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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 5本目 決意の道
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第四十七歩 【魔導傀儡《ホムンクルス》の襲来 前編】

龍の里へ起こり始める異変……

 俺たちが村へ戻ると広場に龍人族が集まっていた。

 その中心にはドレイシア一族が見える。


「ルイ、無事でよかった!」


「ニーズがあの笛は侵入者を知らせるものだって言ってた! 本当なのか?」


「ニーズ? ニーズと会っていたの? あの子はどこ?」


 リンがニーズを心配していると、頭上から声が聞こえた。


「ここにいるぜ!」


 その声と共に上空から降りてきたニーズは何かを抱えている。


「ニーズ! それは……」


 バルファさんが絶句するのも無理はない。

 ニーズがそっと地面に置いたのは角、翼、尻尾が削がれた龍人族の変わり果てた死体だった。


「ひ、酷い。一体誰がこんな事を……」


 あまりにも惨たらしい様を見て声が漏れる俺にニーズが噛みつく。


「誰がだと? こんなことする奴らなんて決まってるじゃないか! 人間だよ!」


 ニーズが発した言葉に空気が張り詰める。


「ただ殺されただけじゃない。こんな部位を削ぎ取るような真似をするのは人間だけだ!」


 俺は返す言葉が無かった。

 魔獣や魔物だったらこんな殺し方はしない。

 それは誰の目で見ても明らかだったのだ。

 これは素材集めの様に龍としての部分だけを回収している。

 転生前に密猟者による被害を何度か見たことがあったが、これは人間……しかもプロの技だ。


「ニーズ! ルイ殿を責めても仕方が無かろう! 今は侵入者を捕らえるのが先だ!」


 バルファさんは侵入者を探すグループと非戦闘員を守るグループに戦士たちを分けた。


「私とファニルは龍族の方々の下へ行き、防備を固める算段を付けてくる! リンとレヴィはルイ殿たちを頼むぞ!」


「親父! 俺は?」


「お前はリンたちと共に留まれ。実戦経験のないお前を勝手に動かさせるわけには行かん!」


「ま、待てよ!」


 ニーズの声はそれ以上届かず、二人は洞窟の奥へと消えていった。


「チクショウ! 俺の力を甘く見やがって!」


「お父様の言う通りよ! あなたはまだ実践を経験していないんだから、集団での作戦は周囲の士気を乱すことになるわ!」


 レヴィが宥めようとするが、ニーズの不満は収まらない。


「だったら、俺単独で十分だ! 俺が絶対に犯人を捕まえてやる!」


 ニーズはそう叫ぶとリンとレヴィの制止を無視して、飛び立ってしまう。


「リン、みんなをよろしくね。私がニーズを!」


 レヴィがニーズを追っていき、その場には俺達しか残っていない。

 そこで俺はあることに気付く。


「あれ? フェルとコタロウは?」


 その場にいるのは俺、リン、シュウスケ、バーンだけ。

 黒と白の毛玉がどこにも見えない。


「フェルさんは今朝に出て行ったきり帰って来てないっすけど、コタロウはルイさん達と一緒にいたじゃないっすか!」


「ま、まさかあいつ、まだ本に夢中になってるってのか!?」


 俺は耳もよく利くコタロウの事だから、てっきり先に来ているものだと思っていた。

 しかし、初めて触れた本というものはコタロウにとって野生の感を鈍らせるほど魅力的なものだったのだろう。


「俺、コタロウを迎えに行ってくる!」


「一人じゃ危ないわよ! 私も行くわ! ……でも」


 リンは不安そうにシュウスケ達を見た。


「安心しなよ! 俺っちがしっかりと付いててやるぜ! それに、ちぃとばかしあの被害者の事も調べたいんだよねぇ!」


 バーンがその場を引き受けてくれたので、俺とリンは修練場の手前にある資料館へと走ったのだった。


 犯人を見つけるため、森の中を低空飛行していたニーズは内心面白くなかった。

 自分は龍人族の長であるバルファの下に生まれた龍神族の次期当主になるべき者であり、そのためにはだれよりも強くなくてはならないと思っていた。

 それが自分の存在証明になると信じて疑わなかったのだ。

 しかし、今回の一件でその存在価値が揺らぐ。

 それはルイの存在だった。

 次期龍王の教育係兼護衛の任に就くほど強かった姉が認め、龍王や偉大な父が褒め称える異界人。

 だがその強さはニーズはおろか龍人族の新兵にすら劣る。

 ニーズはそれが許せなかったのだ。


「一体何なんだあいつは……何でみんなあんな奴に付いて行くんだ?」


 その疑念がニーズの行動を性急にしていたことは言うまでもない。


「ニーズ、止まりな!」


 後ろからレヴィの声がしたかと思えば、レヴィは一瞬のうちにニーズの前へと回りこんでいた。


「いい加減、駄々をこねるのはやめたらどう? 今は子供の我が儘に付き合っている場合じゃないんだけど」


「うるせぇ! 俺はこの里にいる誰よりも強くならなきゃいけないんだ! あんな力のない異界人とは違う!」


 レヴィとニーズはしばらく睨み合うが、ある時を境にその意識は周囲の茂みに向けられるようになった。


「7人……いや、9人?」


「いいえ、どんどん集まって来てる。まるで私たちに呼応しているかの様ね」


 二人はゆっくりと背中合わせになるとニーズはロングソード、レヴィは手甲を構える。

 周囲の茂みは次第に大きく騒めくようになり、ほどなくしていくつもの影が一斉に二人に向けて飛び掛かった。

 そのスピードは下手をすれば龍人族の一般兵士をも上回るレベル。

 二人は冷静に翼を広げると上空へ飛び退く。


「な、なんだあいつらは?」


 驚愕したのも無理はない。

 二人が元居た地点を見るとそこに群がっていたのは得体のしれないもの。

 人間の様なフォルムをしているが関節はあらゆる方向に曲がり、生気が全く感じられない木偶人形の様な感覚。

 それが動いているだけでおぞましいと思えてしまう。


「な、なぁ、レヴィ姉。あれ何なの?」


 いつもは強がっているニーズも目の前の光景に素が出てしまい、姉に答えを求める。


「分からないけど……放って置いて良い物じゃないってのはわかるだろ? 急いで皆に伝えるんだ。急ぐよ!」


 レヴィがニーズの腕を引こうとしたその時だった。


ブワッ!


 ニーズの視界が陰ったかと思えば、レヴィの姿が掻き消える。


「え!? れ、レヴィ姉っ!」


 次の瞬間、ニーズは落下していくレヴィの姿を捕らえた。

 その身体には翼を封じるように木偶人形が抱き着いている。


「だ、駄目だ! 離れないっ!」


 レヴィは苦悶の表情を浮かばながらもがくが、木偶人形はビクともしない。


「ま、待てっ! レヴィ姉を離せっ!」


 落ちていくレヴィを追うようにニーズも降下していく。


「ニーズ! 私の事は構うな! 皆にこのことを伝えろ!」


 レヴィはそう叫ぶがニーズには届かない。

 そして、二人はまだ知らなかった。

 二人が遭遇したこの事象は今、龍人族の村へいる全ての者に振りかかりつつあることを――

得体の知れない敵に襲われた龍の里の運命やいかに!

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