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隣ノ世界ノワタシ  作者: ヴィンディア


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第9話 変わっていく日常

 中学に通い始めてから3日が経った。

 交友関係は一通り彩から聞いていた事もあって支障をきたすことはなかった。その他の同級生に関しては、なんとなくオレの雰囲気が変わった事は薄々感じつつも、それまでの状態が状態だったがために外から様子を見ているといった感触だ。

 元の世界でも中学時代はそこまで交友関係広くはなかったし、極一部とばかりくっついていた事もあって特に寂しさは感じない。昔も今も本当に仲の良い友人とだけ良い関係が築けていればそれで良いといった考え方も変わっていない。

 しかし、気になる事といえば翔太との関係だ。相変わらずコミュニケーションを取りに行っても態度がぎこちなく、二言三言交わすと逃げてしまう。どういう事なのかさっぱりわからない。

 彩に聞いてみても


 「あぁ、そういう年頃なのよ。あんまり弄らないであげて」


 そう笑いを堪えながら言うだけで何も教えてくれない。弄ってるわけじゃないんだが、どこか焦った様な様子なのは本当にどういう事なのだろう。

 やはり一度本気で話し合う必要があると思うのだが、それを彩に話すと


 「あはははは!ホントにかわいそうだからやめてあげて」


 今度は抑える事なく笑いながらこう言うのだ。


(オレが真剣に話そうとしてるのに翔太がかわいそうってどういう事!?)


 と思わないこともないが、何か翔太にも事情があるのかもしれず、強引に話し合うのも憚れる。

 向こうの世界では彩との関係に悩んで、こちらでは翔太の関係で悩むことになるとは思わなかった。

 しかし向こうの世界ではオレの方が彩を避けていて、中学の頃はたまに彩から話しかけてきてもぎこちなかったのはオレの方だった事に気付く。今のオレが向こうの当時の彩の立場で、こちらの翔太が向こうの当時のオレの立場のようなものなのだが、どうしてこちらでそんな関係になってしまうのかわからない。

 もしかして、あの頃のオレが彩に恋してたように翔太がオレに…と考えたところで背中が寒くなってきて親友に対してそれはないだろうと即座に否定して考えるのをやめた。


 そうこう考えている間に1時間目の数学の授業が終わるようだった。

 向こうの世界では中学時代の成績は割りといい方だった。そんな事もあって、約10年ぶりとはいっても授業など聞き流していても特に問題が無いレベルまで思い出すことが出来ていた。当時はわりと必死になって復習やテスト勉強をしたなぁ、という事を思い出す。

 そんなこんなで授業に関してはかなり適当に聞いて、指されたら無難に答えるという流れが出来始めていた。


 そして、次の授業は体育だ。


「ゆうき、移動するよ!」


 そう声をかけてきたのは彩だった。

 学校によって違いがあるのだろうが、オレの通っている中学校の体育は2クラス合同で男女別だ。そして着替えはそれぞれの教室を男子用、女子用と分けて使用する。3組に所属する俺は4組の教室に移動して着替えることになる。

 そして今のオレは女だ。つまりはそういう事になる。

 となると、積極的に弄ってくる奴がいる。


「ねぇねぇ、女子に混じって着替えるの興奮する?ねぇねぇ」


 彩だ。うざい。


「わたしはロリコンじゃないから中学生程度のおこちゃまじゃ何も感じないよ」


「ほほー。そんな立派な体を毎日見てたら他は気にならなくなるって事?」


 今度は発育の良さを弄り始めた。本当にうざい。


「この体も歳の割には…って何言わせるの!?」


「あはは、ごめんごめん、今のゆうき弄り甲斐があるからついね」


「セクハラおやじか!?…もう」


「ごめんって。ほら、早くしないと男子着替えられないからさっさと行くわよ!」


 彩に連れられて隣の教室に移動する。まだ4組の男子が残っているが、同じクラスの女子に追い出され始め、すぐに女子だけになる。

 この学校は廊下側の壁やドアには窓がない。そういった事もあって専用の更衣室が用意されずに教室で着替えるようになっているのだと当時から言われていた。それが良い事なのか悪い事なのか、当時はなんとも思わなかったが、女の身になるとすこし悩ましいところではある。

 周囲を見渡すとちらほらと着替え始めている。異性に対しての恋愛や欲情の対象となる許容範囲からは外れてはいるはずなのだが、まったく興味がないと言えば嘘になる。

 おおっぴらにキョロキョロ見るのはさすがに気が引ける事もあり、チラチラと周りを観察する。堂々と上下脱いでから着替える子もいれば、下はスカートを穿いたまま着替え上もキャミソールや薄いシャツを下に着込んでいるガードの固い子もいる。

