けものの寄り道 ~黒い夢~
短いですが、意外と……
人里離れた山中。
険しく、強大な魔物が多く生息しているそこに私の主が拠点としている祠があった。
私はこれまでの経過を直に報告せよとの命を受け、久しく留守にしていたここへ帰還する。
もちろん経過とは件の異界人の一行について――
私は羽を閉じると狭い祠の入り口をくぐる。
その瞬間に空間が歪み、目の前にはおおよそ祠の中とは思えない程の広い空間が現れた。
「ただいま戻りました」
私は奥まで進むと跪く。
私の前にはこの世で最も敬愛する主人。
その姿を肉眼で捉えたとき、私の心と身体は打ち震える。
「ご苦労でしたね。それで? 早速彼らのことを聞かせてもらえないかな?」
主の麗しい声が私の耳に届き、蕩けそうな頭を必死に奮い立て、主の前へ差し出す。
これこそ、私が呼び出された意味だと知っていますからね。
「どうぞご覧ください」
主は表情を変えぬまま私の頭に手を添える。
〝記憶閲覧〟
主が得意とするこの魔法は記憶を読み取り、詳細をありのまま知ることができる。
その代わりに記憶を読み取られている間は地獄の苦しみが襲ってくる。
しかし、私にとってはそれすらも甘美なものであった。
「なるほど……これは面白いことになってきたね」
「はい、全ては主様のご慧眼通りでございます」
主はそこで初めて口元を緩める。
心が躍っているのか、運命をほくそ笑んでいるのか私でも計り知れないが主が笑っている。
それが私の全てなのだ。
「しかし――」
主は静かな声で遠い目をされる。
「懐かしい顔が見れたよ。彼も昔と変わらないようだね」
懐かしそうに、どこか悲しそうに漏れ出た言葉を私は聞き逃さなかった。
「さて、これからどうしようかな。もっと彼には成長してもらわないといけないからね!」
「あの宝玉はお渡ししてきましたが……本当に手放しても構わなかったのでしょうか?」
「あぁ、獣皇玉の事か。あぁ、これでいいんだよ! あの力の本質を理解するためには彼らの手元にあった方がいいだろうからね」
フフッと鼻で笑う声が聞こえる。
「引き続き彼らの動向を報告してくれ! 俺はグラトニルに揺さ振りをかけてみる。彼らにはまだまだ試練をくぐらせなくては!」
私は主が奥の闇へと消えていくのを見送ると再び祠を発った。
祠を発つ瞬間、主の声が祠から響く。
「次に会う時には俺のいや、人類の夢が叶う時だよ」