第2話 彩の一大決心
突然翔太からメッセージが入ってきた。
”悠樹の伯母さんが亡くなったらしい。お通夜は明日夕方5時からで葬儀は明後日朝10時から。アイツもかなり落ち込んでた様子だから、彩もどっちか行ってやって欲しい”
悠樹ねぇ…。
高校時代、いつの間にか彼女を作ってその頃から急に避けられるようになってからのアイツは碌に会話もさせてくれなかった。
(いい機会だから押しかけて強引にでも連絡先交換してやろうかしら)
そんな事を考えて、お通夜には弔問に行った。
翔太からは写真なんかは送られてきてたけど、直接顔見るのなんて高校卒業以来だから約7年ぶりくらいか。
高校2年の時、アイツに彼女ができたって知ってあたしの初恋が終わったと気付いた。でも、せめて昔の関係に戻れたら、そう思って気持ちも整理したつもりだったし、何度も話しかけたりアイツの彼女と翔太も一緒に遊びに行けたらと思ってセッティングしてもホント素っ気なかった。
悲しかったし、どうして幼馴染に対してこんな冷たい仕打ちができるのかアイツの気持ちも理解できなかった。
翔太からは
『アイツにも今は少し時間が必要なんだ。だから少し待ってやってくれ』
なんて言われたけど、何も変わらないまま8年!そろそろ我慢の限界だった。
(そもそも、どうして彼女ができて高校生活謳歌してるリア充に時間が必要なの!?10年越しの初恋散らせたアタシの方が時間必要なんだけど!)
なんて、当時は思ってたけど必死すぎて引かれるのも仕方なかったかもしれない。そんな事考えてる今でもアイツの事割り切れたかって言うと、相変わらず引きずってると思う。今アイツ彼女いないらしいからチャンスなんじゃないかって思っちゃうくらいには。
ハッキリ想いを伝えて振られた訳じゃないから、もしかしたらっていう未練が残っちゃってるのかな。それもそろそろハッキリさせたい!
7年ぶりに見たアイツの顔は悲しみでいっぱいだった。目は真っ赤だし、表情は今にも泣きそうだった。あれで本人は多分「オレは冷静だよ」なんて言うのだ。無理してるのが見え見えでこっちの方が苦しくなってきてしまう。でも、相変わらずで少し安心した。
それから最初あたしを見た時のアイツの顔は傑作だった。「なんでお前がここにいるの?」って表情で目を真ん丸にして口をポカーンと開けて顔は本当にマヌケだった。折角のイケメンが台無し。
でも、そんな前と変わらないアイツを見てると懐かしいだけじゃない、胸を締め付けるような気持ちになる。もう8年も経つのに女々しいのだろう。女だからいいかとも思うが、それはそれで少しカッコ悪い。
お焼香あげた後、アイツが来るまでお清めの場所でじっと待つ。周り知らない人ばっかりだから居心地悪いけど翔太と一緒に来たんじゃ多分もう一つの目的も果たせないから仕方ない。
30分くらい待ったかな、やっとアイツが入ってきた。おじさん、おばさんと3人で入ってきて、あたしに気付いてからおばさんと二言三言言葉を交わしてからあたしの所に来てくれた。逃げてばっかりの高校時代より成長したという事かな。
「彩、来てくれてありがとう。連絡もしてなかったのに、来てくれたからビックリしたよ」
「まったく、何の音沙汰も無いなんて可愛い幼馴染に対してあんまりよね。今回のことも翔太が教えてくれなかったら知らないままだったわ」
ちょっとわざとらしく責めるような言い方をすると、心底焦って困ったような表情をする。こんな所もホントに変わらない。少し泣きそうになっちゃう。
「あ、いや、それは……本当にゴメン…」
「ま、いいわ。今度じっくり聞かせてもらうから!」
「今度…?」
「そ。だから連絡先教えないさいよ!」
悠樹は渋々といった感じで連絡先の交換には応じてくれたけど、避けられてる感じでさえもあの時のままで寂しさを感じる。
「さて、今日は悠樹とも話せたし、今日の所はお暇するわ」
「そっか。今日は本当にありがとね」
「あたしが帰ったらたっぷり泣いていいんだからね?」
「泣かないから!」
「強がっちゃって。さっき目真っ赤にしてたクセに。目の周りもパンパンでバレバレよ?それじゃね」
そう言って、返事も聞かないでその場を後にした。
ホントはもっと喋っていたかった。高校時代より少し険の取れたアイツと話してると想いまでその当時のものが溢れ出して来て私の方が我慢できそうになかった。
だから最初の予定通り、素っ気ないフリして帰ってきた。
そして、その次の日の深夜、意を決してこの為だけに交換した連絡先を使って1件の簡素なメッセージを送った。昔どうしても言えなかった言葉を。その結果がどんなものでも後悔はしない。
もう何もしないで後悔はしたくないから…。
”あなたの事が好きでした。出会った時からずっと。そして今も”