第四十七歩 【魔導傀儡《ホムンクルス》の襲来 後編】
資料館に急ぐルイとリン。
コタロウを救え‼
俺はリンと共に資料館の近くまで来ていた。
先程までと違い森は異様な雰囲気に包まれている。
「ルイ、危ないっ!」
俺は後ろを走っていたリンに突き飛ばされ、地面に突っ伏す。
それと同時に俺の頭があった辺りに斬撃が飛んだ。
「何者!」
地面に顔が埋まり動けない俺をよそにリンの声が聞こえる。
俺はようやく地面から顔を起こすと、リンと対峙している存在に目を向けた。
それは浅黒い肌を持つ人形模型の様な奴で、右腕には鎌のような刃物が付いている。
「何だこいつ!? 少なくとも人間じゃないよな?」
「そうね。得体が知れないわ……明らかに敵対してるしね」
俺はその場にあった太い枝を構える。
何もないよりはましだと思いたい……
「リン、ここにこんな奴がいるって事はコタロウが……」
「えぇ、もし仲間がいるとしたら危ないわね。さっさと片付けるわよ!」
リンはそう言うといつもの短剣とダガーを抜き、敵に突撃していく。
リンのスピードは龍人族の中でもかなりのものらしく、それこそ上はニーズくらいなのだそうだが……
ガキィィン‼
金属音が響き、リンの短剣が鎌に受け止められる。
リンは怯まずに敵の正面で身体をひねると急速に向きを変え、側面からの攻撃に移るが全ての攻撃は最小限の動きで受け止められてしまう。
「こいつ……なかなかやるものね!」
リンは身を翻すと、敵の背面に回り、次の一撃を繰り出す。
しかし、敵は関節を人間では有り得ない方向にグニャリと曲げると、容易くリンのダガーをいなした。
そこで俺はある事に気が付き、距離を取って着地したリンに急いで近づいていく。
「リン、避けろ!」
俺はリンを押し退けると枝を思い切り振るうが、その枝はバラバラに両断され、地面に落ちる。
それが目に入った時には俺の肩口を鋭利な爪が引き裂いていた。
「うぐぁぁぁぁ!」
激痛に襲われた俺はそのまま地面に倒れ、血が流れだす肩を押さえる。
俺に傷を負わせたのは茂みの中から現れた二体目。
こいつは両手が鋭利な爪になっており、一体目よりも一回り小さい。
二体目は倒れ込んだ俺を見下ろすと爪を構え、振り下ろす。
追撃されかけた俺をリンが寸でのところで掻っ攫う。
「ルイ! 大丈夫?」
「あ、あぁ。傷は浅いから大丈夫だ。でも、一体だけじゃなかったんだな!」
「えぇ、ルイがいなかったら気付けなかったわ。でも、良く分かったわね?」
俺はまぁなと受け流しつつ、敵の様子を窺う。
一体目は棒立ちのままだが、二体目はせわしく動き回り攻撃の隙を窺っている様だ。
もしかすると……
ドンッ!
