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プロローグ そんな日常

 辺りはすっかり薄闇に支配された中、長時間走らせてきた愛車のバイクをファミレスの駐車場に止め、フルフェイスのヘルメットを脱ぎつつ、後ろから付いてきて隣に同じように駐車する友人の翔太に視線を向ける。


「おい悠樹、朝から走りっぱでヘロヘロなんだからもう少しソフトに頼むよ・・・」


 すり抜けしながら、それなりのスピードでここまで先導してきたオレに対して笑いながら軽く文句を言う翔太。漸く人心地付いたところで軽口を叩きたいだけの言葉だろうが、本音でもあるようで表情には少し覇気がなく疲れの色が滲んでいる。


「いやいや、ちんたら時間かけて走ってくるより、さっさと着いて休んだほうがいいでしょ?っていうか、逆の事したら逆の事いうでしょ」


「よくわかってんじゃん。でもそれはそれ!うし、飯!飯!」


と笑う。なんて現金な男だ。


 田所翔太。

 小学校入学直前に引っ越してきた時、近所で同い年だった事から仲良くなった所謂幼馴染だ。控えめで内向的で友人も少ないオレと比べると明るくて誰とでも仲良くできるムードメーカーと、性格がまったく違うにもかかわらず妙に気が合う。一緒にいて本当に居心地が良いのだ。友人とはいえ他人で、多少なりとも窮屈だったり、面白くなかったり、面倒だったりがあるものだが、翔太とはそれがあまり無い。オレより交友範囲のはるかに広いはずの翔太がかなりの時間をオレとの時間に充てている事から、翔太も同じように感じているのかもしれない。

 こんなにオレとばっかり遊んでて彼女放置してない?大丈夫?そう思う事もあるが、そっちはそっちでしっかり時間を取っているようだ。そんなこんなで社会人になった今でも親しい関係を続けている。


 一度帰って、一杯やる事も考えたが翌日から翔太が仕事だった事と、一旦帰って再度集合するのが正直面倒だった事もあって、そのまま食事の後高校生のようにドリンクバーで数時間粘る気満々だ。店側からすると嫌な客だ。悪い事をしているわけではないが、少し店側には申し訳ない気持ちにはなる。そうかと言ってやめるつもりはサラサラなかったりする。


 食事の後もお喋りは続き、今日のツーリングの事、バイクの事、ゲームの事等話題は移ろい、お互いの彼女についての話になる。生憎、約2年前に5年間付き合った彼女と別れて以降彼女がいないオレは、いつも通りのお決まりの言葉を口にする。


「誰かかわいい子紹介してよ」


「はぁ・・・お前またそれ?」


 これまたいつも通りなのだが、心底あきれた表情で返してくる。

 なんでよ!


「お前さぁ、何度も言うけどモテるんだから少し周りアンテナ張って感触良さそうな好みの子攻めればそんなに苦労しないぞ?」


「オレも何度も言うけど、モテた記憶も、モテてる感触も、好意持たれてる実感もないんだけど?」


「・・・はぁ、この鈍感ヤローが・・・」


 事実認識を言っただけのはずが、滅多に怒らない翔太が若干の苛立ちを見せつつ、ボソッと猛毒を吐いた事に驚いた。それと同時に少しムッとする。本当にモテた事などなく好意を向けられた記憶もほとんど無い。だがこのまま話を続けても雰囲気が悪くなるだけだと判断し別の話題を振ろうとしたところで翔太から意外な言葉が飛び出す。


「んじゃぁさ、彩なんてどうよ?」


 山岸彩。

 翔太と同じく引っ越してきた頃からの幼馴染でオレの初恋の人。小学校4年頃まではいつも翔太と彩3人でいる事が多かったが、それも5年生にもなると女の子と一緒に遊ぶ事に恥ずかしさと抵抗を感じるようになり徐々にオレとは疎遠になっていった。離れた事で逆に気になってしまったのだろうか、自分の気持ちに気付いたのもその頃だ。

 高校2年の春、その想いを打ち明ける事なくあっけなく初恋を散らせる事になった。他の男に出し抜かれたのだ。顔立ちが整っていて、明るくリーダータイプで面倒見もいい彩は小中高と常に男共の人気は高かったのだ。うかうかしてれば、掻っ攫われるのは当然の結果と今にすれば思う。むしろよく高校まで持ったなとまで思う。

 その後は気まずくなり、ろくに会話もできないまま高校を卒業後は進路も別々で今では連絡先すら知らない。彩の現状も翔太に伝え聞く程度だ。


「…なんでその名前がここで出てくるわけ?そもそも彼氏いるって言ってなかった?」


「そうなんだけどな。俺の感触だとそろそろ別れそうな雰囲気なんだわ。それでどうかなと思ってな」


「まだ実際別れてもいないのに気が早いよ、超フライング。しかも翔太の当てにならない勘でしょ?」


「勘じゃなくて感触だっての!しかも当てにならないってどういう事だ!」


 翔太の勘は本当に当たらない。中学時代全て2択の25問の小テストで奇跡の2点を取った時は、悪いと思いつつ大笑いしてしまったほどだ。「全部逆に答えたら90点オーバーだったね」とからかったのは懐かしい思い出だ。


「あれ、当てになった事あったっけ?」


「ない……な。さーせん!」


 と、二人して笑い合う。

 彩の話はそもそもオレにとってはタイミングとかそういう問題ではない。もう過去の事と思っているし、今更どんな顔して会えばいいのかもわからない。なんにしてももう終わった話だ。


「…はぁ、不憫だ」


「何?女の子紹介してくれる気になった?」


「それは自分で何とかしろ!」


「あれ、オレが不憫だからかわいい子紹介してくれるんじゃないの?」


「どんだけ都合のいい解釈すりゃそうなんだよ!?ってかいつまで突っ込ませる気だ!」


「どーどー」


「俺馬じゃねえし!」


「そうだねぇ、オレとしては翔太の勘の残念さが不憫かなぁ」


「ちょ!おま!脈絡がない上に何ドサクサに紛れて人の事ディスってんの!?死ぬの!?」


 シリアスも、すぐにこんなバカみたいな会話になるから長続きしない。


 この後もスマートフォンアプリのイベントがどうだとか、年末年始はスノーボードに行こうとか、ツーリングは11月で走り収めだなとか、とりとめもない話をしてあっという間に時間が過ぎていきお開きとなる。


 

 プライベートは少ないながらも良い友人に恵まれてそれなりに充実していて、仕事には思うところがありつつも、そこそこの生活をこの先も続けていくのだろうと漠然と、しかし間違いないものだと思っていた。




 この頃までは。

一日一話づつ投稿していきます。


合計プロローグ、エピローグ含めて約10万字、24話構成です。

処女作なので突っ込み所満載で拙い所多数かと思いますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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