悪魔と契約を結んだ少女
ご無沙汰しております。
今回短編作品を書く機会がありましたので、こちらへ投稿してみました。
よろしくお願いします。
私はいつもひとりだ。
あの時から私の時間は止まったまま。
そう、あのときから……。
私は小さな探偵事務所を開く探偵だ。今日も人々の小さな悩み事を解決し、日々を過ごしている。今の私にはこれしか生き甲斐はないのだから。
『シロちゃんを探していただき、ありがとうございました!』
黄色いワンピースが似合う依頼主の女性にお礼を言われる。抱き抱えられた猫は女性の胸に収まった状態で伸びをする。
「お前、勝手に家出しておいて……もう、どこにも行くんじゃないぞ!」
猫は私の事には興味なさそうに『にゃ~ん』と返事をする。
今日も人助けが出来た事に満足する私。女性を自宅へと送り届け、別れたところで、背後からの視線に気づいた。
「ねぇ、おじちゃん、探偵さん?」
「ん、そうだよ、お嬢ちゃん」
そこには赤いスカートの可愛らしい女の子。
「探して欲しいものがあるの。でもお金がないの」
そう言うと、女の子は突然走り出す。私が後を追い掛けると、路地を曲がった先で女の子の姿を見失ってしまう。
「なんだったんだ?」
私は首を傾げ、この日は家路に着く事となった。
「ただいま」
仕事から帰った私は、リビングの扉を開ける。電気は消えたまま。冷たくなった食事が置いてある。奥の部屋でテレビの灯りだけが点いている。妻が一人、涙を流しつつ、黙って映像を見ている。
「またそのビデオか……。もう止めたらどうだ……?」
「……」
妻は私の言葉に反応を示さない。メリーゴーランドに乗った少女が手を振っている。
「やめてくれ……もうこの子は帰って来ない」
「……ねぇ、どうして……どうしてなの……」
私は涙を流す妻を背後からそっと抱き締める。
「大丈夫だ、私がついてるから」
「……ごめんね……ごめんね……」
翌日、私は再び仕事へと向かう。今日の仕事は浮気調査だ。こういう仕事はあまり乗り気にはなれないが、仕事だから仕方がない。男と女性がホテルから出て来た現場をカメラに収め、奥さんへと報告をする。
『そう、あの女が相手だったのね。ありがとう、これですっきりしたわ』
真実を知った奥さんの反応は、意外にも淡々としていた。もう旦那が浮気をしている事は確信していたのだろう。相手が誰か分からずにモヤモヤしていたところ、私の存在を知ったらしい。
奥さんと別れを告げたところで、また昨日の少女が私の前へ現れる。
「ねぇ、おじちゃん。探してくれる?」
「昨日のお嬢ちゃんか。お金がなくても特別だ。君の探しているもの。一緒に探そう」
この子が探しているものを明日一緒に探す約束をし、この日は家へ帰る事となる。
そして、私は再び家へと帰る。
奥の部屋でむせび泣く声。毎夜、2度、3度……幾度となく繰り返される光景。
一体何度、この光景を目にして来たことだろう。
「またそのビデオか……。もう止めたらどうだ……?」
「……」
妻は心此処にあらず。それは私も一緒だった。妻が運転する車は、この遊園地へ遊びに行った帰り、交通事故に遭ってしまう。この事故で私の娘は命を落としてしまったのだ。相手の心臓発作が原因という事で、妻が逮捕――罪に問われる事はなかった。私も妻も重症だったが、幸いにも一命を取り留める。が、失ったものは大きかった。
「今日、娘くらいの歳の女の子に逢ったよ。明日、その子の依頼を受けて来るよ」
「……もうやめて……」
「ごめん、娘の話をするべきじゃなかったな」
「……」
静かにベッドで眠る妻を見届けた後、私も眠りについた。
「お待たせ。行こうか」
「うん、着いて来て!」
女の子に促されるまま、電車とバスを乗り継いで移動する。どうやら、とある場所で失くしものをしたらしく、一緒に探して欲しいそうだ。山道の途中でバスを降り、しばらく歩く。一体この子はどこへ連れていくつもりなのであろうか?
だんだんと目的地へ近づいて来たところで、私の顔は青ざめる。山道のカーブ。ガードレールの傍には花が添えられていた。
「お友達がね、居なくなっちゃったの」
「君……一体……」
それは、遊園地の帰り、妻が事故を起こした現場だったのだ。
「私ね、そのお友達に頼まれたの。探し物を見つけて欲しいって」
「お友達……まさか……君は……夏葉の友達なのか……?」
思わず娘の名前を呼ぶ私。私は娘が亡くなったあと、事故現場へ一度も訪れる事はなかった。もしかしたら、娘は此処で私を待っていたというのだろうか?
「そうだよ、なつはちゃんは、此処でずっとパパを待っていたんだよ?」
「そうか……そうだったのか……私は、ずっと現実から目を背け、此処へ来る事はなかった。ごめんよ、夏葉……」
次の瞬間、上空に透明な少女の姿が浮かんだ。少女は私へ優しく微笑みかける。
そうか、寂しい想いをさせてごめんな。
「おめでとう夏葉ちゃん、探しもの見つかってよかったね。じゃあね」
女の子はそう告げると、もと来た道を一人帰っていく。私は私の行くべき場所へ向かおうと思う。夏葉、ありがとう。
『ずっと一緒だよ、パパ』
『もう、一人にはしないさ』
*******
数日後、都内某所、ホテルの一室で、謎の心臓麻痺を起こした男女の遺体が発見される。
男は不倫しており、女は五年前に交通事故で夫と娘を亡くしていた。女の家では夜な夜なむせび泣く声が聞こえていたという証言もあり、夫と娘を失った寂しさを紛らわすために、男と過ごすようになったのではないかと思われる。
「夏葉ちゃん、これで、パパとママとも一緒に過ごせるね」
「あらふみちゃん、今日は何か良い事でもあったの?」
仏壇に手を合わせる少女に、ふみの母親が声をかけた。
「ううん、なんでもないよ」
――だって……冤罪のパパだけ成仏しているなんて、不公平だもんね。
小説家になろう様でホラージャンルの投稿は初めてですね。
最後のオチが分かった方、物語の真相全て読めた方。
感想で触れていただけると幸いです。
解答そっと以下にも載せておきますね。
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【解答編】
物語途中『』になっている会話は成仏出来なかった生霊たちの言葉。
夏葉の父は交通事故で既に亡くなっており、母は一人ビデオを見ていた事となります。夏葉の父は自身が亡くなった事に気づいておらず、生霊相手に探偵をしている。そこへあの少女が現れます。一見、夏葉ちゃんのため、父親に死んだ事を気づかせる目的で近づいたように見えますが、本当の目的は夏葉の母へ復讐する事。彼女はそのために悪魔と契約し、人智を超えた力を身につけていたのです。これが解答になります。