残ると言っても太吉だけは天上界に行くと貫いた。」





大勢に飲み込まれない強さがある。



木元は言いかけたがまた微笑みラルクの肩に手をおいた。




「いつかわかる日が来るさ。 あの男の強さをな。 太吉を馬鹿にしている様では成長できないぞ。」




そして木元は去っていった。




「なんだよ同じ大隊長のくせに偉そうに。」




ラルクは舌打ちをして歩いて行った。


























太吉は窓から外を眺める。




「与平。 真作。 離れていても誓いは変わらぬ。」



3人の誓い。




「己の信じた道こそ正義。 故に曲げてはならぬ。」




目に涙を浮かべて空を見る。




「与平。 お前は主を命に変えても守る事が信じた道。 真作。 お前は共に苦楽を共にした仲間と運命を最後まで共にする事が正義と信じた道。」




拳を握りその手には涙が落ちる。




「立派じゃな・・・わしにはできぬ。 わしの正義は死なぬ事。 決して曲げぬぞ。 生き残らねば何も見えない。 臆病者でも構わぬ。 生き抜く。」




並大抵の覚悟じゃない。



精鋭にまでなって白陸軍の将校にまで昇進した。



しかし太吉は死ぬ事を心から恐れている。



誰になんと言われようとも生き抜くと決めた太吉の覚悟は揺るがない。



それは離れても最後まで信じる正義を貫いた古くからの友人への誓いでもあった。



紅い誓い。



太吉は涙を拭いて机に置いてある無数の書類に目を通す。






















「うーん。 確かこの辺りなんだけどな。」




周辺国へ偵察に出たトーンは周囲を見渡す。




「武田軍はどこだー?」




不気味な視線を感じているトーンは腕をさする。




「なんか気味悪いな・・・」




ガサガサッ。



トーンは慌ててライフルを構える。




「誰かいるなら出てこい。」




じっと茂みを見つめる。




「動くな。」

「え・・・」




背後からトーンの首に突きつけられる刃物。



あまりに突然の事に唖然とする。



茂みから数人出てくると硬直するトーンに近寄る。



そしてライフルを奪われて手足を縛られる。




「天上界の情報を流せ。 何を伝えに行くつもりだった?」

「てめえら冥府兵か。 死ね。 言うわけねえだろ。」

「やれ。」




トーンの首根っこを掴んで木に縛る。




「これ何かわかるか? 電動ノコギリだ。 そう正解。」

「何も言ってねえ・・・イかれてる・・・」




木に縛られたトーンの前に電動ノコギリを突きつける。




ウィー!!!!!!




「ひっ!?」

「ゆっくりとお前の体を斬っていく。 情報を渡す気になったら言え。 命までは奪わない。」

「悪人が良く口にするベタなセリフだな。 じゃあ俺はこう言う。 そんなもの死んでも言うもんか。」




ウィー!!!!!




「ひー!!!! わかった言います何でも言います!!! が。 ベタなセリフだよなー。 でもよー。 俺ノリ悪いからよー。」




ウィー!!!!



ブシュッ!!ガガガー!!!!




喉に食い込み骨にまでノコギリが達する音がする。




トーンは叫ぶ事なく絶命した。




しかし最後までその顔は笑っていた。




冥府軍はその首を持って立ち去る。




「他にも伝令が来たら殺せ。」




人知れず。



仲間と共に死ぬ事もできず。



1人孤独にトーンは死んだ。



しかしその信念は最後まで勇敢な兵士だった。



絶望と恐怖を味あわせようとした冥府軍に「不快感」を与えた。



トーンの最後の抵抗。



誇り高き精神。



その勇敢な死をリトは知らず仲間と彼の帰りを待つのだった。

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