第五十歩 【狩る者たち】
龍人族の村での戦いは激化の一途を辿る……
戦闘の衝撃が振動となり、木上の家々を揺らす。
リンを筆頭にホムンクルスたちの猛攻を何とか押しとどめている俺達だったが、相手には余力があり、どんどん追い詰められていく。
「このままじゃマズイですよ」
「何とか打開しないと……」
俺はリンに振りかかる刃を何とか受け止めながら、状況を確かめる。
指揮官である男は少し離れたところで十体ほどのホムンクルスを従えて状況を観察している。
残りのホムンクルスを差し向けないのには何か理由があるのか?
とにかく、目の前の五体を何とかしないとどうしようもないが……
よし、やってみるか!
俺は〝言語理解〟のスキルを呼び出す。
言語理解Lv.3発動!
『リン、コタロウ! 聞こえるか?』
『え? ルイ?』
『何でルイさんの声が?』
あの資料館で様々な言語が記載された本を見つけた俺は〝言語理解〟の肥やしになるのではないかと読み漁った。
その思惑は大当たりで俺が資料館から出る頃には言語理解はLv.3になっていた。
追加された効能は二つ。
その一つが〝繋がる言葉〟
いわゆるテレパシーであるが、条件がある。
これは実際に言葉を交わした者にしか届かず、範囲も俺の声が届く範囲だという事。
まぁ、今回の様な密談には使えるから良しとしようか程度の能力である。
『リンは見たことがあると思うけど、ボトルで奴らの動きを一気に封じる! でも、バインドボトルで拘束できるのはせいぜい三体ってところだ。残り二体の処理をどうするかなんだが……』
『そっちは私に任せて! ボトルを避けようとすればある程度動きが見切れると思うから!』
『なら、拘束したホムンクルスは僕が魔法で倒します! 動いていなければ当てられますから!』
『よし、なら俺が囮になる。ボトルを仕込み終わったら二人は一旦退いてくれ!』
俺たちは示し合わせると陣形を崩す。
二人はより前線に出て、指揮官から俺への死角を作る。
その隙に俺はボトルに水のイメージを込めるのだ。
ストックボトルは属性のイメージをボトルに付与する事で術式が発動し、使える状態になる。
そのボトルを地面に上だけ出るように埋め、俺はリンたちに合図を送る。
俺の合図を受けたリンたちは頷くとホムンクルスを先導したまま俺の下まで退き、魔力を高める
ホムンクルスの習性は以前の戦いで把握している。
一番近い対象として俺を見定めれば俺に向かってくるはずだ。
男が俺に目を向けた時はもう遅い。
ホムンクルスたちは一斉に俺に向かって飛び掛かった。
「よし! ウォーターバインドボトル!」
別に叫ぶ必要は無いんだが、なんか雰囲気でさ……
――でも効果は絶大だ。
ボトルから発せられた水の帯は三体のホムンクルスを地面に押し付け、残る二体のホムンクルスも水を避けるために動きが単調になる。
その一瞬をリンは見逃さない。
「龍人気闘:D.light!」
魔力が込められた短刀は一列に並んだ二体のホムンクルスをまとめて切り裂く。
一方、バインドされたホムンクルスに対峙するのはコタロウ。
コタロウは魔力を尻尾に収束する。
コタロウが魔法を使っているのを始めてみたが、魔力効率もイメージも俺の比じゃないな。
こりゃ本格的にわんこウィザード目指せるんじゃないか?
「行くぞ! ウインド・スプレッド・スラッシュ!」
コタロウが放った複数の風の刃は拘束されているホムンクルスをバラバラにする。
「よし! 流石、リンとコタロウだ!」
俺は作戦が成功し、歓喜の叫びをあげる。
しかし、その喜びは大きな悲鳴で掻き消されることになる。
「キャァァァァ!」
それは子供の声。
そこで俺はあることに気付く。
指揮官と共にいたホムンクルスが五体ほどになっている。
まさか――
俺は悲鳴が聞こえた方を見ると物陰に隠れていたシュウスケ達にホムンクルスが迫っている。
シュウスケが子供たちを上手く逃がそうとするが、先回り江押されて袋の鼠状態だ。
「チクショウ!」
俺はシュウスケ達の下へ駈け出そうとするが、残りのホムンクルスが立ち塞がる。
「これが狙いだったのか!」
「貴様らがこれほどやるとは思っていなかったがな……そして!」
視界から男が掻き消える。
俺が辺りを見渡すと、男はリンの背後に立っていた。
「リン! 危ない!」
俺が叫んだ時には男の剣がリンに向けて振り下ろされる。
「ウアァァ!」
リンはとっさに振り向こうとしたが間に合わず肩口から右の翼までに傷を負ってしまう。
俺はホムンクルスにパラライズボトルを使って押し退けると、倒れたリンに二撃目を振り下ろそうとしている男の剣を受け止める。
しかし男の剣は鋭く、素人の俺に受け止めきれるはずがない。
そのまま剣を弾かれ、返す斬撃で俺は袈裟斬りにされてしまう。
「ゲフゥ! ウガッ!」
男の前に膝を付き、血を吐く。
俺は痛みと喉を逆流して気道を塞ぐ血に意識を刈り取られそうになるのを必死でこらえるが、剣を支えに何とか倒れないのが精一杯だ。
「ルイさん!」
コタロウが動き出そうとするが、俺は〝繋がる言葉〟でそれを制止する。
『く、来るなっコタロウ。お前だけでも逃げろ!』
コタロウは涙をいっぱいに浮かべて顔を横に振っているが、この状況は絶望的だ。
俺の閉じていく目には上へと持ち上がっていく刃が見える。
「手こずらせてくれたものだ。異界人にしてはと褒めてやろう」
男は剣を掲げ、言い放つ。
「グッ!」
俺がどんなに力を入れようと身体は動かない。
俺の目が完全に閉じようとしたその時だった。
ドゴォォォォ!
大きな地響きと共に小屋の一つから水柱が上がる。
その水は激流となり、シュウスケ達を襲っていたホムンクルスを押し流すと目の前の男に迫って来る。
「チィッ!」
男は一気に飛び退くと水は俺とリンを包み、シュウスケ達の下まで運んでくれた。
「オウオウ! 俺がちぃとばっかし寝てるうちに俺の仲間を随分と可愛がってくれたみたいじゃねぇか!」
久しぶりに聞くその声が響き渡ると俺たちの心には希望が満ちる。
「まさか、こんな奴までいるとはな……かなりの大物だ」
男が残ったホムンクルスをかき集め、見つめる先には悠然と空中を泳ぐ巨影。
「メガロ!」
シュウスケが叫ぶと、その影は大きな口を吊り上げるのだった。
メガロ復活!