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隣ノ世界ノワタシ  作者: ヴィンディア


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番外編6 部活動

番外編は作者が思いつくまま書いてるので、時系列はバラバラです。

今回はまだ高校に入学したての頃のお話です。

 校庭、体育等の学校の施設からは運動部の生徒たちと顧問の教師による元気な声が聞こえてくる。


 部活での声出し文化と言えば、昭和時代の日本では当たり前のように罷り通った根性論からの派生という側面は強い。現代日本ではそんな根性論そのものは否定されつつあるものの、こと声出しという文化はしっかりと未だに残っている。急泰然とした教育現場に残る昭和の残り香だけの影響とは言い難いものの、未だにそういった過去の因習によるものである事も否定しがたい事実である。


 そんな中、寒さは完全になくなり、日中は暑さを感じるような4月半ばの季節となり、我々テニス部でもそれなり以上の熱を以って練習に励んでいる。


 東高の位置付けは、県内トップクラスの学力レベルを誇る公立校だが、夏から秋口にかけて実施されるインターハイ含む全国レベルの大会を目指して猛練習中である。


 一般的に特に運動部に力を入れているのは特待生を集めた名門私立校である事が多く、実際に全国クラスの強豪校という括りで見るのであればその傾向は一層強くなる。むしろ、ほぼ底に限定されると言っても過言ではない。


 しかし、極稀に学力的な意味での名門公立校でも全国レベルで戦う事が出来る運動部が出てくる事がある。競技に対しての熱量が非常に高く、更にはその競技への資質という意味でも高いレベルの生徒が集まり、更に顧問が熱心に面倒を見る事ができ、その顧問にも指導するだけの技量がある優れた指導者であった場合だ。ハッキリ言ってそんな条件が揃うのは奇跡のようなものだと個人的には思う。だって、普通は学力の高い高校を選ぶのは進学が目的であって、部活は趣味の範囲のはずだから。当然教師も進学させる事を目的で働いているわけであって、部活の顧問なんて余計な仕事なのだ。熱心に見ている教師の負担は計り知れないものがあるはずだ。


 では何故所謂進学校である東高で、そんな強豪校顔負けの激しい練習が行われているかと言えば…。


 理由は東高テニス部が奇跡的に生まれた公立進学校の強豪テニス部であるからに他ならない。


 たまたま優れた指導者の有した東高テニス部は、たまたま入学してきた文武両道で優秀な生徒を迎える事が出来た事で県内屈指の強豪に成り上がったのが数年前。


 そこからの動きは偶然ではなく必然。


 進学が第一であるものの、青春の一ページとしてしっかりとテニスにも取り組みたいという層は一定数いる。そういったモチベーションの高い生徒が公立進学校、場合によっては私立強豪校よりも集まるようになる。もちろん県内トップレベルの学力という非常に高いハードルがあり、世代によってレベルのバラつきがあるため常にとはいかないものの、安定して地方予選の上位に食い込むほどの実績を積み上げてきたわけだ。2年前はインターハイ出場を果たした選手がいた、というのだから大したものだと思う。


 「おらー!!最後まで追え!!!試合でもあの球諦めんのか!!!」


 「すみません!」


 大分体育会系のノリではあるが、高校の強豪校なんてこの時期はこんなもんだ。元の世界では教師やコーチによる指導という名の体罰は明るみに出てきて問題となっている事も多かったが、この時期はまだまだ発覚していても氷山の一角だったという面は否定できない。


 「おし、それじゃ男女ペアになってシングルス試合形式やるぞ。セカンドのみな」


 東高のテニス部は珍しい事に男女合同だ。体力や筋力の違いによるデメリットも大きいが、それ以上に同性同士による練習では得難いものもあるという顧問の見解の為だ。


 …女子部の顧問に男子部顧問が押し付けられた結果という話もあって、恐らくそちらが事実だろうが。


 「別々になんて見る余裕あるかっての」


 いつだったか聞いてしまった顧問のこのボヤキが真実を表していると思う。





 「ゆうき、やるか!」


 わたしの相手はいつも翔太だ。他にも強い先輩いるのに何故かわたしが常にロックオンされている。


 「えー、またぁ?」


 「いいだろ、別に」


 「翔太だとセカンドでも狙われ過ぎて拾えないからわたしの練習にならないんだけど?」


 そして、レベルが違い過ぎるから正直相手したくない。


 「いやいや、男子でもおまえでも大差ないから。相手してくれないと俺の相手してくれる奴いないんだ。頼むよ、な?」


 「…はいはい、分かったよ。その代わりサービスであんまりコース狙わないでよ」


 「よっしゃ、助かる!」


 いつものやり取りだ。翔太の奴、張り切り過ぎて男子でも取れないような速度とコースのセカンドサービス打つせいで、誰も相手をしたがらない。女子となれば尚更だ。


 結果論だが、この練習のおかげでわたしの動体視力や体の反応速度、コース読みの能力が磨かれて県内ではそこそこ勝てるようになっていくんだから、翔太には感謝すべきなのだろう。


 結果は二十ポイント中、十八ポイントを翔太に取られてしまった。取れた2ポイントも翔太が狙い過ぎてアウトした二ポイントだけ。筋力も走力も全く敵わないから、わたしがいくら際どいコースを攻めても、鼻歌交じりに返してきてチャンスメイクにすらならない。下手にサイドライン側へ浅いボールがいこうものなら、エグイ角度のついたクロスか逆クロスを打たれて万事休す、だ。


 …フォアのクロス、球足の速さもコントロールもそこそこ自信あるんだけどなぁ…。ほとんどの女子や、一部の男子相手ならそれなりに通用するものが翔太相手だと途端に凡打になる。ジュニアテニスの世界でバリバリやってたんだから、わたし程度じゃ相手にならないのは仕方ないんだけど。





