第十九話 物語通りに(ホーリー視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、前回に引き続きホーリー視点です。
それでは、どうぞ!
召喚した聖女は、あり得ないほどの良い子ちゃんだった。いや、良い子というより、断れない性格のようで、私が何を頼んでも、彼女は引き受けてくれた。
その性格は、見ていて何だか……。
(イライラする)
エルヴィス様達との関係も良好で、必死なその姿を見ていると、イライラが募って仕方なかった。だから、私はエルヴィス様達に、彼女の本性として、どんな男にも靡く女なのだということを吹き込み、襲われるように仕組んだ。しかし、それはことごとく魔物や賊に邪魔されて叶わなかった。
(何でよっ。私がヒロインなのよっ!)
もちろん、聖女である彼女もヒロインだ。しかし、続編の内容を考えるに、ヒロインとして選ばれるのは私か彼女のどちらか一人なのだ。
(消さないと)
ヒロインが一人になれば、必然的に私が選ばれることとなる。
だから、わざと魔物の群れの中に置き去りにしたり、賊に囲まれた時に囮にしたりと、命を落としてもおかしくない立ち位置に彼女を追いやってきた。それなのに……。
(何でっ、いつも無傷で戻ってくるのよ!)
聖女である彼女は、なぜか毎回無傷で戻ってくる。それも、魔物が別の魔物に襲撃された隙に逃げただとか、賊が仲間割れを起こした間に逃げただとか、あり得ないことばかりを話してくる。だから、とうとう間違えたと言いながら彼女に攻撃を向けるようにもしてみたのだが……運悪くそこに魔物やら賊やらが入り込み、結局彼女に傷一つ負わせることはできなかった。
(でも、これは避けようがないでしょ?)
続編の中にあるバッドエンドの一つに、魔王城から脱出できなかった場合のものがある。魔王を倒した後、そのままそこに居ると、魔王の友人である隣国の魔王、ハミルトンが出てきて、敵討ちと称して聖女を殺してしまうものだ。だから、私は計画を練って、彼女を魔王城に置き去りにすることにした。エルヴィス様達には、とうに彼女の悪評をバラまいていたため、彼女を放置して魔法具を使って帰る提案にすぐに乗ってくれた。
ちなみに、魔法具は聖女召喚の秘術を記した本と一緒に盗んできたものだ。
そうして、運命の日。なぜかやつれた様子のない魔王を物語通りに討伐して、私達は彼女を置き去りにすることに成功する。
(ふふっ、良い気味。あの絶望したような顔、笑えたわ)
拘束された状態で絶望をありありとその顔に浮かべた彼女は、見ていて愉快だった。
(これで、やっと私の物語が始まるっ)
もう、エルヴィス様達に先がないことは分かっている。しかし、魔族の片翼になれれば、後は甘い甘い日々を送ることになるのだ。夢渡りの力で彼らの欲を発散させながら、私は清い体を保ち続ける。
「確か、物語では賊に扮した魔族に襲われるのよね」
魔王城を去った後、レイリン王国へ戻る道中で、私達は賊に襲われるのだ。しかし、それは私を片翼として見初めた魔族による追っ手で、彼らは私だけを拐うと、後は用はないとばかりに放置することになるのだ。
「何か言ったか? ホーリー?」
「いいえ、何でもないわ」
エルヴィス様の問いかけにそう返すと、私は早く迎えが来ないかとワクワクする。
そして、その時は来た。
「っ、囲まれてる!」
最初に気づいたのは、兵団長の息子であるロッシュ。それに対して、私達はそれぞれに構える。
(きたきたっ、これこそイベントよっ!)
ようやく来たイベント。それに、私は表情には出さないものの、浮かれてしまう。
旅の道中、何度も賊と遭遇してきた私達は、それなりに対処できるものの、今回は多勢に無勢で、私は物語通りに拐われる。
「ホーリー!!」
「エルヴィス様っ!」
私に手を伸ばすエルヴィス様に、私も声を上げて、賊に拐われるヒロインを演じる。
そうして、私は、賊達のねぐらに連れて来られるのだった。
最後の言葉で、どういうことか分かった人も多いでしょう。
ホーリー、ここでバッドエンドを迎えることとなります。
詳しくはもっと後になって出しますけどね?
それでは、また!