第十一話 嘘
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今回は……最初ほのぼの、最後シリアス、かな?
それでは、どうぞ!
朝食は、とても、とても美味しかった。それというのも、この国にはどうも日本に近い文化があるらしく、食事も和食だったのだ。根菜の煮付けだとか、焼き魚だとか、味噌汁だとか……たった三ヶ月ではあるものの、塩味のみの食事を続けていた俺にとっては涙が出るほど嬉しい事実だった。
「うぅ、ぐずっ」
「どっ、どうしたっ? 何か苦手なものでもあったかっ?」
いや、比喩ではなく、本当に泣き出してしまった俺に、ライナードが大慌てでオロオロしていて、少しばかり申し訳なくなったものの、どうにか食事が美味しいことを伝える。
「……これからは、毎日美味しい食事を用意しよう」
「うん゛っ」
(俺、ここに置き去りにされて良かったかもしれない)
ライナードは強面ではあるものの、優しいし、紳士だし、格好良いし、言うことなしだ。エルヴィス達は、顔だけだし、傲慢だし、我が儘だし、うるさいし、鬱陶しかったから、今居る環境は天国のようにも思えた。
「……はっ、ハンカチを」
しばらくオロオロし続けたライナードは、ようやく思いついたというように、騎士服の胸ポケットから白いハンカチを取り出す。
「あ、ありがとう」
グシャグシャになった顔にハンカチをあてて少し落ち着くと、この年で泣いたという事実が途端に恥ずかしくなる。
(俺、男なのに……)
しかし、和食の衝撃は大きかった。もう、あの塩味のみの生活……いや、時には素材の味のみの生活だった時もあるそれには、戻れない。
「落ち着いたか?」
「……うん」
恥ずかしさで返事が遅れたものの、確かにうなずけば、ライナードは自分の食事を差し出して、『もう少し食べるか?』なんて問いかけてくる。
(ライナード、優しいなぁ)
しかも、差し出してきたのは、俺が一番気に入っていた味噌汁だ。シメジらしきものが入った味噌汁は、とても懐かしくて、温かい味がした。
また涙ぐみそうになるのを何とか堪えて、俺はライナードの申し出を断る。量はそこそこあったため、今はお腹がいっぱいなのだ。
「そうか……なら、この後、話がある」
「分かった。ライナードが食べ終えるまで待ってるよ」
食べ終えたことを確認した給仕の男性が、緑茶を淹れてくれて、俺はそれにお礼を言いながら懐かしい苦味を堪能する。ライナードは、俺がお茶を飲んでいる間にさっさと俺の倍以上の量の食事を終えてしまった。
「まず、片翼の概念から話したい」
そう言って、ライナードは魔族にとっての片翼の意味や、彼ら彼女らが、どれだけ愛しく、大切な存在なのか、魔族の片翼となった者達がどのような生活をしているのかまで話してくれる。
(さしずめ、魔族は愛に生きる種族ってところか?)
魔族は片翼のためにはどのような努力も厭わないし、実際、片翼のために努力を続ける魔族が多いため、魔族達は総じて戦闘能力も、家事能力も高いそうだ。かくいうライナードも、戦闘はもちろん、家事だってお手のものらしい。今度、苺大福を手作りしてくれるという話で、俺が喜んだのは言うまでもない。
(なら、俺が聞いた魔王が悪だという話はどうなるんだ?)
エルヴィス達は、頻りに人間に害をなす魔族の王を討伐しようと張り切っていた。しかし、話を聞く限り、そして、昨日見た限り、魔王がそんな奴だとは思えなかった。そこら辺を詳しく聞いてみようかと口を開くと、その前に、ライナードの言葉が飛び込んでくる。
「そして、カイト。貴女は、俺の片翼だ」
「……はい?」
思考が明後日の方向に進んでいた俺は、一瞬何を言われたのか分からなかった。
「カイト、貴女は、俺の片翼だ」
聞こえなかったと思われたのか、同じことを繰り返されて、俺は混乱する。
(かたよく……片翼? え? 俺が? いや、なんで?)
何も答えられない俺に、ライナードは何を思ったのか、俺の目の前でひざまづく。
「こういう時、どう言えば良いのか分からないが……カイトが愛しい気持ちは本当だ。どうか、俺を見てもらえないか?」
恭しく俺の手を取ってぎこちなく口づけを落としたライナードを見て、俺の頭はようやく動き出す。
「い……」
「い?」
「嫌だっ!」
咄嗟に出たのは拒絶の言葉。それに、ライナードは目を大きく見開き、ショックを受けたような表情でカチンと固まる。
しかし、俺もここは譲れない。片翼というのは、要するに魔族にとっての伴侶とする存在だ。今は女の姿でも、俺は本来男だ。恋愛対象は、断じて同性ではない。ただ、それを説明できるほど、ライナードを信頼しているわけでもなかった。
「な、ぜ……?」
震える声で、絶望を滲ませながら問いかけるライナードに、俺は必死に言い訳を考える。
「っ、私には、他に好きな人が居るんですっ!」
本当は、そんな人なんて居ない。しかし、咄嗟の言い訳で思いついたのは、その一言だった。
「そう、か……」
傷ついたような表情を浮かべるライナードに、罪悪感がチリチリと胸を焼くが、俺はそれを必死に無視する。
「……分かった」
そう言ってうつむいたライナードは、それ以上何も言うことなく、部屋を出ていくのだった。
可愛いライナードはショックを受けてしまいました。
さて、ここからどうなるか……。
それでは、また!




