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第7話 ゆうきの過去

 今朝からゆうきの様子がおかしい。


 席がわからなくて教室前をウロウロしていた事から始まって時間割間違えて教科書が無いせいで先生に怒られてたり。

 わりと天然っぽくて冗談めかしてアホの子扱いする事もあるけど、ホントは頭の回転が早くて記憶力もいいから席を忘れるとか時間割間違えるとか今まで一回もなかったし普通に考えれば有り得ない。


 極めつけによく知らない男子に声を掛けても平然としていた。そもそもいつもなら接点の薄い男子に声を掛けるなんて事ないし、声を掛けてもあたしや翔太みたいな親しい人と話す時みたいなふわふわした雰囲気は絶対に出さない。淡々とむしろ冷たいと思われるくらい機械的にしか接しない。

 元々親しい相手以外にはコミュニケーションを取るのを苦手としてたっぽいけど、あの事件があってからは特に酷くなった。


 あの事件の事は今思い出しても、怒りがこみ上げてくる。




 ゆうきは昔から人見知りが激しくって、親しくない子と積極的に話すことは無かった。それでも今みたいに相手を拒絶するように冷たく接することなんてなくて、むしろ人当たりはいいくらいだった。

 だから今みたいに孤立気味になることも無かったし、どうしてか男子とばっかり仲良くする事が多かったうえにとびっきり可愛かった事もあって男子にはかなり人気もあったみたい。


 それが変わったのは中学に上がってから。

 親しい人以外に対して、少しづつ周りに壁を作る事が多くなった。この時は翔太もあたしも気付けなかったんだけど、他の小学校から上がってきた一部の女子からあからさまな嫌がらせを受けてたって後から聞いた。

 

 簡単に言うと虐められてたって事だね。


 聞こえるように悪口言われるなんてかわいいレベルで、机や教科書に落書きされたり物を隠されたり、酷いものになると壊されたりなんて事もあったみたい。

 虐めをしてた一派がかなり陰険で先生達やあたし達にもばれないように、かなり注意してたみたいでホントにそんな事があるなんて気付かなかった。


 もし、もっと早い段階で気付いてあげられてたら、相談してくれてたら、今みたいにゆうきが頑なになることもなかったしれない。そう考えると気付いてあげられなかった自分への苛立ちとあたし達に相談してくれなかった寂しさと、理不尽な仕打ちをしたバカ共への怒りとで、今でもやりきれない気持ちになる。


 でも、そんな状況を変えたのはゆうき自身だった。


 1年生の夏休みが終わった直後9月上旬の昼休みの事だった。お昼を一緒に食べた後、ゆうきが突然落書きされた教科書と壊れたシャープペンを取り出して主犯格2人の前まで行って言い放った言葉は今でも鮮明に覚えてる。


