第18話 未来の形
新学期に入り、何か変わる事があるわけでもないが気分一新となる10月になった。自分の誕生日の月ということもあるかもしれないが、オレはこの時期が一番好きだ。それまで厳しかった暑さもなくなり過しやすいだけでなく、食べ物も美味しい時期だ。そして何より、バイクでツーリングするには最高の時期で、元の世界にいた頃は10月といえばツーリングの時期だった。
しかし今はそれだけでなく決断のリミットが間近に迫っている事も意味している。
結論は今も出ていない。とはいえ、結論を自ら出さない場合は漏れなくこのままだ。自分の人生が大きく変わる選択であることは間違いなく、簡単に答えを出す事はできずにこんな時期まで引っ張ってしまった。
そういった理由でなのかはわからないが、最近は頻繁に夢を見る。起きる前の少しの時間のようで寝不足が深刻になるものではなかったが、ここまで続くと何かあるのかと勘繰ってしまう。
この日も見た事があるような、ないようなそんな場面が夢によって生成される。
どこかの学校だろうか、少なくとも通っている中学校でも元の世界の高校でもない見覚えのない廊下を歩いて、とある掲示板の前で立ち止まる。
その掲示板には"3年生中間試験結果"と書かれた縦に長い紙が貼ってあり、その一番上という定位置に見慣れた名前を見つける。さらに視線を下ろしていくと5番目のところで"桜井ゆうき"と書かれた自分の名前を見つける。
『ゆうきっ!』
呼ばれた方を見ると、今より少し大人びた姿の彩を見つける。
『ちょっと順位上がったじゃない。これなら国立大の医学部も余裕ね』
オレが今まで見ていた順位表を見ながら声をかけてくる。着ている制服は東高のものだった記憶がある。さすがに私立のような可愛い制服は期待できないものの、元が良い彩が着ると地味な公立高校の制服も可愛く見える。
『常時一位の人に言われてもなぁ』
『褒め言葉をどうして素直に受け取れないのよ!』
天邪鬼なオレの発言にも、いたずらっぽい笑顔で返す彩に怒り等の負の感情は見えない。
これで体が男だったら最高だったなぁ、と自分の穿いている少し短めの丈の今風なスカートを見ながら思う。
『ホントはちょっと嬉しい』
『うん、知ってた。それにしても翔太、中学3年の時はあんなに頑張ったのに高校入ってからまったく勉強しなくなったわね』
その言葉の通り、翔太は貼り出された上位100人には入っていなかった。そうは言っても地域のエリート候補が集まる東高に入るだけでかなりの学力なわけで、その中で上位100人ともなると超有名大学を目指せるレベルのはずだ。入るのも怪しかった翔太にそのレベルは酷というものだ。
『翔太は同じ学校行きたかっただけだし、入れたら落第しなきゃOKくらい思ってるよ』
『そうね、赤点取るわけじゃないし問題はないのよね…さて、そろそろ教室もどろ?』
踵を返して歩き出そうとしたところで、目の前が白に塗り潰されていく。
妙にリアルな夢だったなと、まだ重い瞼を上げて部屋の壁に掛けられた制服を見る。中学校のもので、やはりただの夢だったようだ。
今目指しているものが実現したかのような、本当に居心地の良い正に『夢』だった。このまま頑張っていけば現実になるかもしれない光景に大きな魅力を感じるのだった。
また今日もここ最近の例に漏れず、妙にリアルな夢の光景が映し出される。
とある部屋の中に立っていた。ふと、腕に重さを感じて胸元を見るとピンク色の産着を着た生後数ヶ月も経っていないような小さな赤ん坊を抱いていた。
赤ん坊は気持ちよさそうにぐっすりと眠っているようだった。ぽっちゃりした顔にうっすらピンクの頬っぺたは柔らかそうでつい指で突きたくなるが、生憎と抱くのに両手が塞がっていて叶わなかった。
そんな様子の赤ん坊を溶けるような甘い顔をした老人男性が覗き込む。
『ほらほら、唯ちゃん、おじいちゃんだぞ~』
『お父さん、気持ちよさそうに寝てるんだから起こす様な事しないの。下手に起こしちゃうと大変なんだから』
そう男性に注意したのは元の世界にいた頃の歳くらいの母親だった。そして、母親がお父さんと呼ぶオレの腕の中の赤ん坊にデレデレの男性は、やはり父親だった。さらに言うと父親が自分のことをおじいちゃんと呼ぶという事は、腕の中の赤ん坊はオレか弟の楓の子どもなのだろう。ピンクの産着に"唯"と呼ばれている事から女の子だろうか。
驚くべき事にオレも女だった。つまりはこの子はオレがおなかを痛めて産んだ子の可能性があるということだ。妙にリアルな夢だが現実感はない。
(夢、だよね…?)
