うそでしょ
文章量のムラがでてしまう。
今回は短めです。
私はあれから荒れていた。
「この恋は私を成長させてくれた」
そんなふざけたことをいうドラマの主人公に、食べかけのスナック菓子をぶつけたくなった。
私が今回の恋愛で学んだ事はストーカーにも色々いるという事と、恋愛は落ちてしまったらどうしようもないという事だけだ。
道弥に2度振られてから、私はすっかりふてくされていた。
あれから3か月程たつけれど、道弥は連絡1つよこさないので佳純ちゃんとよろしくやっているのだろう。
けっ。
意地で仕事の質は落さないけれど、モチベーションも何もない。
街中のカップルを心の中で呪うし、アイドルには恨みしかない。
コンビニで笑いかけてくる可愛い女の子には、佳純ちゃんじゃないのに「気をつけろ、ストーカーに遭うぞ」と心の中で脅した。
完全なる八つ当たりだった。
眼鏡をかけている人を見るたびに、悲しい気持ちが湧いて来て家に帰ってわんわん泣いた。
一時は泣きすぎて、鼻がしばらく赤かった。
それをごまかすたびに、心配してくれる会社の先輩に「アレルギーがあって」とどうでもいい嘘をつくはめになった。肌にやさしいしっとりしたポケットティッシュをもらえたことが、唯一の救いだ。
そんなある日、違和感を感じた。
仕事で遅くなってしまい足早に家へ向かっていたが、誰かが後ろを歩く気配がする。
だけど、足音はしなし、振り返ってもだれもいない。
しかし、距離をあけてついてくる。
気のせいだと思いたいが、長い間薙刀を習っていたせいか人の気配だったり、呼吸音だったりに敏感な方だ。
私が立ち止まると、その気配も立ち止まる。
ぞっとした。
私は、顔も体型もありきたりで、特に異性の目をひくようなところはない。
可愛いのは「蒼井麗」という女優みたいな名前くらいだ。
けして誰かに後をつけられる要素はないはずだ。しかし、何が起こるのかわからないのが世の常だ。
短距離選手のような勢いで走って家まで帰った。私の行動が予想外だったからか、俊足のおかげか気配は追ってこなかった。
しかし、次の日もその次の日も私は何かにつけられていた。
「勘弁してよ」
会社の先輩につけられていることを冗談まじりに話した。
すると、先輩は真顔でテレビでみた変質者の手口を話してくれたものだから、今日の私はさらにびびっていた。
帰り道には、住宅地を通る所がある。
街灯が頼りない薄暗い道だ。最近のカーテンは遮光性が高いものが多いのか、カーテンを閉めると民家からの明かりはほとんどもれず、歩くのに心もとないのだ。
さらに、狙ったように人の気配のない家が3軒つづく。
そこに通りがかった際、私はあまりに怖くて走りだした。
変質者が狙うなら絶対ここだと思ったのだ。
しかし、今日はあいにくヒールの高い靴だった。
「いったぁ」
足をぐきっとひねって、すてんところんだ。気持ちが急いでいるせいか、かえって立ちあがれない。
すると、何かが走ってくる足音がした。
ぎゃああああ。
絶対つけてきた奴だ。いやだ。怖い。
テレビで他人事だと思っていた事件が頭の中をかけめぐっていく
絶対嫌だ。
だけど怖くて声が出ない。
「麗、大丈夫か?」
そう声をかけてきたのは何故か道弥だった。
私は一気に体の力が抜けた。
うそでしょ。