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隣ノ世界ノワタシ  作者: ヴィンディア


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第8話 彩

 どう反応すれば良いかわからないといった様子の彩を目の前にして、反応が返ってくるのをじっと待つ。

 オレの、というより元のユウキの部屋に彩を連れてきて、落ち着いたところでこちらの世界で目覚めた日に両親にしたのと同じ説明を彩にした。

 一通り説明したところで落ち着いて反応を窺っている状態だ。


 数分の沈黙があり、少しは頭が整理できたというのか我に返ったというのかようやく彩が口を開く。


「ナニイッテンノ?」


(まぁ、真っ当な反応だよね…)


 そう思いながらも再びフォローする。


「さっき説明した通りだよ。だからオレは彩の知ってる元のユウキじゃないと思う」


 彩の表情は驚きから泣きそうな様子に変わったと思った次の瞬間には険しくなり、今度はオレの二の腕を掴んでガクガクをゆすりながら強い口調で喋り始める。


「ねぇ!!ついに自我も壊しちゃったの!?そんなの絶対にダメよ!!」


「ちょ、ちょっと彩!なんかよくわからないけど落ち着いて!」


 この取り乱し様から、今のオレは元のユウキとは違うという事は理解できているようだ。もしかすると学校にいる時から既に感じるものがあったのかもしれない。

 それにしても自我を壊すとは随分と物騒な事を言っている。何かあったのだろうか。


「こんな時に落ち着いてなんていられないわよ!!こんな方法で逃げたら絶対に許さない!!ちゃんと戻ってきなさいよ!!」


 何を言ってるのかさっぱりわからないが、彩の目に薄っすらと光るものが滲み始めた。しかしガクガクと揺すぶられ続けたせいで目が回りそうだ。


「そんなに揺すられると目が回るー、そろそろ本気でやめて…」


「ぁ、ごめんなさい…」


 そう言うと、少し落ち着いたのか手を離してくれるが、強い調子で続ける。


「あんたがゆうきじゃないなら、ゆうきはどこに行ったの!?」


 この言葉を言われる事は覚悟していた。しかし実際に言われると、自分の存在はあくまで異物であって本来いるべき存在を押し退けた上で成り立っている事を痛切に感じてしまって居た堪れない気持ちになる。

 それでも本当につらいのは大切に思っている存在を失くしてしまった人達だ。オレはその気持ちを汲んだ上で真摯に行動すべきなのだ。


「わからない。この体の中で眠ってるかもしれないし、入れ替わるようにオレの元の体に入って元気にやってるかもしれない」


 もしかすると存在そのものをオレという人格が上書きしてしまっているかもしれない。その言葉は可能性としてあってもここで言うべきではない。


「それなら、戻ってくるかもしれない?」


「その可能性もなくはないよね」


「そっか…でも…ゆうき、いなく…なっちゃったんだ…」


 最初は気丈にも目尻を手で拭っていたが、徐々に顔を歪ませていく。


「幼馴染の前で無理しなくていいよ?」


「何よ…ゆうきの…くせ…に」


 その後は言葉が続かなかった。オレの肩に寄りかかり静かに涙を流し続けた。そんな様子の彩の頭を撫でてやるくらいしかオレが出来ることは無かった。

 しかし、両親ですらここまで感情的にはならなかったのに、なぜここまで彩が感情的になるのかがいまいちよくわからない。その辺はこの後聞いてみた方がいいかもしれない。




 落ち着いた所で彩が顔を上げる。目は真っ赤で腫れてるしで酷い顔をしている。同級生に学年のアイドルのこんな顔は見せられないな、と少し可笑しくなる。


「彩ー、酷い顔ー。みんなに見せられない顔してるよ?」


 わざと元のユウキっぽく彩をからかってやる。


「うっさい!何なのよ、ゆうきのくせに!屈辱だわ」


「んふふ~♪11年キミらより長く生きてるからネー。その余裕ってヤツ?」


「ねぇ、そういう所ゆうきにしか見えないんだけどホントにあんたゆうきじゃないの?」


「悠樹だけどゆうきじゃないよ」


「はぁ?」


「ややこしいね。25歳の悠樹って男だけど14歳のゆうきって女ではないよって意味。さっきのは家族の話を元にマネしてみただけ」


「話を聞くだけでそこまで似せられるとは思えないんだけど?」


「そんなに似てた?」


「別人とは思えないくらいよ」


 はっきり言って想定外だ。ここまで幼馴染を信じ込ませる事ができるレベルであれば、最初からフリで通せばよかったかもしれない。そうすれば彩を傷つける事もなかったかもしれない。


