第三十一話 報告書(ルティアス視点)
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今回は、ライナードの親友、ルティアス視点です。
それでは、どうぞ!
兄さんからの報告書を読んでいた僕は、どうしても顔をしかめてしまうその結果にため息を吐く。
「どうしましたの? ルティ?」
「あぁ、リリス。それがね、例の聖女に関しての報告があまりにも突飛過ぎて困ってるんだ」
僕の目の前にお茶を持ってやってきたのは、僕の愛しい愛しい片翼。紺碧の長髪に紅の瞳、玉のように白い肌と、ボンキュッボンの我が儘ボディを持つ少女、リリス・バルトランだ。まだ、結婚して一年も経っていない愛しい愛しい妻だ。
リリスは元々、レイリン王国のシャルティー公爵家の長女で、今回の勇者一行としてやってきていたエルヴィスの婚約者だった人だ。しかし、リリスは冤罪で婚約破棄され、国外追放され、最終的に魔の森という危険な森に居を構えて僕と出会うこととなった。
「突飛、とは?」
「それがね……その聖女、異世界から召喚されたらしいって話なんだ」
あの勇者一行の中で、聖女だけはリリスと全く関わりのない人物だったため、彼女がライナードの片翼だと判明するまでは特に調べもしなかったのだが、ライナードの片翼となれば話は違う。ライナードには昔から助けられることが多かったため、僕もできることなら力になりたかったし、もし、聖女が性悪だったとしたなら、何としてでもそれを改善するつもりでもあった。
(結局は、何であんな奴らと一緒に居たのか分からないくらい、良い子だったってことが分かっただけだけど)
エルヴィス達は、救いようのない愚か者達で、リリスを傷つけた張本人であるため、何としてでも復讐したい相手だった。今回、彼らが勇者一行として、本来は拘束されていたり、監視されていたりするはずの場所から抜け出せたのは、ひとえに、レイリン王国を吸収したファム帝国と、ヴァイラン魔国が同盟を結ぶことになり、犯罪者である彼らを嵌めようとしたからだ。
(まぁ、本当に旅立たせるつもりはなかったのに、なぜか監視の目をすり抜けたこととか、ヴァイラン魔国に辿り着けるような実力もないはずなのに、野垂れ死ぬこともなく、五体満足で着いたこととか、不審な点は数多くあるんだけどね)
しかし、それらはどんなに調査しても、彼らにとって運が良かったとしか言いようがないという結果になった。いや、具体的に言えば、あの聖女がおかしいくらいの強運の持ち主としか思えなかったのだ。
「異世界、ですか……それはそれは。ぜひとも、わたくし、その彼女にお会いしてみたいですわね。できれば、ユーカ様も一緒に」
「? ユーカ様も?」
「えぇ、だって、わたくしは異世界で暮らした前世の記憶がありますし」
「えっ!?」
(そんなの初耳だよっ!?)
「ユーカ様は異世界からの転移者でしょう?」
「そ、れは……」
リリスからもたらされた情報量の多さに、僕は少しばかり混乱する。
「……あら? そういえば、前世の話は初めてでしたわね」
「うん」
しばらく考え込んだ様子のリリスから、そう告げられて、僕はすかさずうなずく。いや、本来なら、ユーカ様が異世界からの転移者だという話はごく一部の者しか知らないはずなのに、なぜリリスが知っているのかも聞かなければならないのだろうが、僕にとっては、片翼であるリリスの話が優先だ。
「そうですわね、どこから話しましょうか?」
『信じてもらえないかもしれませんが』と言いながら、リリスはかつて自分が『じょしこーせー』というものだったことや、自分の名前は思い出せないものの、このヴァイラン魔国と良く似た食文化だったこと、最期は大きな馬車のようなものに衝突されて死んだであろうことを話してくれる。
「じゃあ、リリスが僕の料理を喜んでくれるのって……」
「懐かしい日本食だからというのが大きいですわね」
そう言いながら、少しだけ頬を染めたリリスは、目を逸らす。
「もちろん、ルティの料理が美味しいのもありますわ」
「っ、リリス!」
「と、とにかくっ、わたくし達なら、会って話をすればその聖女が異世界から来たのかどうか、分かるかもしれませんわ。その……わたくし達と違う世界であったら分かりませんが……」
抱きつこうとする僕を避けて、リリスは力強く告げたかと思えば、最後、自信なさげにうつむいてしまう。
「ううん、リリスが協力してくれるのはすごくありがたいよ。それに、リリスは僕が信じられないかもしれないって思ってるのかもしれないけど、僕はちゃんと信じるよ」
「ルティ……」
僕がリリスの唇に軽く口づけを落とせば、リリスは真っ赤になって目を潤ませる。
(あぁっ、リリスが可愛過ぎるっ!)
内心、そう悶えながら、僕はすぐにライナードに確認を取ってみる旨を告げる。
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
そうして僕は、親友の元に遣いを出すのだった。
はい、ここでようやく、リリスちゃんが前世の記憶持ちだということをルティアスが知ることになります。
わりとあっさりです。
さてさて、次回は……また別視点で。
それでは、また!




