第七十一歩 【与えられた使命】
魔獣withシュウスケが菓子を貪る音と俺とリンの鼓動しか聞こえない部屋のドアが急に開かれ、レイラさんとウルドさんが入って来た。
「ルイ君、色々大変だったみたいね。体は大丈夫?」
「え、えぇ――今は何とも」
レイラさんは元の場所へと腰を下ろし、ウルドさんは横へ立つ。
その二人の様子から真面目な話が始まるのだろうと察したお菓子組一同はその口を止めて、背筋を正した。
「ライディンとも相談したんだけど、あなた達の住居区域と仕事が決まったわ」
「「「住居区域と仕事?」」」
俺たちが首を傾げるとレイラさんは共和国の地図を広げながら説明してくれた。
「そうよ。共和国では異界人に居住権を与えるのと同時に住居を建てることができる区域と共和国で生活していくための仕事を割り当てることになっているの。それは個人個人の能力や持っているスキルを加味して決めることになっているんだけど……あなた達の場合、かなり特別なケースだから三英雄の意見も反映するという事になったの。――といっても、そういった事で相談できるのはライディンだけなんだけどね」
レイラさんが目配せするとウルドさんが前へ進み出て、地図上に手を置く。
「ハッキリ言えば、魔獣を引き連れた状態で街中に拠点を構えれば混乱が起きることは想像に難くない。それにルイ君の目的を円滑に進め、共和国の民たちにも有益となる場所を考えれば君たちが行くべき場所は一つしかない」
ウルドさんの手は地図の中央へとゆっくり伸びていき、大きな森の脇にある平地を指さした。
「ここは共和国最大の森、〈リエス大森林〉に隣接した開発地になっているのだが、様々な問題が起きて計画が一切進んでいない。名を〈エルピー平原〉という」
「エルピー平原……でも、その問題っていうのは?」
俺が質問すると、レイラさんは一枚の資料を地図の上に置いた。
その資料には長耳族や半魚族を始めとした多くの種族の名前があった。
「これはリエス大森林とその周辺を住処としている種族のリストよ」
「――もしかしてこの周辺っていうのが」
「そう、人間と他種族間のトラブルが一番多発している地域よ。地域によっては紛争のような状態になっている種族もある。開発計画が進んでいないのもそのトラブルが原因なの……そこであなたに割り当てる仕事の話になるわ」
レイラさんは従者に命じ、奇麗な箱を持って来させ机の上へ置いた。
彼女が箱を開くとそこには共和国の紋章を象ったブローチの様な物が入っていた。
「君には公的な他種族間通訳としてトラブル解決にあたってもらいます。公的な約束じゃないけど、もしこの国の他種族間紛争を平和的に解決できたのであれば、開発後の土地をあなたの夢の為に役立てることを議会に提案するわ。――いかがかしら?」
俺は対面する二人を見つめて力強く頷く。
その時、俺もリンも横に居並ぶ仲間たち全員が目を輝かせているのが分かった。
夢想かと思われた夢の尾を始めて捕まえた気がしたのだ。
「やらせてください! きっと……きっと俺たちは他の種族や魔獣たちと人間のわだかまりを解いて見せます!」
俺が思わず立ち上がり、頭を下げる。
その様子を見てレイラさんは優しく微笑むと俺の首元に共和国のブローチを付けてくれた。
「これであなたは正式な共和国の一員となります。あなたたちの新しい道に幸多からんことを――」
俺はその言葉を聞き、記憶が揺さぶられたような気がして顔を上げたが疲れからかめまいがして体がふらつく。
そんな俺をウルドさんが支えてくれたところまでで俺の意識は途切れた。
次回からルイ達は夢の尾を追って走り出す!
異種族間の問題とは!?