「はぁ、それなら最初から演じきれば良かったよ」


「そんな事して気付いたら怒るけどね」


「やっぱり気付く?」


「多分ね」


 やはりボロが出るという事だろう。


「そっか。それでさっきの話、男女差はあるだろうけど、根は同じ人間だから元々似てた部分もあるんだと思うよ。持ってる雰囲気とかそういったところって本来マネし切れないところだし」


 ここまで説明してもまだ納得しきれていないようで少し険しい表情をしている。


「わかった、一旦はそういう事にするとして相談って何?」


 今までの告白はあくまで前置きだと気付いているようだ。察しが良いからなのか頭の回転が早いからなのか、話が早いのは助かる。


「簡単に言うとゆうきの…あ、この体の本来の持ち主のゆうきがどんな人だったか知りたい」


「それを知ってどうするつもり?」


 今のオレが元のユウキでないと仮定するなら、情報を教える事で元のユウキにとってマイナスになるような事をしないか見極めているのだろう。根が優しい彩らしい。元の世界の彩と一緒でまた少し涙腺が緩みそうになる。


「悪い事をするわけじゃないのに…」


「あんたにとって悪い事じゃなくてもゆうきにとっては悪い事かもしれないでしょ!」


「元通りに振舞う事で、周りに今までと変わっていない事をアピールしたいんだ」


「もう既に手遅れ気味だと思うわよ?」


「そうなの?」


「そうよ!まったく…」


 そんなにおかしな行動をしてたのだろうか。まったく自覚がない。


「まぁ、いいわ。全部アタシが知ってる限りの事は教えてあげる。その代わり、あんたの事ももっと教えなさいよ」


 ここでやっと彩から了承がもらえた。


「何から話そうか」


 そう彩は切り出して、少しづつ客観的に、時には彩の主観も交えてゆうきの様子を話してくれた。


 小学校1年の出会いのところから4年生くらいまでで彩の主観も交えて話してくれた様子はオレの記憶とそう差はない。

 家がお互い近かった事もあってゆうき、翔太、彩の3人は母親同士も仲が良く、学校以外でも本当によく一緒に遊んでいたようだ。大人しいゆうきと明るいが主体性のない翔太を姉御肌な彩が強引に引っ張っていく、そんな関係だったようだ。昔のことを思い出すような話だ。

 ゆうきの話となるとさすがに男と女で少し違うのが普通なのだが見事に一緒だった。彩が話すところによると、普通の女の子が興味を示すような人形遊びやおままごとにはまったく興味を示さず、男児向けのアニメやその関連グッズの方に夢中になっていたようだ。あの頃は蚊帳の外にいる事もあって少し寂しかったと当時の彩は思っていたそうだ。あっちの彩もそうだったのだろうな、と今更ながらに思う。


 しかし、話が5年生を過ぎたあたりから様子が変わってくる。

 オレの記憶では、そこからは彩とは疎遠になり翔太や、時には学校の男友達も含めて男とばかり遊んでいたが、こちらではゆうき・彩と翔太が疎遠になっていったようだ。ここまで聞けば男女の差があれば当然の事と思えた。しかし詳しい話を聞くとオレの場合と少し違った。オレの場合はお互いが避けるようになっていったのだが、こちらでは翔太が一方的に避けるようになったようだ。

 予想通りではあるが交友関係の主だったところは男子ばかりであったようだ。


 そして、決定的な差が中学入学後しばらくした頃にあった。

 他の小学校から改めて中学になって同じ学区になり同級生になった女子数人から苛烈ないじめにあったそうだ。本当にくだらないと思ったが、彼女らの意中の男子の好意を集めてしまった事が原因だとの事だった。