少し疑ってしまう。
『ねねね、ゆうちゃん、おばさんにも唯ちゃん抱っこさせて!』
そう言ってきたのは、元の世界では亡くなった伯母だった。色々な思いが溢れて泣きそうだったが不思議と涙は流れなかった。
(あなたの孫みたいなものなので、是非抱いてあげて)
そんな思いで赤ん坊を丁寧に伯母に渡す。そっと渡したにもかかわらず、ぱちっと目を開ける。しかし、泣く事もなくじっと伯母の目を見つめている。
『あらぁ、ゆうちゃんが赤ちゃんの頃そっくりね!この子も将来美人になるわよ~』
そう言って朗らかに笑う伯母に『ありがとう』と声をかける。伯母の腕の中の赤ん坊は何が楽しいのか笑顔で右腕をバタバタさせている。
『ぁーぅ~?』
『一也も由紀も結婚してるけど、なかなか孫の顔見せてくれないからこの子が初孫みたいになっちゃったわよ』
そういえば、いとこの二人は結婚こそいしていたものの子どもはまだだった。それを考えると元の世界の伯母は孫の顔を見ることなく逝ってしまったのだ。
元の世界では既に亡くなっているが、こちらの世界では長生きしてくれるだろうか。長生きしてもらってもっと孝行したい。そんな思いが強くなる。
そんな事を考えているとリミットが迫ってきたようだ。遠くから目覚まし時計の電子音が聞こえてくる。
また、この夢だ。妙にリアルな夢。これで3日連続になるか。
たくさんのテーブルにたくさんの人が見える。奥の方には両親や弟、いとこの顔がある。そして一席だけ人はおらず代わりに1枚の写真立てが置いてある。手前の席には翔太をはじめとした懐かしい友人たちや元の世界の仕事の上司や同僚が並ぶ。
隣に目をやると別人かと疑うほど表情を甘くとろけさせた笑顔を浮かべてこちらを見つめる彩がいた。見た事のない彩の姿に、こんな表情もできるのかと新しい発見だった。そして、そんな表情をした彩がたまらなく愛しく感じる。他の人から見たら、オレの顔もだらしなく緩みきっていることだろう。
青のドレスで着飾った姿は、いつもの凛とした表情の彩とはマッチするのだが、見た事のないような甘い表情でいると少し違和感を感じてしまう。しかし客観的に見るとスマートな体系に凛々しい顔立ちの彩にはよく似合っているのだろう。
『あなたとこうしてるのが夢みたい』
ある程度状況から予測はしていたが、今の自分の装いは白のタキシードだった。『夢だよ』という言葉が出掛かるが、寸でのところで止める。そして少しの間見つめ合う形になる。
『あんまり人前でいちゃいちゃするな!…って言いたいとこだけど今日は大目に見てやるよ』
『バカ翔太!いちゃいちゃなんてしてないじゃない!』
『気付いてないのか?二人で甘い雰囲気だして振りまいてたんだぞ。なぁ?』
そう周りの友人達に振ると、全員が一様に首を縦に振る。それを聞いた彩は首まで真っ赤にして黙り込んでしまう。
『そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに~。彩ちゃんカワイイ』
『もうやめてぇ…』
彩の友人らしき女性に止めを刺されて、悶絶する彩。
『まぁまぁ、そこまでにしといてよ。彩ほどじゃないけどオレも恥ずかしいから』
いつもの彩と違うのが本当に楽しいのだろうが、からかわれる方はたまらない。主役なのに逃げ出しそうな雰囲気だ。
『まったく、高校時代男女の人気ナンバー1同士で両想いなのにくっ付かなかったんだから周りはヤキモキしてたんだぞ。そのお返しだ』
翔太はそう言うが、人気ナンバー1だった記憶も両想いだった記憶もない。しかしそれをここで指摘するのも野暮か。
彩のことは高校時代にスッパリ想いを断ち切ったつもりだったが、こうして見ると完全に気持ちがなくなったわけではなかった事に気付かされる。諦めてはいたが自分のものになるなら手に入れたい。そんな気持ちがどこかにあったのかもしれない。
もし男のままなら、可能性は低くともあり得た未来。今からでも望めば男に戻れるかもしれないという気持ちはある。しかし、それが最善なのかはわからない。
いい加減気持ちを決めなければいけないなぁと考えていたところで意識が覚醒しつつある事を感じると同時に幸せな光景はフッと消えていった。
何日続くのか、また違った場面を見る。
川原だろうか、周りにはチラホラとバーベキューや釣りをしている人等が見られる。
