第百話 観劇
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今回も、平穏無事な初々しいカップル模様ですっ。
それでは、どうぞ!
ライナードに連れていってもらったお店のサンドイッチは、とても絶品だった。あんなカツサンドを食べたら、他のが食べられなくなりそ……いや、ライナードが作ってくれたら食べるか。
そんなことを考えながら、今日のメイン、劇場へとやって来た俺は……質素ながらも暖かく、落ち着いた雰囲気の座席に腰掛けながら、それを注視する。
「ライナード、あのちょっと広い座席って、何なんだ?」
段々になっている席の中で、ピンクに色分けされている座席の区画が両端にある。一人で座るにしては広過ぎ、二人で座るには狭そうな席。ビップ席、というには場所はあまりよろしくないので、何か意味があるのだろうかと尋ねてみれば、予想外の答えが返ってくる。
「む? あれは、カップル席だ。主に、片翼を膝に乗せて甘やかしながら観劇するために作られた席だな」
「な、なるほど」
(さ、さすが、愛に生きる種族……)
こんなところでも、魔族の溺愛事情が見えて、俺は頬を引きつらせる。席が広いのは、イチャイチャするためだそうで、ここからでは見えないが、座席の前には、片翼とイチャイチャしながら観劇する方法が書かれたリーフレットが挟まれているらしい。
「……」
「……ライナード?」
「む、いや、何でもないぞ?」
ピンクの席を凝視して、なぜか残念そうに今の席を見比べていたライナードを不審に思いながらも、俺は次第に座席が埋まっていくのを眺めながら、劇が始まるのを楽しみに待つ。
そうして、始まった劇に、俺は一気にのめり込む。
劇の内容は、兄王子の婚約者が自身の片翼だと気付き、苦悩する弟王子の恋愛物語。
兄王子と弟王子は対立しており、もし、兄王子の婚約者が自身の片翼だと知れたら、彼女の命が危ういと、必死に自分の気持ちを押し隠す。対して、兄王子の婚約者である彼女自身も、弟王子の立場を理解して、気丈に振る舞う。それでも、時折、偶然を装っては、二人で会い、その互いの想いを強めていく。
しかし、そんな穏やかな日々が続くわけもなく、兄王子と弟王子の派閥の対立が激化し、互いに殺すか殺されるかの間柄になってしまう。そんな時、とうとう弟王子の片翼が兄王子の婚約者だとバレてしまい、彼女を人質にされた弟王子は、身一つで危険な森の中へと追放されてしまう。
「うわぁっ、続きがっ、気になる!」
「続きは、来週からの公演だな」
「本当!? なら、来週! 来週も、観に来ようっ」
「む、もちろんだ」
劇の内容もさることながら、その演出も、日本のものとはまた違って、素晴らしいものだった。照明やら音響やらは全て魔法で行っている。ついでにエフェクト効果も魔法だ。
そして、さすがは魔族。身体能力がとんでもない。今回の劇は、ミュージカルだったため、途中途中で歌やダンスが入っていたのだが、ダンスの一つ一つに曲芸じみたものが混じっており、思わず息を呑むのは何度あったことだろうか。
衣装だって、きらびやかで、見惚れてしまうようなものばかり。もう、俺の心は完全に鷲掴みにされていた。
「それでそれでっ、弟王子の苦悩が迫真の演技で、もう、ゾワッとしたねっ」
観劇を終えて、喫茶店に入った俺達。俺は、今は劇の感動をとにかく語りたくて仕方ないため、ご機嫌な様子のライナード相手に必死に話していた。
「なぁっ、ライナードはどこが良かった?」
「む、俺は、兄王子の暗躍具合が空恐ろしいと思ったな。あれは、到底真似できそうにない」
「あぁっ、そうだよなっ。兄王子も兄王子で、かなりの腹黒具合だったよなっ。あー、来週が今から楽しみだっ」
「む、またデートだな」
(……あっ……)
楽しく夢中で話していた俺は、無意識にライナードをデートに誘っていたことに気づく。
(い、いやいやいや、違う、これは、ただのお出掛けであって……あれ? でも、ライナードがデートと思ってたらデートになる……? のわぁぁぁぁあっ)
自分の羞恥心を押し隠す方法を、今すぐ知りたいと思いながら、急に勢いをなくして大人しくなった俺を心配するライナードに、曖昧な笑みを返すのだった。
この章のギリギリまでは、このほのぼのな雰囲気を続けたいところ。
デートの約束で、予定がどんどん埋まっていく不思議(笑)
それでは、また!