 それ以降、自ら積極的にコミュニケーションを取らなくても人当たりは良かった性格が、一部の仲の良い友人を除いて冷たい、むしろ怖いくらいの対応しか取らなくなったという。

 そんな友人を見て、今後絶対に同じ目には遭わせないように守ると翔太とも意思を確認し合っていたそうだ。

 この話をしている間、小刻みに震えるように彩の黒目が動ていた。それは彩が本気で怒っているときのそれだった。親友を傷つけられた事に今でもかなりの怒りを感じている様子だった。

 そんな様子からオレから事情を話した時にあそこまで感情的になった理由が少しわかった気がした。


 ちなみに今の素のオレは、いじめられる前のゆうきに良く似ているらしい。もし、いじめがなかったら、またはオレが中学時代いじめにあっていたら男女差があってもかなり似た性格だったかもしれない。


「そんな訳だから、一部の本当に仲の良かった友達にはあんたの素のままで、それ以外には冷たく当たってればほぼバレないわ。そこはあたしが保証しても良い」


「そうなんだ。でも、その冷たくっていうのがなかなか難しそう…」


「無表情で最低限しか喋らない。更に近づいてくるなオーラを出すと尚良し!」


「『尚良し!』じゃないよ…。はぁ、完コピは無理っぽいね」


 元が同じとは思えない豹変っぷりだ。とてもではないがマネできそうにない。しかし、元が同じと言うことはオレ自身何かがきっかけで同じように変わる可能性があった、もしかするとまだ可能性はあるかもしれないという事だ。


「そんなつらいところまであんたがマネする必要ない!」


「そうだね、多分オレの神経がもたないと思う」


「本当の事言うと、今のあんたが周りの評価を少しでも修正してくれれば、ゆうきが帰ってきた時に悪い事にはならないと思ってるの」


 今度は彩がつらそうに顔を歪める。


「ゆうきに対しての周りからの対応見てると悔しくて…」


 もしかしたら、こんな事態になる前にゆうきを助けられなかった事を悔いてるのかもしれない。


「次ワタシが同じ状況になったら今度はすぐに相談するから…」


 あえて元のユウキの口調で告げる。彩は一瞬泣きそうに顔を歪めたが、その後泣き笑いのような表情を浮かべる。


「うん!絶対よ!?」


「元のユウキはわかんないけどねー」


 少し照れくさかったその感情を隠すため、あえて悪戯っぽく答える。


「あんたがちゃんと言い含めておきなさいよ!」


 冗談とも無茶振りとも取れない事を笑いながら言われる。変に引いてないようで安心した。


「ところで、今度はあんたの番よ」


「うん?」


「『うん?』じゃなくて、あんたの番!」


「なんだっけ?」


「ちょっと!あんたの事も教えなさいって言ったじゃない!?」


「あー、その話ねー。多分そんなに面白くないよ?」


「それでもいいから聞かせて!」


「まぁ、そういう事なら」


 そうやり取りをして、彩がしてくれたのと同じように小学校入学の時から中学2年までの話をした。小学校高学年の頃の話をすると「あたし達と逆なのね!」とオレと同じ事を思ったようだった。

 しかし中学2年の秋頃で話は止めておいた。未来像なんて語ってしまったら、それがどう影響してしまうか予測がつかないからだ。オレがこちらに来てしまったと言う不可抗力な部分はどうしようもないが、それ以外の部分では極力未来に干渉するようなことはしない方がいいような気がしたからだ。

 中学2年で止まってしまった事に彩は少し不満そうにしていたが、気を取り直して年頃の少女らしい質問をしてくる。


「ねぇねぇ!それで好きな子とかいなかったの!?」


 他人(ひと)恋話(コイバナ)は思春期真っ只中の中高生にとっては最も興味のある話のひとつだろう。


「もちろん、いたよ」


「誰!誰!?」


 違う世界の同じ人とはいえ、オレの中ではもう既に隠すことでもないので正直に話す。


「彩だよ」


「ふえ!?あたし!?」


 ここの世界での話ではないから、さらっとひとごとで流して欲しかったんだが、やけに慌てふためいている。本当は彩なんだけど彩じゃないわけでここまで動揺するのは想定外だった。


