けものの脇道 ~龍にも衣裳~
緊迫した話が続いたので少し甘い閑話でも――
ウルドさんを伴い屋敷に入ると、使用人たちが揃ってウルドさんを別の部屋へと通す。
俺がキョトンとしているとレイラさんが奥の部屋から出て来た。
「どうやらいろいろあったみたいね。そのことについてはライディンに直接聞くから、あなたは前の部屋に行ってちょうだい――何とかしておいたから」
フフッと笑いながら手をひらひらさせて部屋に入って行くレイラさん。
その笑顔には悪戯心を感じずにはいられないが――
俺は不安を抱きながらフェルたちがいるはずの部屋へと入って行く。
中に入ると魔獣組withシュウスケは未だに果物とお菓子をつまんでいた。
全く……人が大変な思いばっかりしてきたというのにこいつらは――
「ル、ルイ、お帰りなさい。だ、大丈夫だった?」
不意に後ろからリンの声が聞こえた。
いつもとは違いおどおどとしている様な声だが――
俺は不思議に思いながら振り返る。
すると――
「んなっ――」
俺は自分の身体がまた金縛りにあったかのように動かなくなった。
しかし、今度の理由は全く違う。
「ど、どうかな? やっぱり変?」
目の前にいるリンはいつもの様な冒険者風の衣装ではない。
艶のある真紅のドレスに丁寧に結われた長髪。
どこぞの姫だと言われても全く違和感がないほど美しい。
俺はリンにかける言葉が見つからず、口をパクパクとさせたままその姿を見つめていた。
「おぉ、甘ぇ甘ぇ。この部屋のどの菓子よりも甘ったるいぜ」
「こういうのを〝馬子にも衣裳〟っていうんすよね。実際の破壊力は想像以上っぽいっすけど――」
「リンさん、とっても奇麗ですよねぇ!」
口々に今の状況を批評する面々の言葉にようやく我に返った俺は慌ててリンから目を逸らす。
「い、いやぁ! に、似合ってるんじゃないか? それが今流行っているっていうドレスなのかい?」
完全にうわずった声でなんとか褒める俺と顔をドレスより真っ赤にして俯くリン。
その様子を生暖かい目で見つめる面々。
まるでブリキ人形の様な動きで、なんとか腰を下ろした俺だったが、今までの疲れが嘘のように血が巡る。
ここで改めて俺は自分の気持ちを理解したような気がした。
俺は、リンの事が――
二人の関係は徐々に進展して――行くのか?