オレは大きな石の上に座って、麦藁帽子をかぶった二人の子どもが釣竿を出しているのを見つめている。背の小さい方は男の子で4歳くらいだろうか。少し背の高い方が女の子で7歳くらいに見える。
しばらくの間二人を見つめていると、男の子の出している竿が撓る。魚がかかったようだ。
『パパー、きたぁ!』
男の子の方が叫ぶ。自分一人で上げる気はさらさら無いようで父親に助けを求めている。
『ちょっと待ってなよ』
そう声をかけて、男の子の背中側に回って一緒に竿を上げてやる。大して大きな魚でもなかったようで、針をはずそうとあちこちに動き回る感触を竿越しに感じつつも容易に釣り上げる事に成功する。
『釣れたぁ!』
嬉しそうに魚を持ち上げて満面の笑顔を浮かべる男の子。『やったな』と声をかけてやると『うん!』と元気よく頷く男の子を見ると心が暖かくなってくる。
『れおばっかりズルイ!あたしも釣りたい!』
『お姉ちゃんヘタっぴ~』
釣れない女の子をからかう弟の言葉に女の子はムキになる。
『あたしだっていっぱい釣るんだから!』
そんな女の子の表情は小さい頃の強気な彩の表情に、男の子の方はおっとりしたオレのそれを思わせた。
やれやれと思いながら、今度は女の子の後ろからフォローをする。
竿を上げてみると既に餌が無い。魚が食いついて浮きが沈んだタイミングを逃して逃げられてしまったのだろう。
再び餌をつけて川に糸を垂らす。
『唯、いい?あの黄色の浮きが沈んだら竿を上げるんだよ』
『わかった!』
そう元気よく返事をして待つ事しばらく、浮きがコンコンと小刻みに浮き沈みを繰り返し始めた。
『よし、あの浮きがぐーっと潜ったら上げるんだよ』
『わかった!』
やがて、本格的に釣り針が魚の口に引っ掛かり浮きが大きく沈みこむ。
『それ上げろ上げろ!』
女の子と一緒に竿を上げてやる。今回の魚は先ほどより大きいのか竿のしなりが先ほどより大きい。それでもさほど苦労することなく魚が上がってきた。やはり先ほど男の子が釣り上げたそれより二回りほど大きかった。
『やったぁ!れおのよりおっきい!』
満面の笑顔を浮かべるその表情は、先ほどの男の子のそれとよく似ていて姉弟だなと思わされる。『よかったな』と声をかけると弟と同じように『うん!』と嬉しそうに返事をするところまで同じだ。
女の子は男の子に向かって『どうだ!』と言わんばかりのしたり顔を向けると、今度は男の子の方がムキになる。
『おれはもっと大きいの釣るんだから!』
また二人して釣り糸を垂らし始めた姉弟を穏やかな気持ちで見守る。そんなオレに後ろから声がかかる。
『あんまりたくさん釣っても食べきれないわよ』
『その時はまた翔太ん家にでもお裾分けすればいいよ』
『あんまり多いと嫌がられるわよ』
『あの二人じゃそこまで釣れないよ』
注意するような口調のわりに穏やかな表情の彩。歳と共に険が取れてきたのだろうか、昔のキリっとした凛々しい雰囲気は鳴りを潜めて優しい母親といった風情だ。
『あの時、勇気を出してあなたに会いに行ってよかった』
彩が唐突にそんな事を口にするが思い当たる節が無い。そもそもこうなる過程を知らない夢なのだから、理屈を求めるのは間違っているかもしれないが腑に落ちない一言だった。
『それって、どういう…』
そこまで言いかけたところで遠くから電子音が聞こえてくる。夢っていいところを前に終わるのはなんでだろうと思いながらも徐々に意識を現実世界に戻していくのだった。
土日で急激にPVが増えてビックリしてます。
それなりにBMのある作者さんからすると誤差の範囲にも入らない程度で鼻で笑われるレベルですが…。
私自身読む作品を選ぶ基準で
・完結させた実績のある作者さんか
・続きそうな作品か
・更新頻度が間が開きすぎない程度か
といった箇所は結構重視します。
読み手として続きを楽しみにしている作品がエタることほど悲しいものはありませんよね。
なので、私の場合初回投稿が新しい作品は最低でも10話程度投稿されていて且つ週一くらいの更新頻度がないと読みません。
そんな事も考えると、この私の作品も20話近くまで毎日更新されてるので読んでくれる方が増えたのかな、と予想してますが実際皆さんどうされてるんでしょうね…。




