第二十話 帰りたい
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回から新しい章に突入です。
それでは、どうぞ!
ここ、ヴァイラン魔国に来て、俺は一つ分かったことがある。それは……。
「カイト、オムライス、できた」
このヴァイラン魔国、食事が日本のものとほぼ一緒ということだった。
俺用に整えられた和室で、丸いテーブルの上にオムライスが置かれた。ケチャップがかかった美味しそうなオムライスを前に、俺は目を輝かせる。ライナードが目の前に着席すれば、いよいよ食事の時間だ。
「いただきますっ」
大きなスプーンで目一杯頬張れば、口いっぱいに卵とケチャップライスの味が広がる。
「んーっ、おいひいっ」
「良かった」
微笑むライナードの姿に、やっぱりライナードは格好いいと再認識しながら、もう一口頬張る。
「ところで、カイトが居た国はどこなんだ?」
パクパクとオムライスを食べ進めていると、ライナードはそっとそんな質問をしてくる。しかし、馬鹿正直に日本と答えるわけにはいかない。
「えっと……」
どうしようかと悩んでいると、ライナードが眉を下げる。
「言いにくいか?」
そんな反応をされてしまうと、どうしても罪悪感が生まれてしまう。
(俺が知ってる、この世界の国名って、レイリン王国とヴァイラン魔国だけなんだけど……)
ここは、嘘でも良いから答えるべきだろう。
「その、レイリン王国?」
最後が疑問系になったのは、嘘をついてしまうことへの罪悪感の表れだったのかもしれない。しかし、それは予想外の情報を俺にもたらすこととなる。
「なるほど、旧レイリン王国か。ということは、今はファム帝国だな」
「えっ?」
「む? どうした?」
「い、いや、何でもない」
(旧レイリン王国? 今はファム帝国? いや、でも、エルヴィス達はその国の王子だったり兵団長の息子だったりしたはず……)
ライナードの言葉に、俺は大きな不安を覚える。
エルヴィスはレイリン王国の王子だと名乗っていたし、リオンはレイリン王国の宰相の息子、ロッシュはレイリン王国の兵団長の息子、ダルトはレイリン王国の公爵家の息子、そして、ホーリーはレイリン王国の男爵家の娘とそれぞれ名乗っていたはずなのだ。
(騙された?)
もしかしたら、本当はそんな身分の存在ではなかったのかもしれない。思えば、彼らはそれだけの身分であるにもかかわらず、護衛の一人もついていなかった。
そして、今だから分かることだが、あのエルヴィス達の服装は随分と粗末なものだった。てっきり、そこまで文明が発達していないのかと思っていたし、そもそも召喚されてすぐに旅立って、エルヴィス達以外と会うのはヴァイラン魔国で初めてといった状況だったから比べることもなかったのだが……どう考えても、貴族が着るような服ではなかった。
(じゃあ、俺が元の世界に帰る手がかりが、レイリン王国にあるとは限らない、のか?)
もしも、エルヴィス達が俺を騙していたのであれば、帰る手がかりも簡単には見つからないだろう。
「カイト?」
「っ、あ……その、何でもない」
「……そうは見えないが」
いつの間にか食べる手が止まっていた俺は、その後ライナードに酷く心配されて、医師まで呼ばれそうになったが、何とかそれを押し留めて、食事を終わらせる。
「何かあるなら、言ってくれ。力になる」
「ありがとう。でも、本当に何でもないんだ」
そう、あの日、置き去りにされた時から分かっていた。簡単には帰る方法は見当たらないだろうということくらい。だから、こんなの、何てことない。
無理矢理自分を納得させて、俺はライナードを部屋から追い出す。今は、少し一人になりたかった。
「……帰りたい」
ヴァイラン魔国は、とても居心地が良い場所だ。しかし、大切なものは何もかも足りていない。両親が居ない、親友が居ない、街並みが違う、人も違う、世界が、違う。
帰るための見通しが立たない中のホームシックは、中々に辛いものだった。しかし、相談できる相手なんて、誰も居ない。自分一人で何とかしなければならないのだ。
「やっぱり、ライナードに言って、働かせてもらおう」
ライナードに働きたいと言えばどんな反応を返されるか分からないが、家賃を払いたいとでも理由をつければ、きっと働かせてもらえるだろう。そうして、ある程度自由に使えるお金が貯まったら、旧レイリン王国という場所に向かってみるつもりだ。望みは薄くなってしまったものの、彼らが全員、レイリン王国の者だと名乗っていたことには何か意味があるのだとでも思っていないとやってられない。
「明日、提案してみよう」
そうして、俺はぼんやりと故郷の日本に思いを馳せるのだった。
今回の章は、色々悩んで、葛藤して、という章になりそうです。
それでは、また!




