第二十七話 お仕事
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今回は、カイトちゃんのお仕事ゲットなお話。
それでは、どうぞ!
昼食を一緒に摂ろうとのライナードからの誘いを受けた俺は、ひとまず本とのにらめっこをやめて、そちらに向かうことにする。今日はしっかり本の整理に精を出していたせいか、いつもよりお腹が減っていた。
「カイト、来たか」
庭の中にある小さな屋根とテーブルが置かれたその場所で、ライナードはフワリと微笑んで俺を出迎えてくれる。
「はい、えっと、お招きいただき、ありがとうございます?」
「む、他人行儀はやめてほしい」
丁寧に対応したつもりが、どうやらそれは、ライナードのお気に召さなかったらしい。眉を完全に下げて悲しそうにするライナードを前に、俺はすぐに言い直す。
「誘ってくれてありがとうっ」
「む」
そう言えば、満足そうにうなずくライナード。そして、よくよく見てみると、そのライナードの手には、大きなバスケットがあった。
「今日は、サンドイッチ」
「サンドイッチ!」
具は何だろうか? と、一気に期待が高まる俺に、ライナードは席に座るよう勧めてくれ、いそいそと準備を始める。
「レタスとハムのサンドイッチ、照り焼きチキンのサンドイッチ、玉子のサンドイッチ、ベーコンとチーズのサンドイッチだ」
バスケットの中を見せられ、それぞれの説明を受ける俺は、もう、すでに好物へと目をつけている。
「どれを取る?」
「照り焼きチキンっ」
キャベツと一緒に挟んであるらしい照り焼きチキンサンドは、日本に居た頃から、わりと好物だった。ライナードが片手で渡してくれたそれを、俺は両手で持ちながら、ライナードもレタスとハムのサンドイッチを手に取る様子を眺める。
「食べよう」
「あぁっ!」
飲み物は何やら香りの良い紅茶が置かれている中で、俺は一気にそれへとかぶりつく。
「んーっ、おいひいっ」
「そうか」
蕩けるような笑顔を浮かべるライナードに、俺は一瞬ドキリとしながら、照り焼きチキンのサンドイッチを堪能する。
(って、そうだっ、話があるんだった)
「ライナード」
「む?」
俺がちょこちょこ食べる中、ライナードは大きな口でもう半分以上を平らげている。それを横目に、俺はようやく、この前から言いたかったことを言う。
「仕事がしたい」
「仕事?」
キョトンとした様子のライナードに、俺はこの屋敷にお世話になり続けるのも悪いからという建前で、必死にライナードへ仕事をしたい旨を告げる。
「その、私、ずっと屋敷に何もせずに居るのは申し訳なくて、少しでも働いて恩返しがしたいんだ」
「気にする必要はないが……むぅ。カイトは、働きたいのだな?」
「あぁっ」
すぐに否定されることもなく、考えてくれる様子のライナードに、俺は目を輝かせる。働いて、給料がもらえるようになれば、日本に帰る方法を見つける旅に出られるかもしれない。
「しかし、カイトのような可憐な女性が働くとなると……どこかの事務か?」
「それでも良い」
「恐れながらライナード様。カイトお嬢様は人間でございます。魔族の女性と同等に考えては危険かと」
「む? そういうものか?」
「はい」
ノーラの言うように、魔族の女性と同じように考えると、何が危険なのだろうかと、首をかしげるものの、その説明は残念ながらない。
「むぅ……」
「もう一つ、発言をよろしいでしょうか?」
「む」
悩むライナードに、ノーラが発言を求めて、ライナードが許可を出す。そうして、続けられた言葉に、俺は驚くこととなる。
「カイトお嬢様には、この屋敷の書庫の整理、及び管理をお任せになってはいかがでしょうか?」
(えっ? それって、仕事、なのか?)
自分のやっていたことが仕事という感覚がなかった俺は、一瞬驚いて、ライナードを見る。
「……あそこは、様々な言語の書物がある。さすがに読めないだろう」
「いや、読めるけど」
そう言った途端、ライナードは奇妙なことに、その動きを停止させる。
「確か……『これで片翼を見つけられるっ。旅の実践集』とか、『恋花の舞』とか『君に捧ぐ愛の歌』とか」
そう言って、それぞれの覚えている限りのタイトルを挙げていけば、ライナードはタラタラと汗をかき始める。
「……ライナード様、恋愛ものの本がお好きなのですね」
「ち、違うっ! これは……そうっ、片翼が見つかったら良いなと思うと、いつの間にか買っていただけだっ」
「ちなみに、『小動物な彼女』の主人公名は?」
「リアナ……はっ!」
「ガッツリ読んでおられるようですね」
どうやら、恋愛小説はライナードの趣味だったらしい。
(こういうのは、確か……)
「オトメンか」
「『おとめん』?」
ノーラが聞き返すのを、何でもないと首を振って、俺はもう一度話を本題に戻す。
「それで、私は働ける?」
「……あ、あぁ……」
ダメージが大きいのか、顔全体を両手で覆うライナード。それを可愛いと思いながらも、俺は思わぬ形で就職口をゲットしたことに、内心、喜ぶのだった。
ライナード、どんどん乙女な部分が暴露されていきます。
もはや、ライフはゼロ!
それでは、また!




