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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 6本目 見極めの道
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けものの脇道 ~共和国緊急議会~

 円卓が置かれた大部屋に重々しい雰囲気が漂う。

 その部屋には共和国の同盟に参加している国々の重鎮が集められていた。


「それで? 王国の動きは?」


 重鎮の中の白いひげを蓄えた老人が鋭い視線を振りまきながら重々しく問う。

 その老人は軍服を身にまとっており、胸にはいくつもの勲章を携えていた。


 そんな老人に貴族の様な出で立ちの男が汗を拭いながら答える。


「て、転移されてきた異界人たちには支配魔法や情報系魔法の類はかかっていないことが確認されたので、共和国の民として受け入れることとなりました。その後、王国から何の働きかけもないことから、王国の意図ではない、かと思われます」


 その言葉に胸を撫で下ろす一同。


 この共和国の領地内に大勢の異界人が転移してきたことからこの騒動は始まっていた。

 元来、とある理由から異界人を民として受け入れている共和国にとって稀有なことではあるが、さして問題になることではないはずだった――

 しかし、転移用魔法陣の解析が終えたことで状況が一変する。

 その魔方陣が王国のものであると分かったからだ。


 まず疑ったのは、異界人を先兵とした進行または情報収集。

 しかし、異界人の出現場所やすぐに発見できたことからその線は薄いと判断される。

 さらに調べを進めていくと、異界人たちの支配魔法が解けていることが判明し、ますます謎は深まるばかりであった。


「それで? 新たな情報が入ったからこの議会が招集されたのでしょう。 早く教えてくださらないかしら?」


 話の続きを促した壮年の女性は、蒼くしなやかな髪をかき上げながら貴族風の男を一瞥する。

 その仕草を見慣れているはずの面々であるが、いつ見ても見飽きぬ妖艶な姿にしばし見とれていた。


「あ……あの、その王国での一件なのですが」


 我に返った貴族風の男が再び口を開く。


「暗部の報告によると、魔物を従えた何者かが王城へと侵入したと……」


 その報告が耳に入ると部屋の緊張感は再び高まり、軍服を着た老人が声を張り上げる。


「魔物を従えた!? まさか……件の魔王が復活したのではあるまいな?」


 その言葉にざわつく一同であったが、すぐに蒼髪の女性は否定する。


「もしそうだとしたら王国のみで対処できる問題ではなくてよ。人類全体の危機になる。王国から連絡がない以上、魔王が復活したとは考えにくいわ」


「だとしても問題には変わりなかろう! 魔物を使役できる者など情勢に大きく影響を及ばす可能性がある!」


 その後の議会は紛糾した。


 王国から得られた情報は僅か――

 その情報だけではその者が敵か味方かはおろか、真実か否かも判断が付かない。


「む?」


 今まで黙っていた武人風の大男が目を見開く。

 その男は部屋の奥の暗がりに目をやり、重々しい口を開いた。


「暗部、何事か?」

 その視線の先にはいつの間にか一人の黒い影が現れていた。


「三英雄が一人、ウルド・ライディンより連絡が入りました……〝魔獣を従えた異界人の一行を発見した〟と。そして、その異界人たちは共和国を目指しているようです」


 部屋に戦慄が走る。

 しかしそれと同時に、一同は安堵の表情も浮かべていた。


「なるほど――ウルドが先に接触してくれるのならば万が一にも間違いはない」


「そうですわね。彼らの存在がこの共和国にとって益か害か――見極めるのにこれほど適した者もいませんわね」


 議会は満場一致の意見を暗部へと伝える。


「ウルド・ライディンに伝えよ! その者たちを見極め、我らに益をもたらすものである場合には共和国議会に召集せよ。だが、害になる場合は――共和国に入る前に全力を持って排除せよ、とな」


 暗部は跪くとその場から掻き消える。


 一同はふぅっと息を吐くと自分たちの幸運に感謝した。

 どんなに得体の知れない相手であろうと三英雄の一人ウルド・ライディンに任せれば的確な処理ができるとそう信じていたのだ。


「他の二人なら直ぐに排除命令を下しましたが……〝正義の使者〟である彼なら正しく判断してくれるでしょう」


 議会は解散となり、貴族風の男が円卓の端にある水晶に触れると一同の姿が掻き消える。

 男は遠隔投影の魔法陣が完全に切れていることを確認すると改めて大きく息を吐いた。


「この一件で共和国の国々はどう動くのだろうな。もしかすると、王国の二の舞になることも考えられるが――異界人であるということに期待するしかないか」


 男は明かりを消すと部屋を後にした。


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