「これ、キミらだよね?」


 アタシはこの時点ではじめていじめがあった事を知った。あの時どう思ったかはあまり覚えてないけど、すぐに事態を察して、首謀者を探さなきゃって思ったのだけは覚えてる。

 でもこの場に翔太がいなくて良かった。多分いたら怒り狂って収集つかなくなっただろうから。


「何これ!?どういう事よゆうき!!」


「彩は気にしなくていいよ。全部ワタシが自分で片付ける」


 そう言ったゆうきの顔にはまったく表情がなかった。少し怖いくらいに。

 少し遅れて主犯格の片割れが口を出す。


「何の証拠があってあたし達がやったって言ってる訳?」


 とニヤニヤしていた辺り、この時点で犯人なのは間違いないと思った。


「筆跡なんてハッキリした証拠残しておいてとぼけるつもり?」


「そんなのいくらでも真似できるでしょ。濡れ衣よ」


 この子はばれない様にコソコソ動いてたからそれなりにずる賢いと思ってたけど、実際はなかなかおバカだった。


「そっかー、疑ってごめんね。生活指導の渡辺先生に相談したからその内犯人も見つかるよね」


 渡辺先生は、主犯格の片割れの父親だ。簡単に言うと犯人の父親にチクったって事。

 さすがにこれには二人も顔を青くし始めるが、ゆうきはさらに続ける。


「でもめんどくさがって動いてくれないかもしれないから、そうなったら先生との会話を証拠に校長先生とか教育委員会に直訴するしかないよね」


 そう言って小型の録音機を取り出して再生させた。確かに渡辺先生へ相談に行ったとわかる会話内容が再生されていく。

 もし教育委員会にこんな事実が伝わったら渡辺先生の立場そのものが危うくなる事はおバカな二人にも察しがついたようで顔色が真っ青になっていた。


「…ちょっと待ってよ」


 と片割れが言うのも聞かずゆうきはさらに追い討ちをかけていった。


「それでも動いてくれないようなら情報全部マスコミにでもリークしたらどーナルかな?」


 ここで清々しい笑顔を見せた。けど、逆にその笑顔があたしはすっごく怖かった

 主犯格の二人は泣きながら謝っていた。


「今回はもうこれ以上何もしないから、今後一切ワタシにはかかわらないでね」


 さっきの笑顔から一転、無表情で二人に告げるゆうき。


 この子にこんな怖い一面があるなんて幼馴染のアタシさえも知らなかった。ううん、あの一部のバカ達が追い詰めすぎて、そういう一面を引き出しちゃったといった方が正しいのかもしれない。




 あんなに優しくて人当たりも良くてちょっとシャイだけど可愛げのあったゆうきを、他人を寄せ付けず心も開けない少し影のある子に変えてしまったアイツ等の事は今でも許せない。学校生活を満足に送れないくらいまで追い詰めてやってもまだ足りない。

 でも、ゆうきはそれが出来るのにやらなかった。昔の優しい部分は残ってたんだと思う、多分。

 だから、ゆうきが望まない事をあたし達がやる訳にはいかなかった。



 この事件があってから、ゆうきは「怒らせると何するかわからない怖い子」ってイメージを持たれるようになった。


 "本当のゆうきはそんな子じゃない!!"


 そう思ってるのはあたし含めて小学校からの付き合いの友達数人だけになってしまって、一人歩きするイメージの拡散を止める事はできなかった。


 さらにそういう悪いイメージからいつの間にか付けられたあだ名が


"アイアンメイデン(鉄の処女)"


 中世ヨーロッパにあった聖母マリア像を型取った棺桶のような開閉式の箱の事を言うみたい。そこだけ聞くとそこまで悪いものには聞こえないけど、実際には中に棘が付いていて中に人を入れて拷問する為の器具らしい。

 マリア像のように無表情で相手を追い詰めていく様子から付けられたみたいだけど、あんまりだと思った。

 だから、そのあだ名を口にした相手にはやめてもらう様にお願い(脅迫)もしたりした。

 翔太に至っては聞いただけで激怒してた。最近はあたし達二人の前で言うヤツはほとんどいなくなったけど、たまに口を滑らせて翔太に注意という名目の粛清受けてるおバカも未だにいるかな。




 中学生の間は無理かもしれないけど、また昔のようなゆうきに戻ってほしい。その為にはあたし達はゆうきを守っていく、親友として出来る限りの事はしたい。それはあの事件の後、翔太と確認した。

 そういえば、今日のゆうきは最近のいつものゆうきじゃなかったけど、よくよく考えてみると小学生の頃までのゆうきに雰囲気が似てたかもしれない。



 そんな風につらつらと考えたり悩んだりしたけど、その日一日のモヤモヤはその日のうちにあっさり解消されることになるとは思わなかった。それも信じ切れないような、とんでもない話によって。

昨日のPVが急激に延びててビックリしてます。

それでも、BMが増えないという事はそういう評価なのだろうなと少し落ち込んでます。

誤字脱字や矛盾点、ダメ出し等マイナス点でも反応が欲しいという他の作者さんの気持ちがよくわかるようになった今日この頃です。

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