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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
けものみち 1本目 出会いの道
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第五歩 【出発と疑問】

 何を始めるにも先立つものが必要なのはどこの世界も同じだ。

 決して理解していなかったわけではないはずだったが……考える暇がなかったと言っておこうか。

 しかし、まいったな。


「おい、急に呆けるな!」


 フェルの声ではっと我に返る。


「あ、あぁ、悪い。」


「分かり易い動揺だな。

 まぁ、安心しろ。それについては考えがある」


 フェルがため息交じりに俺の目線を誘導する。

 俺が目線を移した先にはさっき使った花の残りが積まれていた


「あぁ、なるほど!」


「あの花を持っていって売るんですね!」


 俺とコタロウはお互いの顔を見合わせて頷く。


「その通りだ。

 その花は人間たちによって貴重な素材らしいからな。

 それなりの金になるだろう」


「こんなに山盛りだと貴重とは思えないけどな」


「結構、集めるのも簡単でしたからね」


 まぁ、魔物がうようよいる深い森の奥に人が簡単に足を踏み入れられるとは思えない。

 それにこんなに集まったのもコタロウのスキルのおかげなわけだからなぁ。

 となると――気になるのは


「ここから町まではどのくらい?」


「人間の足では7日くらいは覚悟しておかなければならんかな」


「ま、マジか!」


 フェルから告げられる言葉は容赦なく俺たちに現実を突き付けてくるな。

 7日って……

 町に着く前に死ぬ未来しか見えないぞ?

 俺が途方に暮れていると、またフェルのため息が聞こえてきた。


「だから急に呆けるなと言っている! そう心配するな、恩は返すといっただろうが! 

 我が送って行ってやる」


「え? 本当にいいのか?」


 フェルの提案はとてもありがたいが、そんなに甘えていいものだろうか?

 恩を返すって言っても、俺たちだってフェルに助けてもらってばかりいる気がするし――


「我も追われている以上、このままここにいるわけにもいかんのでな。

 気にするな」


「そう言えば、追われてるって――フェルさんみたいな強い方を追いかけまわすとは、どんな奴らなんです?」


 そうそう、俺もそれは気になっていたところだ。


「さぁな、我の縄張りに突然攻めてきた奴らなんだが、詳しいことは知らん。

 ただ、追撃をしてきたところを考えると、目的は我自身だと考えるのが妥当という話だ」


 なるほど、少々ヤバそうな話だな。


「――とは言っても、お前たちを巻き込む可能性がある。

 無理にとは言わんぞ」


「いや、俺たちも便乗させてもらわないと絶対たどり着けないとだろうし……一緒に行かせてくれ!」


 巻き込まれるとかいう前にこんな森の中に俺たちだけで取り残されたら確実にお陀仏だ。

 これからどうするにせよ人里に下りてこの世界の情報を集めないといけない。

 フェルが一緒についてきてくれるなら俺たち一人と一匹よりも安全だと思う。


「そうと決まればさっそく出立しよう。

 日が暮れてしまうと移動どころではなくなるからな」


 俺はフェルに急かされ、ポロシャツで花の残りを包む。


「今のうちに背に乗っておけ。

 大きくなってからでは大変だろう?」


「そういえばさっき小さくなってましたね。

 大きくもなれるんですか?」


 コタロウが背中によじ登りながら尋ねた。


「我は自分の大きさを自在に変えるスキルを持っているのだ。

 お前と同じ大きさにだってなれるぞ」


 この世界のスキルってのは便利なもんだな。

 俺がこっちに来る時に聞いたダメスキルの数々と比べてもよほど役に立ちそうだ。

 むしろ、さっき見せてもらった治癒魔法にも劣るのだから転生者の生存率が高くないことも十分に理解できるというもの。

 俺は深く納得しながらフェルの背に乗る。


「振り落とされないように掴まっておけよ!」


 そういうとフェルはぐっと力を入れ、毛を逆立たせる。

 するとフェルの体がみるみる大きくなり、大型トラックほどの大きさになった。


「お前たちを乗せて飛ぶにはこのくらいか……準備はいいか?」


「あぁ、よろしく頼むよ」


 俺はそう答えるとコタロウをTシャツの中に入れ、フェルの背にしがみつく。


「行くぞ! フロート‼」


 魔法を発動させると体が浮き上がるのを感じた。

 フェルはまるで地面があるかのように空中を駆けていく。

 木々の合間を抜け、森を見下ろせるくらいまで上昇すると今までいたところがいかに大きな森だったか分かった。

 この森を抜けて街に行くだけでも7日かかるってのは頷けるな。


「町までは数時間かかる。

 少し体を休めておくがいい」


「あぁ、ありがとう。

 そうさせてもらうよ」


 俺とコタロウはこっちの世界に来てからの疲れからか、返事をするなり睡魔に襲われ眠ってしまった。

 


※ 

森視(もりみ)の町 オレスト付近》


 俺たちは町から少し離れた岩陰に降り立った。


「どうだ? 少しは休めたか?」


「あ、あぁ――大丈夫、オエッ!」


 ぐったりしているコタロウを抱えながら俺は口を押さえた。

 正直に言えば、フェルの背中で休めたのは最初だけだった。

 フェルがトップスピードに乗る頃には恐ろしいほどの風圧が襲い掛かり、睡眠どころではなかったのだ。


「ここからは人里になるからな。

 この大きさではまずかろう」


 フェルが体を震わせるとフェルの身体が徐々に縮み、コタロウと同じくらいになった。

 コタロウとフェルが並ぶと白と黒のコントラストが非常に可愛い。


「さぁ、町に行こうじゃないか! 素材を買い取ってくれる店までは案内してやろう」


 声も少し高くなったフェルの引率で街へと向かう俺たちだが、少し疑問に思ったことがある。

 フェルの様な魔狼がなぜ人間の町や素材に詳しいのだろうか?


「どうした? 我の頭に何かついているか?」


「いや、何でもないよ」


 むやみな詮索は無粋だと思うし、過去を聞かれたくない奴だって多いしな。

 俺だって、森の中で全部話せたって訳ではないし……

 俺は一度その疑問を胸の中にしまい込み、街に向かった。


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