第五十五歩 【夢への決意】
グラトニルの襲撃から1週間が過ぎた。
龍族に被害はなく、龍人族の被害もバーンの回復薬のおかげで最小限に抑えられたとのこと。
さらに、意外な功労者がもう一人……
「はいはーい、次はそっちっすねぇ!」
シュウスケの威勢良い声が響き、瞬く間に倒壊した家屋が修復されていく。
「よっしゃー! 次行くっすよ!」
シュウスケは良い所を見せようとノリノリで〝印象修復〟のスキルを使いまくっている。
今まで活躍する場が無かったが、こうしてみると本当に便利なスキルでメチャクチャだった村や広場が前と遜色ない程見事に修復されていく。
シュウスケも子供たちや村の人に頼られて凄く嬉しそうだ。
「シュウスケ兄ちゃんすごぉい!」
「シュウスケ兄ちゃんカッコイイ!」
シュウスケには助けた龍人族の子供たちが付いて回り、シュウスケの仕事をまるで英雄を見るかのように目を輝かせている。
そんな様子をしみじみと見つめる俺だったが――
「兄ぃぃちゃぁぁん!」
どんどん近づいてくる叫びを聞いて思い出した。
俺にも子供が付いて回って来てたんだっけ……
俺は脇腹にタックルを喰らい、そのまま地面を転がる。
飛び込んできたのは――
「ルイ兄ちゃん! ご飯できたよ! 早く帰って一緒に食べよう! その後でまた俺が戦い方教えてあげるからさぁ!」
「二、ニーズ……その前に俺の上で飛び跳ねるのをやめてくれ。マジで死にかねんって!」
ニーズは谷での一件以降、俺にべったりになってしまった。
龍族の方に顔を出した時はミディとニーズで俺の取り合いになっており、マジで身体が千切れるかと思ったものだ。
確かに殺気を向けられるのも困るけどこれはこれで身が持たないような気が――
まぁ、一つ言えることがあるとすれば……俺は子供や動物からは好かれるタイプなのだ。
※
更に2週間が過ぎ、俺たちの旅支度が整いつつあった。
「ルイ、ちょっと良い?」
俺が部屋で荷造りをしているとドアの外からリンの声がした。
「ん? あぁ、大丈夫だ。大体の事は済んだしな」
「少し、散歩に行かない?」
俺はリンに誘われるがまま外へ出る。
ただ、どうしても気になることがあった。
「なんか……元気ないな。どうした?」
俺は少しうつむいているリンの様子が気になり、聞いてみる。
リンは立ち止まるとしばらく思い詰めた様な表情をして口を開いた。
「ルイ達はこれからどうするか決めたの?」
「あぁ、俺は何となく決まっているけど、皆がどうするかはまだ聞いてない」
「え? 一緒に行くんじゃないの?」
「うーん、コタロウは絶対一緒に行くって聞かないけど、他のメンバーにはなんか聞きそびれててさ……もうすぐ出立だから今日の夜にでも話そうかと思ってたんだ」
俺の答えにリンはふぅっと息を吐くとまた歩き出す。
「じゃあ、あなたはこれからどうするのよ?」
「――俺はとりあえず共和国に行ってみようと思うんだ!」
デリスフィード共和国――王国とは政治的に微妙な関係を保っている小国が集まって成立した国で異界人を市民として受け入れる制度を取っているとの事。
バーンの話では王国から異界人を転送した場所はこの共和国だという。
「共和国の市民になるの?」
「うーん、それはまだ分からないな。とりあえず、転送した異界人達が無事に暮らせているかが少し気になるから行ってみようかと思っただけさ」
俺はいつの間にか修練場の近くの湖に来ていた事に気が付く。
綺麗な水面を眺めながら、俺とリンは自然と腰を下ろした。
「その後でやりたい事はあるんだけどな」
「やりたい事?」
俺が考えて考え抜いた末に出した俺のやるべき事。
そして、俺がこの世界で命を懸けてでもやりたい事。
その答えは既に出ていた。
「俺さ……魔獣や異界人達が安心して暮らせる場所を作りたい! そしてそこを拠点に人間と魔獣が共存できるような道を探したいんだ!」
夢物語を語っている自覚はある。
だから正直、また呆れられたり笑われたりするかなと思っていた。
しかし――
「本当に……そんな夢の様な場所があったら素敵でしょうね」
俺がリンの方へ振り向く。
リンは湖面が反射した光を浴びながら優しく微笑んでいた。
※
その日の夜。
俺は皆を部屋に招き、今後についての話し合いの場を設けた。
その場には昼間に同席を希望したリンの姿もある。
「もう少しで俺はここを発とうと思っている。それで皆がこれからどうするのか聞いておきたいと思って……」
俺の真剣な面持ちに他のメンバーも少し緊張しているようだった。
「ぼ、僕はルイさんと一緒に行きますよ! どんな時だって一緒です!」
コタロウが焦ったように俺にしがみ付いてくる。
まぁ、コタロウの意思は前から聞いていたし、今更拒むつもりもない。
一緒に転生した時からもう、運命を共にしているようなものだしな。
問題は他のメンバーの回答である。
「なんだそんな事かよ!」
この緊迫した空気にメガロの声が響く。
「俺はな。もう帰る場所もねぇし、お前らの事を本当の仲間だと思ってんだよ! だから今更、別れるなんて寒いことは言わせねぇぜ! それにお前が俺に言ったこと、忘れたわけじゃねぇだろうな?」
俺はメガロと会った湖を思い出す。
「ろくな道じゃないが何か見つかるかもってやつか?」
俺の言葉を聞いてメガロはニヤリと笑う。
「本当にろくな道じゃねぇがな。 せっかく見つけたもんを手放す気はねぇぜ!」
俺とメガロはお互いの顔を見て笑い合う。
「いやぁ、魚が熱くて焼き魚になってやがるね」
良い雰囲気をぶち壊す様に、いきなりバーンが口を挟んできた。
「俺っちも同行はするよ。君たちといるとしばらくは退屈しなそうだし……ただ、こう暑苦しくっちゃ不死鳥の出る幕が無いってぇの!」
メガロとバーンはお互いに火花を散らしながら睨み合う。
この二人は修羅場をくぐっても変わらないな。
二人の事は一旦置いといて、残りのメンバーの意思を聞くことにしよう。
「お、俺は――」
シュウスケだ。
「できれば俺もルイさん達と一緒に旅がしたいっす! 足手まといかもしれないっすけど……それにエリザさんの行方も探したいですし――」
確かに異界人であるシュウスケを一人で行動させるのは危険だ。
ちょうど共和国に行くことだし、そこで改めて意思を確認することもできるだろう。
残るは――
「フェル……」
俺は目を閉じて黙っているフェルに俺は声をかける。
「ルイ、少し付き合え」
フェルは部屋から俺を呼び出し、巨大化すると俺を乗せて飛び立った。
「フェル?」
「他の奴らには聞かれたくない話なのでな……」
俺はフェルの背に揺られ、月夜の空を飛んでいくのだった。