 想像通りというべきか、所詮は肌を露出するようなものでもないため少し拍子抜けだ。言葉に出すと激しい反発を受けそうではあるが、まだまだ中学生であり、当然とはいえ色気がない。

 見ていいのは見られる覚悟がある奴だけだ。そんな言葉があるかは知らない。しかし、オレが見てたのに気付いてお返しというわけではないのだろうか、こちらを見ている子もいる事に気付く。オレも見ていたから人の事をとやかく言う資格はないが少し居心地が悪い。

 意外と見ている本人は気付かれていないつもりでも他人の視線というのは気付くものだ。それを最近知った。特に男と違って女の場合は服を着ていても胸のふくらみはわかってしまうし、場合によってはお尻の形も出てしまう。そして男はそこをついつい見てしまうが気付かれてはいないと思っていた。しかし女になってみるとチラッとでも見られている事にはそこそこ気付いてしまう。視線の向きが微妙に不自然な時があるのだ。


「見てもいいけど、程々にしなさいね」


 彩からそう声がかかる。

 彩は小学校の頃からわりと他の子に比べると成長が早かった。小学校の頃は常に後ろのほうに並んでいたような気がする。今でも既に高校一年でも通りそうなほど大人びていたが、残念ながら女性としての特徴には恵まれなかったようだ。つまり、薄い。なにがとは言わない。言えない。

 つまり、よく言えばスレンダー、悪く言えば女性らしい凹凸が少ない。一昨日うっかり口に出したら激怒された。その時それは絶対踏んではいけない所謂『地雷(タブー)』なのだと気付いた。


「うん、まだ残念だから見ても面白くな……あ……」


 彩含む一部の女子が鬼のように表情を険しくしているのを見て、再び地雷を踏んだことに気付く。


「見ても面白くなくて悪かったわねぇ」


 彩が表情を笑顔に変えて静かに言うが、怖い。目が笑ってない。


「わたし着替えたから先行っているね!」


 そう言って走って逃げ出す事にした。地雷踏んだ時の彩は本当に怖いのだ。


「ゆうき!!ちょっと待ちなさいよ!!」


 目的地は一緒なので結局は捕まってしまい、こめかみに拳をグリグリ当てられ悶絶する事になるのだった。




 授業に入る前に準備体操を近くの女子を二人一組で行う。今の体が女だとは言え、女子の体に触れるのは少し緊張するものがある。できれば慣れてる彩と組みたいところだったが、すぐ近くの女子に声をかけられる。


「ゆきちゃ~ん、私と組もうよ~」


 中村沙希という声をかけてきた少女はゆうきが小学校の頃からの付き合いで特に仲の良い一人だと彩からも教えてもらっていた。

 どうしようかまごまごしているのは悪手だ。


「あれ、嫌?」


 慣れない女子と組むのは抵抗がある等言えるわけもない。


「え…いいよ、わかった、やろうか」


 少し抵抗はあるが、所詮は背中合わせで背負いあったり、背中を押したり、手をつないで引っ張ったりと大した接触ではないと自分に言い聞かせて黙々と進めていく。

 そのつもりだったのだが、この沙希という少女は本当に良く喋る子だった。放っておいても一人で喋り続ける。おっとりした喋り方をするせいでマシンガントークというにはイメージが違うが、やっている事はほぼ同じだった。


「昨日ね~、帰り急に雨降ってきたでしょ~?だから濡れながら走って帰ったんだけど、カバンに傘はいってたんだよね~、あははは」


 そして少し天然というかおバカというか、なかなかどうして憎めないキャラをしている。

 しかし、そのおかげであまり意識する事がなくなったのは感謝すべきだろうか。


 授業は体育館を使用してのバスケットボールだった。

 元々、運動自体は好きな方でそれなりに得意でもあったが、性別が変わった事による運動能力の差に対応できないのではないかと思っていた。

 しかし、身の回りの事をするのに自然と体の動かし方がわかったのと同じように、実際に動いてみるとどう動かせば最適なのかがわかる。それが男の時とどう違うのか言葉で説明するのは難しいが感覚的なもので、本当に体が覚えているとしか説明のしようがない。

