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このやろう

「麗。かなり言い辛いことがあるんだ」


ずれてもいない眼鏡を押し上げてから、言葉通りかなり言い辛そうにそう切り出した。

きたきたらこれ!

2年弱、心を折られながらも思い続けたこの恋がとうとう叶うんだ。


「いいよ、言って」


焦ってはいかんと、上品に見える笑みを見せながらも、心の中は期待でやや前のめりになった私に、道弥はまたもや予想外の考えを披露した。


「このまま見守り続けたいんだ。いいか?」

「え!?」

「もちろん麗のプライペートは覗かない」

「あ、いや」 

「今日のように気づいても、声をかけなくていい」

「え、ちょっと」

「見守るだけでいいんだ」

「ちょっとまて!」


私は、再び道弥の胸倉をつかんだ。

なんで、見守るんだ。

すごく好きな人なはずなのに、その思考がストーカー寄りでキモイ。

夜道にを距離を置きながら足音を消してつけてくる好きな人の姿を想像して、心底げんなりする。


「やっぱり、ダメか?」

「いや、付き合おうよ!両想いだよ、なぜつけてくるのよ!」

「つけているわけじゃない、見守り活動だ」

「そこなの?」

「暴力はやめないか?」


この少し人とずれている上、ストーカー気質のある人とはいえ、奇跡的に付き合えるようなるなら、少しの恥らいと甘酸っぱさのある告白シーンを想像していた。

現実はなんてままならないんだ。

とはいえ、相手の胸倉をつかんで付き合おうと自分から脅すように言うなど、誰が想像できるだろう。

なんか色々がっかりだ。でも少しも嫌いになれない。


「確認していいか?」


道哉は私のせいでずれた眼鏡を直しながら、そう訊いた。

私は我に返って道弥の胸倉をつかんでいた手を離すと、ぐったりソファに深く座りこんだ。


「どうぞ」

「麗は今も俺を好きでいてくれるのか?」

「なっ、いちいち確認しないでよ、恥ずかしいよ。好きじゃなきゃこんな遅い時間に家にあげないわよ」

「そうか。俺は一度告白を断ったんだぞ。そんな優柔不断な男でいいのか」


一度じゃなくて、二度振られたようなもんだけどね。

それに、優柔不断程度で嫌いになれたのなら、私はこんなにも道弥を好きでいられるもんか。

好きな人が別の女の子のストーカーという事実が、もともとあった恋愛の許容範囲を崩壊させたのだろう。


「いい。好きだし」

「そ、そうか」


道弥は照れたらしい。顔を赤くしたりはしないが眼鏡のブリッチを意味なく触ってる。

私もさすがに、この空気に照れてしまった。


「俺も麗がすきだ」


好きといわれた。キュンとした。ロマンチックじゃないけど、この好きは絶対忘れないでおこう


「じゃぁ、そうだな、付き合おう。そうと決まればしたいことがあるんだが、いいか?」

「え、うん。いいよ」


絶対キスだ。

思いを確かめあって、男女がすることと言えばキスだろう。キス一択だ。

口臭は大丈夫かな、急な展開で照れちゃう。そんなことをもじもじ考えたけど、道弥はいつも私の想像を軽く飛び越えていく。


「家の中を見せてくれ」


期待をさせておいて、一気に落とすなんてなんて鬼畜野郎なんだ。


「なんでよ。探検でもするの?」

「子供じゃないんだぞ。麗の安全のためだ、調べさせてくれ」

「え、なんでよ」

「念のためだ。いつもはリビングと台所を目視でしか確認できなかったからな。もし、引っ越す前から設置されている家具や家電があれば教えてくれ」


一体何の確認だ。インテリアか?清潔度とか?

あと、道弥は何者なんだ。

どうでもいいと思うが「そんなのいいからキスしよう」など、長い片思いをさっき叶えたばかりの私には言えない。


「エアコンと照明は最初からあるよ」

「この、延長コードは自分で買ったのか?」

「ううん。そういやそれも最初からあった」


道弥は険しい顔で延長コードを見つめるた。

その延長コードに恨みでもあるんだろうか。

それとも、貧乏くさく使っていないで、新しいのを買えよなんて思っているのだろうか。


道弥はジャケットをぬぐと、寝室の照明やエアコンのカバーをはずしたり、コンセントのプラグ部分をドライバーで開けて中をみたりと不可解な行動をし出した。

意味は全くわからないが、ずいぶん真剣な顔をするので声をかけられなかった。

真剣な道弥の横顔は素敵で、この人が私の彼氏かぁと幸せな気分でいっぱいになった。真剣な顔をすると、知的な顔だちがますます際立ち、ほれぼれする私は相当な恋愛バカだろう。


「この延長コードだけ持ち帰っていいか?3日くらいで返すか、新しいものを用意する」


なぜ、延長コードを持ち帰る。

コーヒーメーカーと電子レンジが同時に使えなくなるじゃないか。

しかし、いつもより顔を近づけて訊ねる道弥にきゅんとして頷いてしまった。


「遅くに邪魔をした。鍵とロックはちゃんと両方かけろよ」


私の了承を得ると、いつも面倒くさがってワンロックしかかけない私に釘を刺し、あっさり帰った。

どうして知っている。

どうしてあっさり帰る。

キスぐらいして帰れよ、このやろう。

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