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隣ノ世界ノワタシ  作者: ヴィンディア


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18/30

第17話 告白

 勉強会を翔太の部屋で開く予定だった日、その前の1時間の時間を空けてもらった。もちろん、オレの中身が元のユウキではないことを説明するためだ。

 完全ではないものの、二人っきりで会っても以前のようにぎこちなくはならなくはなった。しかし、今でもやはり少し態度が固いのは昨日の今日だけに仕方ない事なのだろうか。


「ゆうきから話があるなんて珍しいな」


「今まで散々逃げてたクセによく言うよ」


 まともに話すらさせてくれなかった事をチクリと刺す。


「う、ソレハ…ごめん」


「ま、いいよ。わたしも経験あるし」


 もちろんここで言う経験は元の世界での経験だ。今日はすべて話すつもりだからその辺を匂わせても問題ない。

 翔太は「あるの?」とでも言いたげな驚いた表情をしている。


「何から話そうか」


「うん?」


 何のことか思い当たる節もなく何の話かまったくわからず、どう反応すればいいのかわからないのかもしれない。。むしろわかる方がどうかしている。


「わたし、いや…オレゆうきじゃないんだ」


「はぁ?」


「オレの本当の名前は桜井悠樹。平仮名じゃなくて悠久の悠に樹木の樹で悠樹(ゆうき)。性別は男。歳は25」


「頭おかしくなったか?」


「最後まで聞いてよ」


「お、おう?」


「どうやら、こっちのゆうきと入れ替わったみたいなんだ。去年の10月末」


 去年の10月末と聞いてハッとした表情をする翔太。彩などすぐに気付いたくらいだ、翔太も思い当たる事があっても不思議はない。


「なにか思い当たる事があるみたいだね」


「なんか変だなと思ったのがその辺だったからな」


「やっぱり気付いてたんだ。彩には初めて登校した日に気付かれたよ」


 まだ信じられないという顔だ。


「俺は小学校の時のゆうきに戻ったものと思ってた…」


 普通中身が変わってるなんて思わないだろうし、翔太の発想は真っ当なものだと思う。しかし、大きな切欠があって変わってしまった性格が、大した切欠もなく元に戻るなんて考え方も楽天的過ぎると思うところもある。


「聞いた話だけど結構強烈ないじめだったみたいだし、そう簡単に戻るものでもないよ」


 そうは言っても、それ以上に入れ替わりの方が非現実的で信じ難い話だろう。翔太の考え方がおかしいわけではない。


「とりあえず、それで話を受け入れたとして続きを聞かせてくれ」


 それから、入れ替わりが発生した日からこれまでの事をできるだけ詳細に説明した。

 どう周囲に対して反応すればいいかわからなかったが両親には真っ先に説明した事。家の外でも事情をわかって協力してくれる人が欲しくて彩にも登校したその日に説明して相談した事。翔太にも助けを求めたかったが取り付く島もなかった事。彩に相談して一人称以外は元のオレの素で行くようにした事。入れ替わった後、元のユウキと会った事。元の世界の親友たちの事等。

 しかし驚いた事に元のユウキが性同一性障害を疑われている事は知っていた。どうやら本人からそれらしき事を告白されたようだ。


「正直、今も信じられない気持ちが強いけど、お前の両親と彩が信じてるなら俺も信じる事にするわ」


「どの辺がまだ信じられない?」


「入れ替わりなんて話自体が突拍子もない事だけど、お前の性格も昔のゆうきそのままだしな。中身変わってますなんて余計信じられん」


「そっか。オレとゆうきって性別と人生の展開が違うくらいで元は同じ様な性格みたいだから、同じ事を彩にも父さんと母さんにも言われたよ」


「てかさ、その顔と声で『オレ』って言うのそろそろやめない?違和感が半端ない」


「同感だね。説明するためにあえて変えてただけだから」


 1年近くも一人称を変えていたからだろうか、言葉にして「オレ」というのが逆に少し恥ずかしいくらいになってきていた。

 よくよく考えてみると、女の姿だからだろうか男のような振る舞いに対して気恥ずかしさを感じるようになってきたのも事実だ。例えば足を開いて座る事。下着が見えてなくても、そういう格好をしている事自体が恥ずかしい。例えば下着の線が浮くような服装。男の場合は気にする必要がないと言うべきかもしれないが、女になってからはその辺は敏感になった。

 そこまで考えたところで、男から女に内面から変わってきているのではないかという事に恐怖した。


「なんか俺まずい事言ったか?」


 そんな感情が表に出ていたのか、翔太が心配そうに顔を覗き込む。


「うん?なんでもないよ」


 自分で強がりだと理解しながらも強がる。そして変わりつつある事を認めるのも良しとはしなかった。認めてしまえば一気に変わってしまいそうだったから。今はまだ男としての意識を保っていたかったから。


「なんでもない顔じゃないけどな」


「気になってても気になっていないフリをしてくれると嬉しい」


 精神まで女に変わりつつある事に悩んでるなんて男としてのプライドが邪魔して言えない。しかし、その邪魔するものがなくなった時は、完全に変わってしまった証拠となるのだろう。そして完全に変わってしまえば悩むこともない。だから、結論を話す事はあっても過程を相談する事は絶対にありえない。