 ドリブルしながら敵陣に切り込んでいき、斜め前にいた彩にパスを出す。さらに、素早く敵陣深くに潜り込んで次のパスを待つ。…つもりだったのだが、中に入ろうとしたところで早くもボールが回ってくる。彩が、ほとんど動かずボールを戻してきたのだ。

 オレ自身はそれなりに多少自信が持てるくらいには運動ができるつもりだ。それは元のユウキも同じだったのだろう。テニスをやっていた翔太は全国区になるだけあって運動神経も抜群だった。

 しかし、幼馴染の中で彩だけは致命的に運動音痴だった。勉強は学年でも1,2を争う秀才だが、体育だけが足を引っ張ってオール5にならない残念な子だった。それでも体育はやる気のない女子が多い中、欠席・見学無しで真面目に取り組む姿勢だけで3か4をもぎ取ってくる辺りはさすがだった。


 部活でバリバリやっている子もいて、そこまで目立ってたわけではないと思うがそれなりにポイントを決めて、それなりに周りをフォローする。彩は戦力外だったが、やる気はあるようで相手のマークにだけはしっかりとついていた。しかし、相手は気にもしてない様子だったのが少し気の毒だった。


 体を動かしていると授業時間の50分はあっという間に過ぎていく。

 改めて体を動かす事が好きなことを認識して、改めて運動部にでも入ろうかとも考えるが来年の夏には引退する事を思い出して考え直す。


 

 授業が終わり教室に戻る途中、隣のクラスの男子数人がコソコソ話しているのが聞こえてくる。


「メイデンって胸でけーよな!」


「さっきバスケの時、超揺れてた!あの顔であの胸はやばい」


「マジか!?話すとすげーこえーけど、見る分にはいいよなぁ」


「俺、あの胸に顔を埋めたい」


「お前変態くせーよ」


 そう言って全員そろって大笑いしている。

 メイデンという言葉が聞こえた時点で周りに翔太がいない事を確認する。さすがにまた翔太が聞いてると暴れ始めるので面倒だ。幸いというか、連中もバカじゃないのか翔太はいなかった。

 オレが周りを確認した時点で話がピタッと止まった。聞かれたと思ったのかもしれない。実際聞こえているのだが精神的にはまだ男のつもりなので、彼らの気持ちはわからないでもない。しかし対象にされるのは気分がいいものではないので軽く注意しておこうと彼らの方を向くと彩が止める。


「ちょっと!全部聞こえてたんだからね!せめて聞こえないところでやんなさいよ!」


 かなり強めの口調で頭ごなしに注意するが、案の定彼らもばつが悪そうにしながらも、少し不満そうに謝罪する。


「ちょっとした笑い話だったんだ、悪かったよ」


「まぁまぁ彩、そんなにカッカしない」


 と、仲裁に入るが、彩はそこまで不機嫌そうには見えない。おかしいと思いつつも男子の方もフォローする。


「キミらの気持ちはわからなくもないけど、気分は良くないからそういう話するなら場所はちょっと考えてね」


「あ、あぁ…ごめん」


「あ、それと、メイデンって言うの翔太に聞かれると抑えるの大変だから、ホントやめて」


 そう苦笑気味に付け加えて注意するが、意外なものを見たという表情をして驚いている。

 今までの元のユウキのイメージからかけ離れた行動を取っているという意識はある。その結果として彼らを少し戸惑わせてしまったことも。


「早くしないと休み時間終わっちゃうから戻ろう?」


 そう周りに言って、オレは一人でさっさと教室に戻った。



 教室に戻ってくるなり、彩が親指を上に立てている。これですべてを察した。


「彩、わざとらしいよ」


「何が?」


 含み笑いでわざとらしくとぼけている。


「まったくお節介なんだから」


「何の事言ってるかかわかんないわ」


 あくまでとぼけ通すつもりのようだ。どこか楽しそうな、それでいて少し嬉しそうな、そんな笑顔だ。

 しかし、自業自得ではあるがダシに使われた先ほどの男子達は少しかわいそうでもあったな、と少しだけ同情した。



 この日を境に、オレに対する周囲の反応が徐々に好意的なものへと変化していった。

 しかし、オレに何かあると翔太と彩が黙っていないという怖い認識は相変わらず残っているようで、明確な悪意をもって近づいてくる輩もほぼ出てくる事はなくなった。

 この状態なら、元のユウキが戻ってきても問題にはならないだろうと思えるくらいに環境は良くなったと言えるだろう。

 …あくまで性同一性障害の問題を考えなければという前提ではあるが。

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