お願いします
お久しぶりです。
続きです。
シャワーから出てきた道弥は、きちんとパジャマを着こんでいた。
大変道弥らしい。ドラマや漫画のようにバスローブや上半身裸で髪からしずくをたらすサービス精神を彼はもたないだろう。
好意をもつ女性が来ているからこそ、配慮できる男なのだ。
しかし、自信のない私は道弥に求められたかった。
「麗、説明してくれ」
キッチンで水を飲み終わった道弥が私にそう聞いた。
その背中には、後ろから抱きついた私がくっついている。ちなみに下着姿だ。勝負下着なのはすでに説明済みだろう
「道弥好き」
「ああ」
そっけない返事だけど、密着した背中からは早くなった鼓動が聞こえる。
表情や声にでないけど、このシチュエーションにドキドキしているらしい。
「その、説明を」
道弥の声に少し動揺がでた。
「説明いる?知ってるよね。道弥が好きなの。道弥も同じ気持ちならしようよ…」
道弥のドキドキがうるさくて、私までドキドキしてきた。
大人の女らしく、さらっと誘う予定だったのに後ろの方は尻すぼみになってしまった。
私何やってるんだか。
下着姿でせまるほど、自分の体に自信があるわけでもないのに。
力がぬけた私の腕をやさしくほどいて、道弥がこちらを向いた。
若干自己嫌悪になった私を道弥はぎゅっと抱きしめられた。
道弥に抱きしめられるのは初めてで、さらにドキドキした。
この匂いすき。つまり道弥がすき。
「ごめん、不安にさせたんだな」
道弥は正確に私の不安と期待を読み取ったのかもしれない。
変なところで鈍感だが、基本的に礼儀正しくて聡い人だ。
「麗としたいよ。でもするならちゃんとしたいんだ。こんな緊急時じゃなくて、うまいものでも食べてお互いリラックスして気負わず大事に抱きたい」
そうか私に魅力がないわけではなくて、大事に思われていたのか。
さっきまでの不安がどこかに行って、温かい気持ちになる。
そして服が着たくなった。
さすがに下着姿では寒いし、何より恥ずかしい。
「ありがとう。楽しみにしてる。とりあえずお茶でも飲みながら少し話そうよ」
つい最近まで道弥の思いを知らずに片想いをこじらせてやさぐれてたし、付き合い出すのもつきまといのどさくさだった。メールや電話がマメにしているわけでもない。
私たちには恋人おしての会話が圧倒的に足りてないのだろう。
名残惜しい気持ちを押さえてそっと胸をおしたが、道弥はその腕を離さない。
ん?
「麗、シャンプーを変えたのか?」
「あ、うん。変えたけど」
やさぐれ期はなにもかもどうでもいいから、特売のものを使っていた。道弥と付き合うことになったら、髪のパサつきが気になって買い替えたのだ。
そんなことに気づかれると思わなかった。
「この下着も俺のために新しく買ったのか?見たことがない」
おや、と思った。
確かに最初に告白した時に買ったから道弥の為に買ったともいえるが、いや、すべての下着をあなたに見せたことがないはずだけれど。
私の怪訝な顔に、説明が足りてないと判断したのか理由を教えてくれた。
「いつもバルコニーに干しているだろう。一人暮しだし下着類は外に干さない方がいいぞ。あの辺りは過去に下着泥棒も出たことがあるらしいからな、パトロールの時に泥棒に盗られたらまずいと思って色柄と枚数を把握していたんた。」
なんということだ。知りたくなかった。
くたくたになったベージュのやつとか、ネットの福袋で買った微妙な柄のやつを見たというのか。
そんな優しさはいらないし、今すぐ忘れてほしい。
しかしながら、道弥は性癖でベランダの下着を眺めていたわけじゃない。ずれているけど善意だ。
「下着はヘヤボシシマス」
「ああ、それがいい」
安心したように微笑んだ。好き。
でもお願いします。まず私に言ってください。