第十八話 魔王討伐の旅(ホーリー視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回のお話は、海斗ちゃんを置き去りにしたメンバーの一人、ホーリー視点です。
海斗ちゃん召喚までのお話になります。
それでは、どうぞ!
『夢と愛のラビリンスロード』。その乙女ゲームが、この世界そのものだと気づいたのは、私が男爵家に引き取られて、ホーリー・ヴィッツという名前になってからだった。引き取られたその日に、私は前世を思い出したのだ。
それから、私は自分の配役に歓喜した。何たって、私こそがこの物語のヒロインで、様々な攻略対象者と結ばれる運命だったのだから。しかし……それはなぜか、悪役令嬢のはずのシェイラ・シャルティーとリリス・シャルティーが悪役らしからぬ状態だったせいで、狂ってしまう。懸命に、物語通りになるように自作自演でリリス・シャルティーに嫌がらせをされているように見せかけることまではできたものの、断罪の場で私は国王陛下に牢屋へ入れられてしまい、最終的に、他国に国を滅ぼされ、とある幽閉塔に閉じ込められてしまった。
(おかしい、こんなのおかしいわっ!)
当初、攻略対象者であるエルヴィス王子の子供を身籠っていた私は、そんな急激な環境の変化についていけず、流産してしまった。それにショックを受ける暇もなく、その幽閉塔で、私は同じように幽閉されている者達から暴力を受けるようになる。
(リセットボタンはどこっ! 今度こそ、私は幸せになるんだからっ!)
そう思いながら、私は暴力をふるう彼女らの夢に夜な夜な入り込んでは悪夢を見せ続けた。私は、ヒロインとして、夢を渡る力がある。その力を使えば、その程度のことは造作もなかった。現実の暴力に悪夢で対抗し続けて、しばらく経てば、誰もが私のことを気味悪がるようになる。私に暴力をふるえば、必ず悪夢にうなされるのだから、それも当然だろう。
「ふふっ、あははっ」
しかも、能力を使い続けた影響なのか、私の夢渡りの能力は飛躍的な進化を遂げた。元々は、夢を渡る相手の名前、顔、現在地を知っていなければならない上、相手にも私の顔と名前が認識されていなければならなかった。範囲も、測ったことはないものの、遠ければ遠いほど影響が少なくなるのは確認済みだった。しかし、今では、相手の名前と顔を知っていなければならないのと、相手も私の顔と名前を知っていなければならないのは同じでも、現在地がどこであっても夢を渡れるようになった。しかも、範囲も広がったように思える。
私はこの力を使い、今はすでに滅びた国、レイリン王国の王子、エルヴィス様やその側近候補だったリオン、ロッシュ、ダルトと連絡を取り合い、一つの朗報を聞く。
(魔王を倒せば、ここから解放される?)
それは、エルヴィス様が耳に挟んだ情報で、私達はすぐにそれに飛び付くことにする。何せ、私は幽閉、エルヴィス様は騎士団の雑用係、リオン、ロッシュ、ダルトは平民への降格なんていうとんでもない処分を言い渡されていたのだ。今は、何としてでもその情報にすがりたかった。
(それに、魔王討伐の旅といえば、続編よねっ)
じつは、この『夢と愛のラビリンスロード』には続編がある。タイトルは覚えていないものの、異世界から召喚された聖女か、前作のヒロインがこの作品でのヒロイン役となる作品だ。ちなみに、前作のヒロインが続編でヒロインとなる時の前提は、友情エンドで終わったというものだから、誰かと結ばれていたらアウトだ。
続編の内容としては、まず、魔族にとって最も愛する存在、片翼という伴侶に迎えたい存在に拒絶され続け、狂ってしまった魔王が、人間達を脅かし始める。それに対して、前作のヒロインである私を中心に、前作の攻略対象者達が集まり、聖女を召喚して魔王討伐の旅に出るのだ。旅をするに従い、前世が聖女と同じ異世界で暮らしていたという記憶を取り戻す元ヒロインと、それを知って喜ぶ聖女がお互いに友情を築きながら、最終的に魔王を討伐する。と、ここで、その様子を見ていた魔王の側近達が、聖女と元ヒロインのどちらかが片翼だと気付き、熱烈に求婚するお話となるのだ。
(ちなみに、隠しキャラは魔王本人か、隣国の魔王かだったはず)
攻略対象者は、ヴァイラン魔国魔王、ジークフリート・ヴァイラン。リアン魔国魔王、ハミルトン・リアン。ヴァイラン魔国三魔将の一人、ルティアス・バルトラン。同じく三魔将の一人、ライナード・デリク。同じく三魔将の一人、ジェド・オブリコの計五人の設定だ。魔王達以外の三魔将達の片翼の条件は、必ず、『異世界の魂を持つ者』というものが入る。だから、私もその条件は満たしているのだ。
(他にも条件はあったみたいだけど……そこら辺は忘れちゃった)
夢渡りの力で買収した看守の力を借りて幽閉塔から脱出し、聖女召喚の秘術が載っている本を盗み出して、私達は聖女を召喚する。召喚された聖女は、ゲームで見た通りの美少女で、なぜか、名前が『カイト』だった。
(ゲームでは、『カイリ』だったはずなんだけど……)
もしかしたら、またバグが起こっているのかもしれない。そんな不安を抱きながらも、私達は魔王討伐の旅に出発した。
一応、次回もまだホーリー視点が続く予定。
……早く、ライナードの天然っぷりが見られる回に戻りたいところではありますけどね。
それでは、また!