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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 6本目 見極めの道
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第六十一歩 【畏怖の瞳】

 幾重にも枝分かれした通路の中を迎えに来てくれたダリアの先導で進んでいくと眩い光が俺を包んだ。

 やっと目が慣れて、辺りを見渡すとダリアと同じ姿をした魔獣の群れがこちらを凝視していた。

 しかし、その視線は歓迎とは程遠いもの――


「おい、なんで人間がここにいるんだ。いよいよ俺たちを殺しに来たのか?」


 前に進み出た一際大きなクォーツ リザードは忌々し気に俺を見つめた。


「違います。俺はダリア……この娘に頼まれてあなた達の助けになりに来たんです」


「人間が? 信じ難い。しかも、我々と言葉を交わすことができるとは面妖な――」


 疑いの視線を向けられることにも慣れてしまった俺は怯まずに答える。


「俺は確かに人間ですが、こうしてあなた達の言葉が分かります。だから今、あなた方が置かれている状況も彼女に聞き及んでいます。信じられないかもしれませんが、俺たちにあなた方の手助けをさせてもらえませんか?」


 俺はダリアの後に続き、小さな横穴に招かれる。

 そこには息を荒くして横たわるダリアによく似たクォーツ リザードの姿があった。


「おかぁちゃん! 帰ったよ!」


「おぉ、お前無事だったのかい。人里に降りて行ったと聞いたときは生きた心地がしなかったよ!」


 抱き合う二人を見ながら、俺は町で新調したウエストポーチの様なカバンを地面に下す。

 フェルと別行動をするときにと用意しておいたのがさっそく功を奏したというわけだ。


「ん? ところでダリア、コタロウとリンの姿が見えないんだけど?」


「コタロウさんならここに来る途中、変なにおいがするって脇道に入って行ってしまいました。匂いを辿ればここに着けるからって――リンさんは、あれ? どこに行っちゃったんだろう?」


 リンは俺より遥かにしっかりしているから心配することはないだろうし、コタロウの鼻はよく効くから大丈夫だと思うけど……変なにおいか、気になるな――

 俺が思案に暮れながらカバンを探っていると鈍く光る球が外へと転がりだした。

 それは龍の里に入る前に受け取った宝玉。

 今まで、何度か調べてみたり、魔力を流してみたりしたけどその正体は分かっていない。


「ルイさん、お待たせしました!」


 不意に響いた声に俺が顔を上げるとコタロウが転がっていった宝玉をキャッチしていた。


「コタロウ、戻ったのか! キャッチしてくれてありがとよ」


 俺がコタロウの方へと手を伸ばし、宝玉を取ろうとするとコタロウが前足でそれを差し出した。

 俺が宝玉へと手を触れたその時――

 

(分かり合える日がきっと――)


 宝玉は眩い光を放ち、俺たちは思わず手を離す。


「なんだこりゃ、こんな反応初めてだぞ」


「そ、そうですね……ただのガラス玉かと思ってましたけど――」


 コタロウの鼻をもってしても魔力や特殊なものは感じられなかった宝玉。

 これは、一体――


「あの……大丈夫ですか?」


 ダリアが声をかけたことで、俺たちの意識を引き戻す。


「あぁ、早くお母さんを治療しなくちゃな。バーンが作ってくれた回復薬があるからすぐに傷は治るよ」


 俺が回復薬を取り出し、傷口にかけると赤く爛れていた傷口は徐々に治まりを見せる。

 この調子なら数日で回復するはずだ。


「ありがとうございます! なんとお礼を言っていいのか――」


「ルイさん、ありがとう!」


 二人は深々と頭を下げて、俺に感謝を述べる。


「良いんですよ。大事がなくてよかったです。それより――」


「そう、暴れている君たちのボスについてもっと詳しく聞かせてもらおうか」


 横穴に姿を現したウルドさんが俺よりも早く質問をした。

 その後ろからは神妙な面持ちをしたリンも姿を見せる。


「それが……分からないんです」


「何⁉」


 ダリアの母は申し訳なさそうにうつむきながらその問いに答え始めた。


「子の群れの長は私の兄、この娘の伯父にあたるのですが、以前は温厚で人と争わぬようにこの横穴の奥を住みかとしました。ですが、この狭い横穴では食料の鉱石に限界があり、兄は群れ全員分の食料を確保するために定期的に他の坑道へと鉱石を取りに行っていたのです。しかし――」


義兄(あに)は戻ることはなかった。そして、私と妻を含めた数匹で捜索に出たが――後は知っての通りさ」


 俺たちが後ろを見ると最初に俺の前へ進み出たクォーツ リザードが横穴の入り口に立っていた。


「義兄……ということは、あなたはダリアの?」


「あぁ、俺はダリアの父で今は義兄に代わりこの群れの長をしている者だ。まず、妻の傷をいやし、娘を救ってくれたことには礼を言おう。しかし、我々は人と交わらぬようにひっそりと暮らしてきた身だ。出来るなら早々にここを立ち去り、我らの事は放って置いてくれると嬉しいのだが?」


 頭を下げながらも鋭い眼光で俺たちを睨み付けているその瞳からは何か人に対する畏怖の様なものを感じる。


「……わかりました。俺たちはここを去ります。騒がせてしまい、申し訳ありませんでした」


 俺は立ち上がると、コタロウとリン、それとウルドさんに促し横穴へと向かう。

 コタロウとリンは最初は俺の意図を図りかねている様子で困惑していたが、ウルドさんは小さく頷いていた。

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