「お前もいろいろあるんだな」


「うん。だから触れないで」


「わかった」


 このままいくと、いつかは男性を異性として好きになる日がくるかもしれない。今はまだ嫌悪感が強いが、改めて考えると入れ替わった直後に比べて遥かにそれは薄れてきた事も感じている。それとは逆に女性に対して異性という認識も薄れてきた。体が女なのだから、同じ女性を異性と捉えるのは精神的に疲れるところもある。温泉や銭湯などの共同浴場やトイレ、更衣室等はその最たる例だ。

 女性の肌を見て何も感じない事はないが、以前のような内側から湧き上がってくるものを感じることは少なくなった。逆に同姓として羨ましかったり、優越感を持ったりする事もあったかもしれない。

 考えれば考えるほど思考が暗い方向へ落ちていく。

時間にして数秒だったか、数分だったか、数十分だったか時間の感覚が無くなっていたところに再び翔太から声がかかった。


「なんか落ち込んでるところ悪いんだけど、俺からも一ついいか?」


「う、うん」


 さすがに話があるからと時間を取らせて、一方的に話した後勝手に落ち込むのは失礼すぎたかと反省して話を聞く体制を整える。


「実は俺……ゆうきの事好きだったんだ」


「…………は?」


 友達として好きというやつだろうか。それであればこんなところでわざわざ口に出す必要はない。という事は…。


「女の子として…入れ替わる前のゆうきが好きだったんだ」


 とんでもない衝撃ではあるが、やっぱりそうだったかと納得する部分もある。

 こちらの世界に来たばかりの頃の翔太のオレに対する態度には覚えがあった。中学時代にオレが彩に対して取ってきたものとまったく一緒だった。親友がオレに対してそんな感情を持つはずがないと強引に否定してきたが、冷静に考えるとこれ以上ない状況証拠だったわけだ。


「なんとなくそうなんじゃないかってわかってた。ちなみにわたしは?」


「良くも悪くも悪友だな」


 今では想い人になっていなかった事に9割の安堵と、親友と言ってくれなかった事に1割の落胆を覚える。


(こっちでは元の世界ほど付き合い深くなかったからなぁ)


 とは思うものの、親友と言って欲しかったとも思ってしまうのは贅沢だろうか。


「それで最近態度が普通になってきたんだ」


「そういうこと。前みたいに変に緊張しなくなったからな。今のお前、小学校の時の友達って思えた頃のゆうきそのままだしな」


「それはわたしが子どもっぽいって事?」


 だとしたら心外だ。徹底的に抗議してやる。


「いやいや、そういう事じゃなくて!」


「それじゃ、どういう事?」


「女なんだけど女っぽくなくて、それでも男っぽくもなくて…あああ!なんて言やいいんだ!」


「中性的って言いたいの?」


「そうソレ!」


 男の時でも同じような事を言われたこともあり、オレ自身の本質が中性的なのかもしれない。昔から男らしくとかそういった類の意識はあまり持った記憶がない。


「それが小学校5年の後半くらいだったかな、急に女っぽくなってきたんだよな」


 女の子なら第二次性徴期に入る頃だ。それまで男と大差なかった体形が明らかに男とは違った成長を見せる時期で、男女がそれぞれ一時的に壁を作る時期でもある。元の世界ではオレと翔太が彩とギクシャクし始めたのもこの時期だった。それを考えると同じようなものだったのだろう。


「その後、ちゃんと話した?」


「多分してない…」


 そうだろうと思った。彩も二人でいる時はいじめがあった前後で変わらなかったと言っていたし、その時のゆうきと今のオレを比べてもとよく似ていると言っていた。つまり女性らしさを増す容姿に騙されて勝手に元のユウキに幻想を抱いていたのだろう。

 そんなところまで同じな昔のオレと今の翔太だが、決定的に違う箇所がある。既に元のユウキに間接的とは言えフラれている事だ。


「やれやれ…でもちょっと同情するよ」


「ん?なんでだ?」


「だって、直接じゃないけどフラれてるようなもんでしょ?」


「まぁ、元のゆうきが戻ってこなければそうなるか」


 鈍い。恐ろしく鈍い。さすがに気付いていなかったとは思わなかったが、この場合指摘していいのだろうか。さすがにこの場でオレが止めを刺すのは気が引ける。


「あれ?なんか違ったか?」


 オレが微妙な表情をしていたのを見て、何か違うと感づいてしまったようだ。そうなれば変にごまかすより事実を指摘してあげるべきか。


「うん…相手からハッキリ女の子が好きだって言われたんでしょ?という事はさ…」


 皆まで言わせるなとばかりに言葉を濁したところでやっと気が付いたのか、ハッとした表情をしたあと徐々に状況を理解したのか表情が曇っていく。


「あー…そうだよなぁ…普通に考えればわかることなのにな…」


「なんかゴメン」


「いや、むしろ気付かせてくれてありがとな」


 雰囲気が重苦しくなる。「他に良い相手が見つかるよ」なんて思っていても根拠の無い無責任な慰めはできない。既に元の世界とは未来がかなり変わっていそうだが、こちらでも翔太が元の世界と同じような良いパートナーにめぐり合える事を願うしかない。


 一通りの告白がお互いできたところで彩も合流していつもの勉強会をしたが、意外にも空気の読めない、いや、むしろ読んでいたからこそかもしれないが、一人明るく振舞っていた。翔太はフラれていたという事実によるショックから抜け出せず、心ここにあらずといった様子で、その日は折角の勉強も実にはならなかったかもしれない。そういうオレ自身も自分の心の変化に少なからずショックを受けていて、そんな雰囲気に拍車をかけていた。

 またひとつオレ達の関係にも変化があって、それでも前に進んでいく。そんな事を切実に感じる一日だった。

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