俺が考えを巡らせていると資料館の方で大きな音がした。
まるで何かが戦闘しているかの様な鈍い音だ。
「クソっ、悩んでいる暇はねぇ。リン、俺に策があるんだ。聞いてくれ!」
俺は敵の様子を警戒しつつ、リンに耳打ちをする。
「そ、そんな作戦! 怪我もしてるし危険よ!」
「そうじゃないとこいつらの隙は突けない。恐らくだが、奴らは誰かの指令で動いていて、戦闘技術を一つに統一する事で能力を底上げしているんだと思う。そこを突けば何とかなるはずだ!」
俺はリンに目配せをすると、一体目に近づいていく。
一体目は動かないが、俺がリンから離れた瞬間に二体目が俺に向かって襲い掛かってきた。
「やっぱりな……一体目は防御と陽動。二体目が潜伏と攻撃か。それを利用して動きを封じる。〝レッグパワード〟!」
脚力を強化し、紙一重で二体目の飛び避けると一体目に肉薄する。
俺は後ろから二体目が追い付いてきたのを見計らい、懐から緑のボトルを一体目めがけて放り投げる。
一体目が俺の予想通りに自分に飛来するボトルを切り裂いたのを確認すると強化魔法がかかった脚力で一気に離脱した。
切り裂かれたボトルからはパラライズの魔法が発動し、二体の動きを止めた。
「今だ、リン!」
俺が叫ぶと、翼を広げたリンが思い切り息を吸い込んでいた。
これってまさか……
「〝フレイムブレス〟!」
リンが思い切り噴出した息は猛烈な火炎となり、動きを止めた二体を襲う。
一体は焼き尽くされ、二体目も頭部を残して灰と化した。
「す、すっげぇな! でもさ、最初からこれ使ってれば良かったんじゃないか?」
「そうもいかないわ。ドラゴンブレス系は大量の魔力を消費するし、準備段階から吐き終わるまで無防備になるのよ。あなたが動きを止めてくれなきゃ決まらなかったわ」
俺たちは転がっている頭部を拾うと、資料館に向かう。
※
資料館に着いた俺たちは唖然とした。
周囲には戦闘したような跡があり、その隅には真っ二つの人型と誇らしげに胸を張っているコタロウ。
え? もしかして……ってか、もしかしなくてもコタロウが倒したの?
俺たちは倒したのであろう人型をじっくりと観察するコタロウに近づいていく。
ある程度近づいたところでコタロウが俺たちに気が付いたらしく、こちらを向いた。
「キャヒィィィィィン!」
コタロウは尻尾を踏まれたかのような声を挙げた思いっきり飛び退く。
コタロウが振り向いた先にはちょうど俺が持ってきた人型の顔があったので驚くのも無理はない。
「おいおい、俺達だよ! 無事だったか?」
「あ、ルイさぁん! もう、びっくりしましたよ!」
俺はゴメンゴメンと謝りながら上下に真っ二つの人型を見る。
「なぁ、これって――」
「はい! 僕が覚えた魔法で倒しました!」
胸を張るコタロウに俺とリンは目を丸くした。
「え? 覚えたってここの資料館で? 覚えたての魔法で倒したって事!?」
「えぇ、イメージしやすいように前に見た魔法を参考にして使ってみました!」
何とも優秀な事を言い連ねるコタロウに俺はただただ唖然とする。
確かに、俺の役に立つんだと張り切ってはいたが……まさかここまで成長してしまうとはね。
なんか子供の成長を垣間見た親の気分――置いてけぼりをくらったような気持ちだよぉ。
「全く、あなた達には驚かされるわ。いつの間に色んなことが出来るようになったの?」
「ん? 俺も?」
「あのボトル。一体何なのよ?」
あぁ、あのボトルについてリンには話してなかったな。
「ランズさんって人のこと話したろ? あの人に頼んで作ってもらった魔道具だよ」
「ランズさんって……王国にいるんでしょ?」
不思議がるリンに資料館の中で起きたことを話す。
実はあの後すぐにこの魔道具〝ストックボトル〟の試作品を送ってくれていたのだ。
それも三つ。
「なるほどね。それで、あなたが握っているその趣味の悪い頭はどうするつもり?」
「そうそう、これについてそのランズさんなら何かわかるんじゃないかと思ってね!」
俺は左腕の腕輪を起動するとランズさんに繋ぐ。
『なんじゃ、お早い連絡じゃのう! 何か素材は見つかったのか?』
「ちょっと見て欲しいものがあるんだ。今、龍の里に侵入者が入り込んでいて、その正体なんだけど……」
俺はランズさんに見えるように頭をかざす。
するとしばらくの沈黙の後にランズさんが微かな声で答える。
『まさかな……こんな物が完成していようとは』
「何か知っているんですね!」
『あぁ、それは……魔導傀儡じゃな』
重々しく言い放つランズさんとは裏腹に俺たちは彼の言っている意味を把握することが出来なかった。
魔導傀儡とは一体何なのか?
その目的は?