番外編4 高校生活の一コマ
本編であまり描写の無かった、学校での日常回です。
年度が変わって、わたし達も二年になった。
高校の二年も二回目だけど、高2って言うと高校生活で一番華やいだ時期だ……と思う。
入学直後のドタバタした感じも無くなるし、受験前っていうピリピリした雰囲気もない、一番高校生活を謳歌できる時期……のはず。
…なんだけど歯切れが悪いのは、一回目がイマイチだったから。
男の時は部活ばっかりやってたし、女の子と楽しくお出かけなんて大人数でとかならゼロではないけど、それすらほとんど無かった。そして何より、苦い思い出のイメージが強すぎるんだよね。自分の甲斐性が無いのが原因なんだけど、フラれる事なく横から掻っ攫われて初恋終了とか、今思い出しても泣きそうになってくる。
それでも、幸か不幸か二回目の機会を与えられたわたしは今日も真面目に授業に臨むのです。
「…であるからして、イギリスで発生した産業革命は~~~~」
開いた窓から、この時期特有の少し冷たさを含むも心地よい風が入り込んでくる。朝晩は少しひんやりするものの、日中は心地よい陽気でお日様が出ている日はとても気持ちが良い時期だ。
それに加えて、午後一発目の5時限目ともなれば右斜め前の席に座るバカのようにフネを漕いでしまうのも仕方が無いというものだ。そう言うわたしも、今はなんとか瞼を持ち上げているけど、気を抜くとあっさりと落ちてしまいそう。要点をノートにメモる事で辛うじて起きているのが精一杯だ。
数学とか物理とか理系科目は男の時は苦手で文系に逃げていたけど、今回は理系への進学希望だから以前のように逃げるわけにもいかない。だから授業にも必死に食らいついていかなきゃだから眠くなる暇なんてない。
だけど、現国や古文なんかの国語系はともかく、歴史はダメだ。
隠れたエピソードなんかを面白おかしく挟んでくれる教師はともかく、淡々と事実のみを列挙するだけの授業は苦痛以外の何物でもない。それに加えて、新米男性教師のたどたどしい説明にローボイス。寝てないわたしは結構偉いと思うんだ…。周囲を見るとチラホラ寝てるし…。
特に歴史、地理とかの社会系科目は基本的には記憶力勝負で、公立高校の授業レベルだと難関大学の受験にはほとんど役に立つ事はない。勿論基礎としては持っていなきゃいけないレベルではあるんだけど、そんな程度なら前回の高校生活で既に習得済。さすがにブランクがあるからすぐにとはいかないけど、少し勉強すればそれなりの受験レベルには持っていく自信があるわたしには尚の事、気が入らない。
そうは言っても、定期試験があって、そこでそれなりの成績を収めないと長期休みに補講が入るし、最悪の場合は進級できない。
そして、斜め前でコックリコックリしている奴の面倒を最後に見させられるのはわたしだ。このまま黙って見てるわけにはいかないから、わたしの隣、バカの後ろの席の男子生徒の肩をチョンチョンと叩き前を指差す。すると、すぐに察してくれた彼は少し悪い笑みを浮かべると、手に持っていたシャープペンの頭をバカの背筋に上から下につーっと這わせた。
「ひぅっ!」と小さく声を出して、ビクリと体を震わせた翔太は、後ろを見て、次にその男子生徒が指差していたわたしの方を向いた。
「おはよう」
口の動きだけでそう言いつつ、ニッコリ笑ってやった。
翔太は少し恨めしそうな表情を見せつつも、居眠りしていた事自体は悪いと思っているのか特に何か言う事もなく前を向いて再び真面目に授業を受け始めた。
気付いていないのか、気付いていて敢えて無視ししていたのかはわからないけど、幸いにも教師に注意されることもなく、その後も授業は淡々と進んでいった。
◇◇◇◇
いくら苦痛で長く感じるとは言っても、終わりは来る。
「今日はこれで終わります」
チャイムの音を聞いて締めに入った世界史教師がそう言って号令がかると授業が終わった。
なんとか眠気の誘惑に抗いきったわたしも「ふぅ」と一息つく。
「ゆうきぃ…もう少しマシな起こし方してくれよ~」
あるだろうなとは思っていたけど、案の定翔太が文句を言いに来た。
「授業中寝ている方が悪い!それに、起こし方まで指定してないよ?」
そう、わたしは起こしてくれるようお願いはしているものの、その方法を指定した事はない。隣の男子生徒が面白がってしている事だから、わたしに文句を言うのは筋違い。
「黒沢!またおまえか!!」
「授業中寝ている方が悪い!それに、俺は頼まれただけだぞ?」
黒沢という男子生徒は、そこそこ翔太と仲が良く、この手の悪乗りが大好きなのだろう。わたしが起こすようにお願いすると、絶対に普通には起こさない。ある時は脇をくすぐり、またある時は耳に空気を送り込む等、悪戯と思われるような起こし方しかしない。
…まぁ、どんな起こされ方をしようとも、寝ている方が悪いのは変わらないのだが。
「はぁ、まぁいいけどさ。次は普通に頼むよ」
「いや、だから寝るなよ」
「いやいや、そもそも寝ないでよ」
わたしと男子生徒の言葉がハモった。本気で寝ないで欲しい。フォローするこっちの身にもなって欲しいものだ。翔太も本気で言っているわけではなくて、いつものじゃれあいというやつだ。
その後も短い休み時間を目いっぱい使ってわちゃわちゃとくだらないお喋りを続けて、今日最後の六時限目の授業も受けて、放課後になって部活にも精を出して、今日の高校生活が終わる。
幼馴染達とも関係は良好で、それ以外の友人達ともそれなりの交流を持てている。二年になったから部活の可愛い後輩もできてさらに交流は広がって、交友関係は間違いなく前回よりも良くなった。それに加えて、明確な将来の目標があってそれに向かって努力して、確実に結果が目に見えて出てきている。
さすがにまだ彼氏、彼女というのはわたしにはハードルが高いけど、今凄く充実してる。
こういうのを幸せって言うのかもね。




