第百三話 許されざること(リオン視点)
ブックマークや感想をありがとうございます。
さてさて、この章の最後は、この人で締めようと思います!
不穏たっぷり大サービスです(笑)
それでは、どうぞ!
街が魔法の光で華やぐ中、私は片手に買い出しの荷を抱えてフラフラと歩いていた。
(屈辱だ。この私が、使用人の真似事など……)
カイト嬢を救出しようと、エルヴィス王子達と
別れて行動していたあの日、森で魔族に捕まった私は、ラディス・バルトランという名の魔族に魔力を封じられた状態で使用人として働かされていた。
(カイト嬢に早く会いたいというのにっ。なぜっ、こんなことにっ!)
ラディスという男の魔族は、信じられないことに、カイト嬢にはすでに想い合う相手が居ると伝えてきたが、そんなのは嘘に決まっている。きっと、私の助けを今も待っているに違いないのだから。
『あぁ、そうそう、リオン君のお仲間が全員揃ったら、それなりの処分も考えることにしますよ。もちろん、リオン君が心を入れ換えて努力しているようであれば、減刑も望めますので、頑張ってくださいね?』
そう言い残して、それ以降、私はラディスに話しかけられることはなかった。
(何が減刑だ。私は、何も悪事など働いてはいないっ)
今はとにかく、大人しくして期を窺うべきだ。そう考え、使用人の真似事をさせられる現状に甘んじることに決めたのは、もう随分前のことのような気がする。
(くそっ、今に見ていろ、魔族どもっ。必ず、レイリン王国は復活し、貴様らを滅ぼしてみせるからなっ)
重い荷物によろけながら歩いていると、ふいに、見覚えのある水色の髪が見えた気がして、そちらへと視線を向ける。
(あ、れは……カイト嬢!?)
後ろ姿しか見えないものの、それは確かにカイト嬢だった。私が、大切な想い人を間違えるわけがない。
(……隣の男は、誰だ?)
しかし、問題は、そのカイト嬢の隣に居る男だった。屈強な体つきで、翡翠の髪と角を持つ魔族の男は、あろうことか、カイト嬢と手を繋いでいる。
(あの男に、脅されているのか?)
そうであるならば、一刻も早く助けなければならないと、私はそっと後をつける。しかし……。
(なぜだっ。なぜ、カイト嬢は振り切ろうとしないっ!)
じっと観察していれば、さすがに、カイト嬢が嫌々あの男と一緒に居るわけではないことくらい理解できた。どんなに理解したくなくとも、時折頬を赤く染める両者を見ていれば、どういう関係なのかくらい分かる。
(私は、こんなにもカイト嬢を愛しているのにっ、そんなにその男が良いのかっ!)
二人の仲睦まじい様子を見るごとに、視界はどんどん、黒く染まっていく。
(許さない。私が居るにもかかわらず、他の男のものになるなど、許さないっ)
馬車に乗って、どこかへ去ってしまった二人を見ながら、私はギリリッと歯を噛み締める。
次期宰相たる私が居るにもかかわらず、あんな男にうつつを抜かすカイト嬢が憎かった。私の方がよほど美しい容姿をしているというのに、あんな厳つい男に女の顔を見せるカイト嬢が許せなかった。純真な顔をして、男を惑わせる魔性の女。そんな女の存在が、どうしても、許せなかった。
「坊っちゃん? あんた、あの家の奴らに恨みでも持ってんのかい?」
馬車が去った後を立ち尽くしていると、ふいに、ローブを被った怪しい男に話しかけられる。
「ありゃあ、デリク家の紋章だな」
「デリク家……」
「何か、復讐したいことがあるんなら、手を貸すぜぇ?」
怪しいことは重々承知の上。それでも、私は、カイト嬢の身勝手な振る舞いが許せず、その手を取る。
(やはり、あばずれは、あばずれ。しつける必要がありそうですね)
殺しはしない。ただ、自分にだけ、従順になるようにしつけてあげるのだ。それがきっと、カイト嬢にとっても幸せなのだと疑いもせず。
「ククッ、駒を一つゲット、だな」
ローブの男がそんなことを呟いていることにも気づかずに、私は、じっと、馬車が去った後を睨み続けるのだった。
次回からは、またしても波乱の予感?
それでは、また!