けものの寄り道 ~コタロウ初陣!~
一方、資料館に残ったコタロウは――
僕は初めて触れる知識に夢中になっていた。
ルイさんとこの世界に渡って、いろいろな経験をして、たくさんの事を考えた。
その考えたことの答えをここにある本たちは教えてくれている。
そう思うと僕はページをめくる前足を止めることが出来ない。
それに、この本を読み進めることで僕の恩人の力になることが出来るなら、こんなに嬉しいことは無い!
僕は本の中に描いてある魔法や技術を詰め込めるだけ頭に詰め込む。
遂に五冊目の本を読み終えた時、外から変な匂いがすることに気付いた。
「何だろう……人じゃないし、龍人族や龍族の人たちでもなさそう」
僕は違和感の正体を突き止めようと資料館の外へ出る。
一見静かにだが、変な匂いは辺り一面に充満しているようだった。
「僕が感じられるって事は魔力の匂いだろうか? でも、一体どこから?」
僕は魔力の元を嗅ぎ分けようとするが、この匂いは四方八方から発せられているようで、鼻は役に立ちそうにない。
「うーん、どうしようかなぁ。このままじゃルイさん達の匂いも辿れないや」
ミシッ!
僕の耳が反応する。
資料館の屋根の上、そこに意識を集中すると一帯を包んでいる匂いが一層強く感じられた。
何かが資料館の上にいる。
僕がそう悟った瞬間に、匂いが急激に強まる。
「うわっ!」
僕が本能的にその場から飛び退くと、浅黒い物体がそこに落下して来た。
「な、なんだ? 動いているし、人? でも、魔力の匂いが強すぎる!」
その浅黒い物体はギチギチと音を立てながら、体勢を立て直す。
見た目は人間に近いが、関節をきしませながら立ち上がる動きが気持ち悪い。
「なんだお前は! ここの人たちではないな! どうやって龍の里に入ったんだ!」
今の僕は〝共有〟の力でルイさんの〝言語理解〟の権能を借りているのだから、知性がある相手ならば話が通じるはずだった。
しかし、僕がどんなに吠えようとその人型の何かは反応しない。
ギッギギギギギギギィィ!
完全に立ち上がった後に全身から軋んだ音を出す人型はまるでごみ捨て場に捨てられていた人形の様な感じがする。
こんなものが入り込んでいるなんて――早くみんなに伝えなくちゃ!
僕は後ろを向いて走り出そうとするが、そこである事に気が付く。
それは後ろの森からも同じような濃い匂いがこちらへ近づいている事だった。
「まさか、一体じゃないって事?」
匂いの元は全部で五つ。
うまく鼻が利かないこの状況ではこの数が正しいかは愚か、どう逃げればいいか分からない。
だとしたら、もう方法は一つしかない。
「本で読んだばっかりだけどやってやる! 僕だって役に立つんだ!」
僕は屋根の上から落ちてきた人型に向かって吠える。
その声に反応した人型は四つん這いになり、僕に向かって飛び掛かってきた。
「行くぞ! フロート!」
僕は空中に体を浮かし、体当たりを回避する。
フェルさん程はうまく飛べないけど、それでも何とか回避程度には使えそうだ。
人型は一度地面に下りると、間髪を入れずに襲い掛かってくる。
そのスピードはかなり素早く、僕は五感をフル活用して逃げ惑うだけで精一杯だった。
そうしている間にも森から届く匂いはどんどん強さを増している。
「何とか活路を見出さないと。何か使える魔法は……」
僕は魔導書で読んだ魔法を総ざらいしていく。
森の中で素早い相手を足止めできる魔法……あれだ!
僕は大きな木を背にして、構える。
そんな僕に人型は問答無用で突進を繰り出してきた。
「今だ! アイヴィーバインド!」
僕がその突進を避けながら発動した魔法は木に巻き付いていた蔦を動かし、人型の動きを止める。
「これで決めてやる! ウインド――」
僕は空中でくるくると回りながら、尻尾に風のイメージと魔力を収束させていく。
「――スラッシュ!」
尻尾から発せられた風の刃は人型を一刀両断に切り裂いた。
動かなくなった人型を見て、安堵した僕の心にはそれと同時に嬉しさが込み上げてきた。
「うわぁ、本当に・・・・・・僕にも魔法が使えたんだ!」
僕は嬉しくて、誇らしくて堪らなかった。
これでもっとルイさんの役に立てると思ったからだ。
それが僕の油断に繋がったのは言うまでもない。
僕がふと、森の方を振り向くとそこには人型の顔が目の前にあった――
コタロウの運命はいかに!