死人に捧げる歌
夜、それも草木が寝静まるような…そんな夜、時は丑三つ時、とある兄妹は外に出ていた。
「さてと…この時間帯だよな。」
「あのですね兄さん…私の後ろに隠れられても…怖いのは分かりますが…」
「___うるさい」
などと強がりな妹と弱気な兄の会話をしていると
「おい…」
「えぇ、分かります。」
「来たな…」「来ましたね…」
地面から手が出る、それも腐食している。
「Uaaaaaaaaaaa………」
「……死霊」
「可哀想に…」
アンデッドの死体には様々な傷がある。
とある死霊は腕が斬れたり、斬れかけていたり、片足を無くし地面を這いずっていたり、腹を切り裂かれ臓物を出した者すらいる…。
「……最低だ…」
「兄さん、沈めましょう。」
「__ダコール。」
俺は黒革手袋を手にはめ、手を握り
『死にさ迷える悲しき魂よ、どうか、慈悲ある拳にて沈めたもう___』
祈りを捧げ、構え、戦闘に備える。
「UuuuuAaaaaaaaa!!!」
一体の死霊が襲ってくる、
「ふっ!!」
俺は襲ってくる死霊を受け止める、そして
「はぁぁあっ!!!」
地面へと叩き付け、死霊の動きを停止させる、しかし死んではいない、肉体上の気絶である。
「Aaaaaaaaaaa!!!!!!」
倒した瞬間、次々迫ってくる死霊、だが彼の行動は変わらない。
「______」
彼はそのあと迫って来る死霊を倒し、倒し、倒し続け、数分後には
「Uuuuuuuuuuu___」
瀕死状態の死霊が大量にならんでいた。
「兄さん、瀕死状態にしたって事は__」
「あぁ、鎮魂する。」
俺は腰から一本の横笛を取り出す、その横笛は白く、月の光に反射して美しい光を放っている。
「鎮魂歌『沈めまれ魂よ、長く苦しい人生を今ここで終わらせよう、次会うときは友として。』」
横笛に口を付け、演奏が始まった、その演奏は死霊に広まり、村に広まり、山に広まり…
王都ベルファストにて
「おい、何か聞こえないか?」
「あぁ、だが…すごく落ち着く音色だ。」
遠く離れた王都にさえ、聞こえる美しい音色だったと言う。
「__安らかに眠れ…」
俺は演奏を終えると、浄化され、身が朽ち果てていく死霊に手を合わせる。
「……兄さん…」
「お前は先に帰ってろ、俺はこいつらを見届ける。」
妹はそれに従う、妹は気付いていた、彼がこの死に逝く死霊に涙を流していることを。
「__お前らはなにも悪くないのにな…安心しろ、お前らは何も間違っちゃいない…眠ってくれ。」
と、一人で成仏を願っていた時だった
「aaaauuuuuu……」
「な、何だ?」
とある死霊が彼の腕にしがみつく。
「aa…uu…uuuu」
そして死霊は山奥に向けて指を指す。
「何だ、あの先に何かあるのか?」
「u…uuuu……」
帰ってこない質問を投げ掛けながら、最後の死霊の成仏を確認し終える。
「山奥…行ってみるか…」