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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 5本目 決意の道
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第五十八話 【真なる旅立ち】

 たくさんの荷物をフェルの毛にうずめ、俺たちは龍の里を覆う渓谷の入り口に立つ。

 しかし、問題が――


「いぃやぁだぁ! 兄ちゃん、もっと居てよぉ! まだ、教えてない技とかいっぱいあるんだってばぁ!」


「キューン! キュイキュキュキューン!」


 右足にはニーズ、左足にはミディがしがみついて俺は前へ進めない。


「こらっ! ニーズ、いい加減にしなさい! ミディ様も! どうしてもというから龍王様も見送りをお許しになったというのに、これでは示しがつきませぬぞ!」


 バルファさんはそう言うと、べそをかいている二人を強引に俺から引っぺがした。


「ルイ殿、皆様。何やら騒がしい旅立ちとなってしまい、申し訳ない」


「いえいえ、こんなに惜しんでもらえるなんて嬉しい限りですよ」


 俺はバルファさんに抱えられている二人の頭を撫でる。

 二人は納得がいかないのか、ムスッとした顔をしているが涙で顔がぐちゃぐちゃだ。


「大丈夫だって、また会いに来るよ。――ってそう簡単に来れるものじゃぁないけどさ、お前たちは将来、龍の里を背負って立つんだろ? そしたらまた俺たちのこと、呼んでくれよな」


 俺の言葉に二人は涙を拭い、パァッと明るい顔を見せる。


「俺、絶対に父さんに負けないくらい強くて立派な長になるよ!」


「キューイ! キュンキューン!」


 俺はその言葉に微笑みつつ、それは何百年後だろうかと思いを馳せた。

 種族が違うということは生きる時間に大きな隔たりができるということなのだろう。

 この子たちの大成を短い人間の寿命で見ることは多分敵わない。


 まぁ、子供と言ってもニーズなんかは120歳くらいらしいし、種族によって成長の度合いも違うのだから隔たりができるのは必然なのかもしれないな。

 

 俺はバルファさんに軽く会釈すると、いつもの列に戻る。


「ほんと、おしゃべりボーイって女にはモテないのに、子供とか別種族にはモテるよな」


 バーンがニヤニヤしながら皮肉を言う。


「女にモテないは余計だ! そもそも、人が苦手なのにモテるわけないだろ」


「女には全般モテないんじゃないのぉ? だって、あの娘来てないじゃない」


 バーンの言葉が俺の心に突き刺さった。


 そう、この場にリンの姿はない。

 それどころか昨日に飛び去ってしまってからというもの、一度も姿を見せてくれていないのだ。


「し、心配しなくても大丈夫ですよ! 少し遅れているだけですって!」


「そ、そうっすよ! 一緒に旅した仲間なんすから、ルイさんの事、嫌いになるわけないじゃないっすか!」


 コタロウとシュウスケがフォローしてくれるが、俺の心は重い。


 今朝からレヴィさんやニーズに尋ねてみたが、リンの行方は分からない。

 バルファさんに至っては何かを隠している様子があり、それがリンに関することなのだろうとは思ったがそれ以上は怖くて聞けなかったのである。


「奴の意図は分からんが、訳もなく仲間を軽んずる奴ではない。何か理由があるのだろう」


 フェルが諭すように言い、俺もその言葉に納得する。


「そうだな。俺もそう思うよ」


「さぁ、行こうぜ! 共和国まではかなり遠いんだろ?」


 メガロが意気揚々と尾鰭をバタつかせる。


 バルファさんたちに深く頭を下げた俺たちはくるりと向きを変え、渓谷の中へと踏み出す。

 渓谷に入った瞬間、辺りに一面の霧が立ち込める。

 本来はここでも迷う可能性があるそうだが、ニーズがくれた龍の紋章付きの小刀があれば大丈夫だそうだ。


「結局、リン。顔を見せてくれなかったなぁ……」


 俺が呟くとメガロが俺の顔の横に張り付き、喝を入れる。


「さっきからそればっかじゃねぇか! 新しい旅路が始まるってのに、シャキッとしろシャキッと!」


 俺はやる気に満ち溢れているメガロに苦笑いしつつ、気持ちを切り替える。

 これから俺達にはどんな未来が待ち受けているのか――

 穏やかな道でないのだけは確かだが、それでも俺の心は踊っている。

 何故なら、俺は今一人じゃないから――

 

 俺は渓谷の道を進みながら、騒がしいほど賑やかな仲間たちを見る。

 種族は違っても俺の声に応え、道を共に歩んで行ってくれる仲間たち。

 コタロウ、フェル、シュウスケ、メガロ、バーン、そして――


「遅かったじゃない。待ってたわよ!」


 急に霧が明け、目の前にはマントを羽織ったリンが現れた。


「り、リン!? どうしてここに?」


 俺が驚いて駆け寄ると、リンは少し顔を赤らめ気まずそうに笑う。


「実は……お父様に勘当されちゃったの。だから、みんなと一緒に行かせて!」


「えぇっ! なんで!? なんで勘当なんか?」


 俺はバルファさんの顔を思い浮かべ、驚愕した。

 とても一日でそんな判断をするとは思えないが――


 もしかして……ってか、もしかしなくても俺たちの旅に同行するために?

 俺の意図を読んだかのようにリンはさらに赤い顔をすると、手を顔の前で横に振る。


「ち、違うわよ! そんな理由じゃなくて……ただ、龍の里の危険はまだ去ってないから、もっと世界を知りたいって言ったのよ。でも、掟で任されている龍族に直接関係しない事柄で外に出るのはダメだっていうから……ならって事で龍人族から追放してもらったのよ!」


 きっぱりと言い放つリンの行動力に俺たちは若干の戸惑いと呆れを感じつつ、笑みがこぼれる。


「リンってもう少し落ち着いた性格だと思ってたよ」


「ミディの時も里を飛び出したって言ったでしょ。これが本来の私。前はあなたがあまりにも頼りなかったから世話役みたいになっちゃってたけど、もうその必要もないでしょ?」


 リンは俺の目をまっすぐに見つめて告げる。


 俺の能力的な強さはあの頃と大きく変わりはない。

 しかし、やるべきことを見据えて進もうとする俺をリンも仲間たちも認めてくれた。

 俺は今、それが最高に誇らしいのだ。


「さぁ、行こうぜ! 俺たちの新しい道へ!」


 俺は武者震いをする腕を高らかに上げるとみんなと一緒に新たな道を走りだしたのだった。

完結のような雰囲気ですが、実はこれからが本筋です!

ご容赦くだされ!

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