「ゆうきの事は好きだけどそれは友達としてであって恋愛関係ではなくて、そもそも女の子同士だし、でも相手がゆうきなら…」」


 何やらパニックになって一人でブツブツ呟いている。少し聞かなかったことにした方が良さそうな事も言っているのが気になるところではあるが、向こうとこっちの関係がごちゃ混ぜになってしまっているのだろう。見てるだけでも少し面白いのだが、さすがにかわいそうなので訂正してあげることにする。


「パニックになっているとこ悪いんだけど、彩は彩でもキミじゃなくて向こうの世界の彩だからね?」


「え!?…あ…そ、そうよね!」


 やはり盛大に勘違いをしていたのだろう、顔が真っ赤だ。からかってやろうかとも思ったが、さすがにかわいそうなので自重しておく。しかし、安堵の表情をしているのは理解できるのだが、少し残念そうな色が滲んでいるのは気のせいだろうか。

 少し間をおいて落ち着いたところで、また彩が質問を再開する。


「それで、その後どうなったの?」


 本来、それ以降のことを教えてしまうのは避けたかったが、ゆうき自身が女だからこの世界には影響が少ないとして返答しようと思ったが、先ほどの彩の危ない言葉を思い出すと実は影響があるんじゃないかと二の足を踏んでしまう。しかし、目をきらきらさせて続きを待っている様子に、まぁいいかと答えることにする。


「高校の時に玉砕しました…」


「えー!?告白してダメだったの!?」


「ううん、他の男に先を越された…」


「だっさ!?…その男とは長く続いてたの?」


「さりげなく古傷抉らないでくれる?すぐ別れたって聞いたけど、真相はしらないかなー」


「ふーん?結局お互いの気持ちはわからないままだったの?」


「そうだね。オレの気持ちは伝えてないけど、あっちは幼馴染以上の感情はなかったんじゃないかな」


「…はぁ。あっちの世界のアタシご愁傷様…」

 

 心底あきれた様子で呟いている彩。


「失恋したオレじゃなくて、彩を慰めるってどういう事?」


「はぁ…あんた鈍チンとか鈍感とか言われた事ない?」


「なんでわかったし!?」


「そんなのすぐにわかるわよ…ゆうきもそうだったしね」


 まったくもって理解できない。向こうでは翔太にも言われてたが、何故そう言われるのか思い当たる節がまったくない。

 そういえば、向こうの彩は基本的には周囲の感情の機微には敏感だったにもかかわらず、自分への好意に対しては随分と鈍感だった記憶がある。かなりモテるにもかかわらず彩自身は本気でモテないと思ってる節があった。だからこそオレの想いにも気づいてない様子だったし、モテるにもかかわらず高校2年まで彼氏ができなかったのだろう。


 何はともあれ、彩のおかげで情報はいいところまで集まった。後は今後どうするかをオレの意志込みで決めなければいけない。この辺もいい機会だから彩に相談に乗ってもらうことにした。


「明日からだけど、学校でどういう態度とればいいと思う?」


「今の素でいってみたら?」


「急におかしくなったと思われないかな?」


「さっきも言ったけど、それはもう手遅れだってば!それだったら良い方に変わったと思われたほうがいいわ」


「オレの素だと高感度アップ?」


「少なくとも前よりかは遥かにマシね」


「そっか、オレもその方が楽でいいよ」


 意外と素でも元のユウキの小学生の頃とイメージが近いようだから、古い友人達は昔に戻ったと好意的に解釈してくれるかもしれない。


「それと学校では気を付けてたみたいだけど、その『オレ』っていうのなんとかならないの?」


 ついに突っ込まれた。確かにオレ自身男の時よりはるかに高い声で「オレ」という一人称で発言することに違和感を感じてはいたのだ。あくまで今までの癖や自分は男であるというアイデンティティから使っていたに過ぎない。ただ…


