第百四話 自覚
ブックマークや感想をありがとうございます。
いやぁ、海斗ちゃん、そろそろオチてもらわないと、ですよねっ。
と、いうわけで、新章突入です。
それでは、どうぞ!
デートが終わった翌日、俺は、布団の中で悶々とした気分のまま目覚める。
「うぅ……」
(俺、やっぱり、変だ……)
昨日、帰ってきてから、ふとした瞬間におでこに口づけされたことを思い出しては悶えることを繰り返した俺は、熱くなる頬を押さえて、布団を被る。
(うー、あー……俺は、ノーマル…………)
段々と効果が薄くなってきているようなその呪文を心の中で唱えるものの、どうやら、とうとうそれは、効果を発揮しなくなったらしかった。
(俺は……)
自覚してはいけない。そんな警鐘が頭の中で鳴り響く一方、早く自覚しなくてはという思いもある。
(俺は、男、だぞ? それなのに……それ、なのに……)
心は、中々素直にならない。しかし、それでも時間をかけた分、解れてきているのも確かで、きっともう、手遅れなのだと分かっていた。
(俺は…………ライナードの、ことが……)
目に浮かぶのは、優しくて、暖かいライナードの眼差し。時には可愛く見える、強面なライナードの顔を思い浮かべれば、自分の頬が緩むのを感じてしまう。
(あぁ……俺って、もう、とっくの昔に……)
ライナードのことが、『好き』なんだ。
その日の朝も、いつもと変わらない朝食風景があった。ライナードとニナの二人と一緒に摂る、美味しい料理の数々。しかし、今は味どころではなかった。
(目を、合わせられない……)
元々、食事の時に何かを話すのは俺かニナのどちらかで、ライナードはそれを楽しそうに聞いてくれるのが、いつもの食事風景だ。ただ、今はライナードと話すのも何となく気まずい。ニナの話を聞きながら、極力ライナードに意識を向けないよう努力する。すると……。
「カイト、今日は、元気がなさそうだが、体調が悪いのか?」
ずっと黙っているのは、やはり不自然だったらしい。ライナードにそう言葉をかけられて、俺はビクッと肩を跳ね上げる。
「えっ、あ、いや……体調は、悪く、ない」
しどろもどろになりながら、どうにか返事をするものの、ライナードに顔を向けられずうつむいてしまう。
「む……しかし……」
「まま、どこかいたいの?」
「い、いや、大丈夫、その……そうっ、ちょっと疲れてるだけだからっ」
さすがにニナにまで心配されると、罪悪感が凄まじい。ひとまず、即席の言い訳でこの場を切り抜けようと、あり得そうな事柄を告げてみる。
「昨日のデートで無理をさせたか? すまない」
「でっ……い、いや、本当に、大丈夫だからっ」
(デートって、デートって!!)
もう、顔が赤くなるのを抑えるのは無理だ。俺は行儀が悪いと分かっていながら、ご飯を掻き込むと『ごちそうさまっ』と告げてその場から離脱する。
(あぁああっ、心臓がっ、ドキドキがっ)
自覚してからは、もう、俺は自分の気持ちの制御ができず、ただただ翻弄されてしまう。
きっと、先程の俺は、態度が悪かっただろう。それで、嫌われてしまわないかも心配だし、嫌な思いをさせていないかも心配なのだが、今さら本当のことを話に戻るわけにもいかない。
(いや、待て。その前に、俺、いつかこの気持ちを話さなきゃならないんじゃ……)
ライナードは、俺が元々男で、男同士というものに抵抗があることは知っている。と、なると、最終的には俺がゴーサインを出さなきゃならないということになるのではないだろうか?
(むーりーっ! 無理無理無理っ! 絶対、心臓がもたないっ!)
今から未来のことで悩んでも仕方ないという事実に気づかないまま、俺は自分で自分を追い込む。そして……。
(……あ、れ? そういえば、明日は雪祭り……二回目の、デート……?)
部屋に戻ってきた俺が、枕に顔を埋めて唸ったのは言うまでもない。そして、心配したライナードが部屋に来ようとしたのを何度も追い返し、俺は、ノーラやリュシリーにまで心配されるのだった。
やっと、自覚した海斗ちゃん。
でも、今回の章はたっぷり波乱の予感を備えたものであります。
それでは、また!