 春になって、日が長くなってきたとは言っても午後も六時を過ぎれば薄暗くなってくる。


 ただの公立校のテニスコートにナイター設備などある訳もなく、球が見えなくなってきたタイミングで部活動は終了の時間を迎える。授業が終わる午後三時か四時くらいから二、三時間、夏場の長い時でも四時間程度が平日の練習時間となる。お金持ちの超強豪校ともなれば屋内コートがあって、もっと遅くまで練習するのかもしれないが、東高テニス部は日暮れと共に終了だ。


 「明日の朝練は七時から。出れる一年生は十五分早く来て準備よろしく。それじゃ、今日は解散!お疲れ!!」


 「「「「お疲れさまでした!」」」」


 部長の締めに部員が疲れた様子も見せずに返答して完全に終了する。


 「時間も時間だから気をつけて帰れよー。間違っても寄り道なんてすんなよ」


 「先生もお疲れー」


 顧問のいつも通りで少し気の抜けた注意が飛ぶと、近くにいた女子部員が友達にかけるようなノリで声を掛けている。


 一昔前の運動部だったら、こんなやり取りした時点で指導という名目の体罰か罵倒が待っていただろうが、バリバリの体育会系ではなく、上下関係も徹底されている訳ではない東高テニス部としては割と見かける光景だったりする。


 それにしてもこの顧問、本当によく働く。


 高校教師として現代文を担当している傍らでテニス部の顧問を引き受けている。本来の業務だけでも日次の授業にその準備。該当時期になれば定期考査の試験作成に、その後は採点、期末は更に評価付けのおまけ付き。さすがにクラス担任は持っていないが十分に忙しい筈だ。このまま帰宅できるわたし達と違って、これから残業して明日の授業の準備をするのだろう。そして、本来であれば体を休めるべき週末も部活の練習があればしっかりと出勤してくるのだ。ブラックもいいところな職場環境である。






 着替えも終わって各々帰路に付く頃、それとなく特に意味もなく翔太に会話を振る。


 「翔太、今日もこれからスクール?」


 そうなのだ。この体力バカ、普通に部活やってその後スクールでみっちり二、三時間練習をしているのだ。受験勉強の時も呆れた体力だと思っていたが、さすがにここまで来ると引く。


 「あ、いや今日は休み」


 ただ、今日は無いらしい。


 「珍しいね」


 「あぁ、コーチがたまには休ませろってさ。俺は練習したかったんだけどな…」


 コーチが音を上げた発言をしているが、実際は休まない翔太を休ませるための方便な気がする。昭和の時代のように根性だなんだと理由をつけてひたすら扱くのが効率的に良くないのは、現代のスポーツ科学で証明されている。適度な休みはアスリートにとっては必要なものだ。成長期である翔太は尚更である。それを翔太に言っても聞かないから、適当な理由をつけて休ませているのだと思う。


 「体を休めるのも大事!コーチの気遣いに感謝しなよ」


 「いやいや、俺は全然疲れてないぞ!」


 「ワーカホリックはみんなそう言うの!」


 「んじゃ、俺ワーカホリックじゃないから関係ないな」


 ダメだこりゃ。


 この無自覚バカを如何にオーバーワークさせないようにするか頭を痛めている事が容易に想像できるだけに、コーチの苦労が偲ばれる。


 「それはともかく、たまには軽くカロリー取ってくか?」


 「言い方!それとさっき寄り道するなって言われたばっかだよ?」


 翔太から珍しい提案が出る。勿論嫌では無いし、スクールばかりの翔太ともこういった高校生らしい事も出来ていないから、むしろこういった機会は貴重だし歓迎だ。それでも親しい友人特有の減らず口というか、揶揄い交じりの会話になるのがわたし達らしいと思う。


 「マジメか!今時、そんな事守ってる奴の方がレアだぞ」


 「まぁね。それじゃ、こういう機会もなかなか無いしたまには駅前で軽く食べてこうか。誰かさんはスクールばっかりであんまり相手してくれないし?」


 これは半分本音。チクりと刺しておく。とは言え、翔太の本当にやりたい事の邪魔するつもりはなく、たまには相手しろ、というわたしなりの要望を伝えているに過ぎない。


 「いや…まぁ…だからこうして誘ってるだろ?」


 冗談交じりのわたしの言葉でも本気で戸惑って口籠ってる翔太は、本当に根が優しい男なんだろう。


 「うん。でも彩とはほとんど接点なくなってるんじゃない?あっちはあっちで別の友達作って宜しくやってるから良いって言えば良いんだけど、翔太が最近そっけないってちょっと不満そうにしてたよ?」


 実際のところ、時間は有限であってどこに割り振るかはその人次第だ。それが翔太の場合テニスに寄る事で人付き合いの時間が少なくなっている、という事なのだろう。それ自体を否定する気はないし、わたしに否定する権利もない。それでも昔馴染みとの時間が少なくなって寂しく感じているのは彩も同じだという事、それを伝えたかっただけだ。


 「あぁ、うん。悪いとは思ってんだ。五月の連休でみんなでどっか行こうぜ」


 「伝えとく。…じゃなくて、自分で言いなよ。全然喋ってないでしょ。良い機会だよ」


 「それもそうか。明日にでも探して伝えとくわ」






 特段目立ったことのない平日、そんな一日の何気ない出来事。


 入学間もないが、入学直後の浮ついた空気は落ち着きをみせ、少しづつ学校生活に馴染み始めた時期。


 明日は何があるかな、何ができるかな。


 期待や希望は尽きない。


 わたしの二度目の青春はまだまだこれからだ。

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