「できるけど、なんか恥ずかしい」


 この一言に尽きる。


「はぁ?女なんだから気にする必要ないじゃない!」


「そうなんだけど、なんていうか…オカマになったような気分になるんだよね…」


「う~ん、無理強いはしないけど個人的にはやめて欲しいかな。ゆうきの声と姿で『オレ』なんて言われるとハッキリ言って気持ち悪いのよ」


「うぅ…気持ち悪い言われた…。まぁ慣れの問題だよね、できるだけ気をつけるよ」


「うん、そうしてくれるとありがたいわ、あたしの精神衛生上も」


 あくまでオレ自身の気持ちの問題だ。周りから見たら「オレ」の方がおかしくて「わたし」の方が馴染むのだ。今はまだ恥ずかしいし少し気持ち悪いと思うところもあるが、やぱり慣れていくしかない。社会人になってからは対外的には使っていたのだ。すぐに慣れると自分自身を納得させる。





 10月も下旬となるとかなり日が短くなり、夕方5時には薄暗くなる。

 学校が終わってからそんな時間になるまで彩と話し込んでいたが、外が暗くなってきている事に気付いた。


「いつの間にかこんな時間」


 壁にかかった時計の針はもうすぐ短針が6の数字を指す時間だった。


「そろそろ解散しよっか」


 そう声をかけると、少し残念そうな表情を見せた後


「そうね、そろそろ帰るわ」


 と返事が返ってきた。

 元25歳男からすると「ぼちぼちいい時間だから一杯行く?」というこれからの時間なのだが、中学生にとっては部活も終わって帰る時間だろう。オレも同じ頃は帰宅部ではあったが、翔太や他の友人と遊んでても7時か遅くとも8時には家に帰るという生活をしていたような気がする。


「うん、今日はありがとう」


「必要なことだったしね、気にしなくていいわ。それに久しぶりにたくさん話せて楽しかった」


 久しぶりも何もこちらの世界の彩とは初めてなのだが、それを言うのも野暮というものだ。


「わたしも向こう合せても、もう10年以上ぶりかな」


「そんなに!?あぁ…向こうのあたしかわいそう…」


「なんでそうなるかなぁ」


 そう言いながらまた笑い合う。送るよと言いたいところではあったが、家がすぐ近くなのとオレが送ってなんになると思い直し、玄関まで来たところで見送る事にする。


「それじゃ彩、また明日」


「うん、また明日。それじゃね」


 彩は軽く手を振って帰っていった。

 こんな風に彩と接することができるのも本当に久しぶりだ。こちらの世界に来て初めて良かったと思えた瞬間だった。


 今でも彩に話した事が彼女にとって良かったことなのかそうでないのかは判断ができない。しかし、オレ自身としてはすべてがいい方向に向いた。自分の方向性が見えた事や必要な情報を集められた事ももちろん重要な要素ではあったが、やはり向こうの世界では中学時代に失ったものを取り戻せたような、そんな気持ちになれた事が一番嬉しかった。






 今日も長かった一日が終わる。

 入浴も済ませて、あとは寝るだけだ。


 二日目以降、お風呂で変な気分になる事はなくなった。女特有の部分を見ても触れても何も思わなくなった。同年代の子達と比べると成長は早いようではあるが、オレからするとまだまだ子どもの範疇を越えない。初日はどうかしてたとしてか思えなくなってしまった。


 ベッドに潜り込んで、今日の事を思い返してみると本当に濃い一日だった。初登校に加えて、向こうの世界とは様子の違う翔太と彩を目の当たりにして、極めつけは彩への現状の告白だ。

 元の世界に戻れるか否かと考えると、恐らく戻れないのではないかという予感がある。そうなった場合に自分の立ち位置を悪くしておく必要はない訳で、その部分を考慮すれば今日はかなり意味のある一日だったのだと思う。

 よく考えてみると、体が女であるという重要な部分を除く事前提ではあるが、こちらの世界に来る前、最後の夜に願った事そのものだと気付く。皮肉なことに除いた部分が恐ろしくマイナスに振り切れているのは神様の悪戯だろうかと思わずにはいられない。


 色々な事を思い出し、考えていたが体は疲れていたのだろう。徐々に思考がまとまらなくなり、意識が少しづつ夢の世界へと旅立っていくのだった。

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