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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 6本目 見極めの道
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第六十歩 【見極められる善意 前編】

 眩い光に包まれて一分も経たないうちに俺たちは視界を取り戻し始める。

 しかし、その視界には先程までの自然に満ちた景色はなかった。


「さぁ、ここが共和国管轄の宿場町。ネルヴィンですよ!」


 レイナルドさんが辺りを見渡しながら言った。

 俺たちもつられて見渡す。

 奇麗で大きな宿がいくつも建っており、冒険者や商人たちが多く利用している様子だった。


「転移魔法で一気に共和国には行かないんですか?」


 コタロウが首を傾げてレイナルドさんに聞いた。


「転移魔法は莫大な魔力を使うから、長距離や連続の行使はできないんですよ」


 俺がフェルとバーンを見ると、うんうんと頷いていたので嘘ではないようだ。


「でも、野宿をしないだけマシね。ゆっくりと身体を休められるわ!」


「俺もそろそろ水を交換したかったから助かるぜ!」


 リンとメガロはテンションを上げているが――


「あ、でも!」


 シュウスケが声を上げた。


「俺たち、お金持ってないっすよ! 泊まれないっす!」


「あ!」


 俺は口を開けたまま固まる。

 以前もこんなことあった気がする。


「大丈夫ですよ! 私もここに泊まる予定だったので、よろしければご一緒に!」


 神か仏か――


 レイナルドさんがさわやかな笑顔で誘ってくれたことに俺は思わず涙ぐんでしまった。

 先程までの不信感などどこへやら、皆がレイナルドさんを羨望の眼差しで見つめた。

 もちろんフェルとバーンを除いてだが――


「こいつらドンドン頭の中に花咲いて行ってないかい?」


「言うな! 我らだけは警戒心を失くさぬように努めればいいんだ! ルイのお人好し菌は強力だからな!」


 盛り上がるメンバーを引き気味に見つつ、何かぼそぼそと言う二つの口を俺は振り返ることはなかった。

 


 奇妙な異界人にあった。

 魔獣や龍人と共にあり、まるで同じ人間と話すかのように分け隔てなく他種族と接する青年。

 世界を流浪し、見聞を広めてきたつもりの私が明らかに異質だと感じるのは《彼ら》にあった時以来か――


 彼は〝自分には使役する力などない〟と語った。

 あまつさえ、魔獣を仲間だと――

 私は彼の真意を確かめなければならない。

〝正義の使者〟として、彼がこの国……いや、この世界に何をもたらすのか。

 そして、本当に人間は他の種族と共存していけるのかを――



 朝が来て、俺たちは広く大きな部屋で目を覚ます。

 ふかふかの布団とすでにテーブルの上へ用意された朝食。

 なんと素晴らしい文明人チックな朝なのだろう!


 俺は気取ったように大きな窓を開け放つ。

 涼やかな風が頬を撫で、清々しい朝日が俺を――


「やめてっ! 私は何もしてない!」


 耳に声が響く。

 窓から身を乗り出すと、通りの向こうで人だかりができていた。

 俺は着の身着のまま宿を飛び出すとそこへ一直線に向かう。


 恐らくあの声は俺にしか届かない――

 俺が人波を掻き分け、中心まで進み出ると男が何かを押さえつけているのが見えた。


「なにかあったんですか?」


「あぁ、なんでも近くの鉱山で人を襲っている魔物の子供が降りて来たみたいでな。今、町の警備隊が取っ捕まえたとこなんだ!」


 俺が声をかけると周囲の人が答える。

 その答えに、焦った俺は人混みの中心に躍り出た。


「ま、待ってくれ! そいつは何もしてないみたいだ!」


 俺が近づくとキラキラとした光が目に入ってくる。

 警備隊員に押さえつけられているのはまるでダイヤモンドを散りばめた様な肌を持つ大きめのトカゲ。

 警備隊員とトカゲは叫んだ俺を見て固まる。

 トカゲの反応、そして俺の耳に届いた声からして魔獣だと判断できた。


「なんだ、お前は? こいつは人食い魔物の仲間だ! 危ないから下がっていろ!」


「違う! そいつは何もしてないって言ってるんだ!」


 俺がそう告げると周囲がざわつく。

 まぁ、訳の分からない奴が訳の分からないことを言っていると取られているんだろうが、今はそんなことはどうでもいい。


「俺は魔獣の言葉が分かるスキルを持っているんだ! そいつは何もやってない!」


 怪訝なものを見る様な視線が俺に注がれる。

 なんとかトカゲを助けようと弁明するが、周囲の反応は乏しい。


「くっ、どうすれば」


 俺が奥歯を噛み締めていると――


「彼の言うことを信じてみようじゃないか!」


 頭上から声がしたかと思うと、俺と警備隊員の間に何かが墜落してくる。

 いや、墜落と言うにはあまりにもヒロイック――

 まさに、映画で見たスーパーヒーロー着地といった具合に床を窪ませながら現れたその人物はボロボロの麻でできたローブの下に赤と黒で彩られた甲冑と機械的な造形の仮面姿で俺たちを一瞥する。


「ま、まさか……あなた様は!」


 警備隊員と周りの人たちがまるで有名人を見るかのようにその人物を見つめる。

 俺は状況の急激な変化に対応できず、ただただ固まってしまっていた。

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