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黒地蔵怪奇夜話

作者: 雪河馬
掲載日:2019/12/14

私の祖父母の住む田舎の家には祠(ほこら)があった。


それ自体は決して珍しいことではない。

昔は地蔵様、地神様とよばれる石像はそこいらにあったものだ。


ちょっと変わった地蔵だった。

黒い石で出来ていて、唇が朱色で塗られていた。

村の人たちは、この地蔵のことを黒地蔵と呼んでいた。


曽祖父は職業軍人でシベリアに抑留され、復員後にこの家を買って移り住んだ為、黒地蔵の由来は知らない。

そして家の前の持ち主のことは村人たちは決して語ろうとはしない。

村の禁忌(タブー)となっているようだが、秋祭りの酒に酔った源さんが口を滑らしたのを、まだ幼かった父が聞いたそうだ。


「あの家は狐憑きの家系でのお。亭主が新月の夜に刀で家人を斬り殺して最後は自分の腹を掻っ捌いて死におった。」

「そんとき、地蔵さんの口にべったり血がついとったんや。」


源さんもとうに鬼籍にはいってしまっているので話の真偽は確かめようもない。

そして父も5年前の夏に亡くなった。


いまとなっては真相は誰も知らない。


小学生の頃、祖父が危篤になり1週間ほど滞在したことがある。

大人たちは大変そうだったが子供は特にすることもないので、ひとり河原で石投げなどして遊んでいた。


ちょうど手頃な平たい黒い石をみつけ拾い上げようとすると、手を引っ張られた。

僕が拾おうとしたのは小石ではなく、それは黒地蔵様の手の部分だった。

僕は驚いて握った手を離そうとするが、なかなか離れない。

ようやく振り解きそのまま逃げた。

泣きながら家に帰り着いた時にはとうに日も傾き、夕焼けの残光がわずかに外灯もないあたりを照らすだけであった。

母がカレーライスを作ってくれたらしく、家の中から良い匂いが漂ってくる。

僕は台所の母に飛びつき泣きじゃくった。


「そうか、黒地蔵様が散歩されとったんよのお。どおりでお見かけしないと思っとったわ。」

祖母の話によると、先々週から黒地蔵様の姿が消えたらしい。

誰かに盗まれたのかと探していた矢先に祖父が倒れてそのままになっていたそうだ。

「お帰りになりとうて、ボンの手を引っ張られたのかのお。」


祖父が亡くなったのはその夜のことである。

遠くから親戚が集まってきて盛大に葬儀が行われた。

私の好奇心はすっかりそちらに移り、黒地蔵様のことなど忘れてしまっていた。


葬儀が終わり、帰るときに祠を覗くと、黒地蔵様はそこにあった。


その後、祖母も亡くなり、家は空き家のままでずっと放置されていた。

父は時折は様子を見に行っていたようだが、歳とともにだんだんと足は遠のく。

父の死後、僕も見に行かなければとは思っていたが、いざとなると億劫になり一日延ばしにしていた。


そんな折、高速道路が建設されるということで地元の業者から資材置き場として使わせて欲しいという連絡が市役所経由であった。

業者と契約書を交わすために、20年ぶりにその場所を訪ねることになり、車で現地に向かう。


カーナビにもまともに道が登録されていないような田舎である。

何度も行き止まりの道にあたる。

記憶を頼りに迷いながらなんとかたどり着く。


田舎の集落というのはどこでもこんなものなのだろうか。

更地が増えていたし、まだ建っている家も人の気配がない。

村は緩やかに死に向かっているようだ。


久しぶりに見るその家は、朽ち果てていた。

もう寿命がきたのだろう。

あいつも・・・。

あいつって誰だ?


「遅れてすいません。」

作業服姿の男は車から降りてくるなりそう言った。


「ちょっと現場で大きな事故がありまして、私しか来られなくなりました。」

手続きといっても現場を確認し、郵送されて来た契約書にサインをして渡すだけである。

相手は誰でも構わなかった。


手続きも無事終わり、別れ際にその若者に尋ねる。

「事故ってなにがあったんですか。」


若者は東の方角を指し示す。

「すぐそこの現場で崩落事故があって、作業員が数名巻き込まれて生き埋めになったんです。今、救助活動をしてるんですが・・・・。」


どうやら深刻な状況らしい。

早く戻りたがっている様子なので、早々に話を切り上げようとしたが・・・、そうだ。


「ここに祠があったと思うんですが。」


若者は一瞬考え込んだ。

「祠・・・・、ああ、あの小屋ですか。あれなら所長が測量の邪魔になるからとどかしちゃいました。ほら。」


若者が指差した方角に祠が移設されていた。

祠の扉は開いていたが、中は空っぽだ。


「中になにか入ってませんでしたか。」

「さあ、何もなかったと思いますが。」


あいつはどこかに行ってしまったんだろうか・・・・。まあいい。

気にすることはない。

昔のことだ。


私は車に乗り込みエンジンをかけた。

ドライブモードにしようと左手をシフトレバーに当てた時、誰かが手首を掴む。


助手席を見ると、そこには黒地蔵が座って、僕の右手を掴んでいた。

なにか言いたそうだ。


朱色の唇がゆっくりと動く。


「ぼくのカラダを返して・・・・・・・。」


そうだった。すっかり忘れていた。

私はあの日、この子供を川にひきずりこんで殺して、成り変わったのだった。


黒地蔵の手を振り払い、車を走らす。

こいつは途中の川にでも沈めていこう。


バックミラーに写った私の唇は、まるで血を啜ったかのように朱色に濡れていた。























すこし尻切れトンボのお話になりましたが、また修正すると思います。

一部実話なので逆に創作しにくい。


見つけた場所は河原じゃなく庭です。

小学生の頃、祖父母の家の庭で地神様を見つけました。

花壇で遊んでいたら足元が熱く感じて、庭石を見ると石に顔があったんです。

掘り起こすと石に掘られた地神様で、叔父が河原で拾ってきて庭石にしてたんじゃないかということでした。

神様ですので祠をつくってお祀りすることになったのですが。

でも今となって考えると、そんな縦長の石、気づかんかなあと思うんですよね。

で、その家にはいろんな不幸ごとが重なってて、結局夜逃げ同然に出て行ったので、まあなんか因縁めいたものはあったのかなと思います。

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